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グーグル、ネット検閲を回避するVPNのSDKを提供
Stephanie Arnett/MITTR
Google has a new tool to outsmart authoritarian internet censorship

グーグル、ネット検閲を回避するVPNのSDKを提供

グーグルのジグソー部門は、権威主義的国家などによるインターネット検閲を回避するVPNのソフトウェア開発キット(SDK)をリリースした。2022年にイラン政府が実施したインターネット遮断に対抗するために開発したものだという。 by Tate Ryan-Mosley2023.09.22

グーグルは、2022年のイランでの抗議デモの時にイラン政府が取った行動に対応した、新たな検閲回避テクノロジーの展開を進めている。これにより、世界中の権威主義的体制下で暮らすインターネット・ユーザーの利用増加を期待しているという。

インターネットの自由に関するシンクタンクの役割を担い、関連製品を開発しているグーグルの「ジグソー(Jigsaw)」部門は、無料かつオープンで暗号化されたインターネットへのアクセスを提供する「アウトラインVPN(Outline VPN)」などの検閲対策ツール群を以前から提供してきた。アウトラインは検知されにくいプロトコルを採用しており、ユーザーはインターネットへのアクセスを遮断したい当局にほぼ気づかれることなくネットを利用できる。

だが、2022年のイラン全土での民主化デモの際、イラン政府はすべてのインターネット・アクセスを断続的に遮断しただけでなく、アウトラインのようなVPNも標的にするなどの洗練された戦術で対抗した

ジグソーはMITテクノロジーレビューに対し、現在、ソフトウェア開発者キット(SDK)としてアウトラインのコードを公開し、他社のアプリに検閲対策機能を直接組み込めるようにしていると明かした。SDKを利用することで、より簡単かつ合理化されたユーザー体験が生まれる。例えば、ニュースアプリであれば、アプリのユーザーがVPNを別途設定してインターネットに接続する必要がなくなる。また、当局によるアクセス遮断方法の変更にも迅速に対応できるようになるという。

イランからの教訓

2022年9月19日、イラン政府は数日前に起きたマフサ・アミニ殺害に対する抗議デモの最中、首都テヘランでモバイル・インターネット・サービスの遮断を開始した。以前から技術的に洗練された監視を実行し、インターネットの利用を厳しく制限してきたイラン政府は、午後4時から深夜まで定期的にインターネットを遮断し始めた。

イラン国民の多くは、ワッツアップ(WhatApp)やインスタグラムなどのWebにアクセスする代替手段を探し始め、ある種の仮想トンネルを通じて他の地域にトラフィックをルーティングできるアウトラインのようなVPNの利用にたどり着いた。ジグソーでインターネットの自由を担当する主席技術者のヴィニシウス・フォルトゥナによると、アンドロイド版のアウトラインの1日の利用者数は2022年の秋にイラン国内でなんと1500%も急増したという。

だが同時に、イラン政府はアウトラインへのアクセスや、VPNを利用したアプリの通信を遮断することがあった。そのためジグソーのチームは、通信遮断を回避してインターネットへのアクセスを取り戻せる、新しいコードを迅速に公開して対処する必要があった。

これはジグソーにとっても、アウトラインをバックエンドで利用しているアプリにとっても難しい問題だ。変更に対応するにはコードを書き直さなければならなかったからだ。別の検閲回避支援アプリ「nthリンク(nthLink)」のエンジニアリング部長であるマーティン・ジューは、改修作業には数週間かかる可能性があり、その間ユーザーは検閲下に置かれてしまうと語った。

フォルトゥナ主席技術者によれば、SDKを提供するアイデア自体は数年前からあったものの、今回リリースしたSDKはイラン政府による妨害に直接対応したものだという。

フォルトゥナ主席技術者はまた、SDKを通じてジグソーは、「他の人々にとって有益と思われる」アウトラインのコンポーネントを切り出し、ライブラリーを構築していると説明する。これにより、プラグアンドプレイのような機能が有効になり、他の開発者がライブラリの要素を利用して、自社製品に検閲耐性を組み込めるようになる。

重要なのは、SDKを利用することで、さまざまな企業の開発者が同じコードで作業しやすくなり、より効率的なアップデートが可能になることだ。これによって、進化する検閲戦術への迅速な対応が可能になるという。

シンプルな解決策

すでに複数のグループが新技術の導入を計画している。ペルシャ語のレディット(Reddit)のようなサイトであるバラタリン(Balatarin)は、このSDKを使って自社のモバイル・アプリにVPN機能を直接組み込む予定だ。バラタリンはイラン政府の検閲には慣れており、Webサイトは開設当初からイラン国内でブロックされてきた。nthリンクはまた、このSDKを使って、インターネットが遮断されている間もアプリを更新できるようにする予定だ。

バラタリンによると、SDKの提供によって、より多くのユーザー、特に技術に精通していないユーザーが、そのサービスにアクセスしやすくなるだろうという。VPNを利用するには一定の技術的習熟度が求められるし、エネルギーやバッテリーも消費する。だからこそSDKのような解決策が良いのだと、バラタリンの創設者であるメフディ・ヤーヤネジャドは言う。「SDKