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「ワールドコイン」正式開始、本誌が指摘していたずさんな実態
Worldcoin
Worldcoin just officially launched. Here's why it's already being investigated.

「ワールドコイン」正式開始、本誌が指摘していたずさんな実態

オープンAIのサム・アルトマンCEOらが共同設立した「ワールドコイン」が、正式にサービスを開始した。だが、個人データの扱いをめぐって複数の国で調査対象となっている。本誌は1年前にその実態を報じていた。 by Tate Ryan-Mosley2023.08.17

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

「ワールドコイン(Worldcoin)」という名前を最近、耳にしたことはないだろうか? 良くも悪くも、ワールドコインは今、注目を浴びている。

ワールドコインは、暗号通貨を使って世界中にお金を流通させると主張しているが、実はもっと大きな野望を抱えている。個人のユニークな生体認証データを使って「人間であること」を証明する、「ワールドID(World ID)」と呼ばれるグローバルなID管理システムを構築することだ。ワールドコインは2023年7月24日、20カ国以上で正式にスタートした。共同設立者の一人は、オープンAI(OpenAI)の最高経営責任者(CEO)であり、今やテック業界の有名人であるサム・アルトマンだ。

ワールドコインは、「テクノロジーを通じてユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI:Universal Basic Income)を提供し、世界をより良い公平な場とする一方で、人間以外の知性があふれる未来のデジタル世界において、人間であることを証明する方法を提供する」という大きな理想を掲げている。これをプライバシーを脅かす悪夢のように感じるのは、あなただけではない。

幸いなことに、MITテクノロジーレビューには、ワールドコイン専門家と呼ぶべきメンバーが在籍している。本誌のアイリーン・グオ記者は昨年、フリーランス記者のアディ・レナルディと共にワールドコインを調査し、その運営実態が崇高な目標からほど遠く、弱い立場にある多くの人々からお金と引き換えに機微な生体データを収集していることを突き止めた。

この記事のハイライトは以下の通りだ。

「MITテクノロジーレビューの取材により、プライバシー保護に重点を置いたワールドコインの公式メッセージと、ユーザーの体験との間には大きなギャップがあることが明らかになった。MITテクノロジーレビューは、ワールドコインの担当者が欺瞞的なマーケティング手法を用いて、相手の十分な同意を得ずに予想以上の個人データを収集していたことを突き止めた」。

ワールドコインはさらに、テスト・ユーザーの機密データを匿名化し、人工知能(AI)モデルの訓練にも利用していた。グオ記者とレナルディは、個人データがAIの訓練に利用されていることがユーザーに知らされていなかったことを突き止めている。

ワールドコインが機微な個人データをどう扱っているのか、同社の理想主義的な美辞麗句と現場の実態がどう異なっているかをよく理解するため、ぜひ本誌の調査報道記事を読んでほしい。この記事は、ワールドコインの幹部、請負業者、そして主に途上国で集められたテスト・ユーザーたちとの35回以上のインタビューに基づき執筆されたものだ。

少なくとも4カ国の規制当局が、プライバシー慣行に関する懸念を理由に、ワールドコインへの調査をすでに開始している。だが、グオ記者とレナルディによる調査報道を踏まえると、驚くような展開ではない。ワールドコインは、主に過去2年の長期テスト期間に構築されたデータベースに、220万人分近くの「ユニーク(固有)な人間」のデータを取り込んだと主張している

そこで私はグオ記者に、昨年の調査から変わったことは何か、最新のニュースをどう理解すべきかを尋ねてみた。

ワールドコインの最高経営責任者(CEO)であるアレックス・ブラニアは、グオ記者の記事が出てから「データ収集とプライバシーに関する慣行の多くを変更した」と他社の報道で語っている。しかし、これを疑うだけの理由はいくつかある。 ワールドコインは、具体的にどう変更したかを明言していない。最も搾取的かつ欺瞞的な募集方法のいくつかを中止したと言っているだけだ。

グオ記者が最近ワールドコインと交わした電子メールでも、広報担当者は個人データをどう扱っているかについては明言せず、「ワールドコイン財団は、欧州の一般データ保護規則(GDPR)を含め、ワールドコインが参入している市場での個人データ処理に関する全ての法律と規制を遵守しています。ワールドコインは、プライバシーおよびデータ保護慣行に関してさらに多くの情報を求めている規制当局に、引き続き協力していく所存です」と述べているだけだ。

広報担当者はさらに、「ワールドコイン財団と、その支援団体であるツールズ・フォー・ヒューマニティ(Tools for Humanity)は、過去にユーザーの個人データを販売したことはなく、今後もその予定はありません」と強調した。

しかしグオ記者は、「これが真実です」と主張するワールドコインの言葉のほかには、(またしても)まったく根拠がないと指摘する。それが、各国の政府による調査で明らかになるであろう実態に注目すべき理由の1つである。

ロイター通信によると、調査の焦点となっているのはワールドコインによる生体データの収集が合法か否かという点だ。フランス政府とドイツのデータ保護機関は、昨年11月からワールドコインを調査している。7月25日、英国情報コミッショナー事務局(ICO)はワールドコインに対して「聞き取りをする」との声明を発表した。8月2日には、ケニアのデータ保護局も「ワールドコインがケニアのデータ保護法を遵守しているかどうかを調査する」と発表しケニアでのワールドコイン事業を停止させた

重要なのは、ワールドコインの中核的な目的が「人間であることの証明」を完成させることにある点だ。それにはAIモデルに学習させる大量のデータが必要だ。人間証明システムが広く採用されるようになれば、投資家にとって魅力的な儲け話になるかもしれない。現在のような「AIゴールドラッシュ」期においてはなおさらだろう。

ワールドコインは8月、他企業や政府が同社のIDシステムを利用できるようにすると発表した。

「他企業や政府が採用してもしなくても、ワールドコインが提案するIDシステムには、やはり問題があります。当然ですが、いくつもの重大な疑問が解決されないまま、より広範囲に使用されることになれば、事態は悪化するでしょう」と、グオ記者は言う。「しかしブラニアCEOも昨年そう言っていましたが、これまでで『最速』かつ『最大の暗号通貨とWeb3の導入』を実現するために人々を説得し、スキャンを受けさせて登録させるというやり方は、巧妙なマーケティング戦略だと思います」。

グオ記者は、「ワールドコインは、収集した生体データをAIモデルの訓練に今も利用しているのか、そして事業開始前にMITテクノロジーレビューに語ったように、テスト・ユーザーから収集し、訓練に使用した生体データを削除したのか、まだ明らかにしていません」と指摘する。

「実際に訓練を中止した、または中止するだろうと考えられる情報はありません。つまり、それがAIのポイントですよね? AIはもっと賢くなるはずから」。

テック政策関連の気になるニュース

  • 拘束力を持つ方針を独自に起草・発表できるメタの監督委員会は現在、中絶に関する誤情報をどう扱うか再検討している。ニュースサイトの「スレート(Slate)」に掲載された解説記事によると、現在、メタのモデレーションに関する決定に少し混乱が生じているという。今後数週間で、特に中絶情報に関する新たな方針が発表されることを期待しよう。
  • ツイッターが7月末に「X」に改名された。新たな独裁者であるイーロンの、「もはや誰も驚かないが、やはり驚くべき奇妙な動き」である。私が気に入ったのは、ケイシー・ニュートンによる死亡記事を思わせる記事だ。「マスクは440億ドルを投資したが、これはただの 『文化破壊』のための浪費行為にすぎない」というものだ。
  • ノーベル賞を受賞した経済学者のジョセフ・スティグリッツは、AIが不平等の助長させる可能性について懸念している。スティグリッツはサイエンティフィック・アメリカン誌に、人類が現在向かっていると思われる道から抜け出せるかもしれない方法について語っている。一読の価値ありだ。

テック政策関連の注目研究

ソーシャルメディア・ボットは、チャットGPT(ChatGPT)によって過度に強化されているようだ。インディアナ大学の研究者たちは、彼らが「fox8」と呼ぶ、1000以上のアカウントから成るツイッター・ボットネットに関する査読前論文を発表した。「人間が作り出したかのようなコンテンツを生成するために、チャットGPTが使用されているようだ」という内容だ。fox8は、偽ニュースのWebサイトや盗用画像を宣伝していた。AIや機械が生成する誤情報によって煽られるソーシャルメディア環境を憂慮すべき兆候である。テック・ポリシー・プレス(Tech Policy Press)には、この発見に関するすばらしい分析記事が掲載された。

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テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。
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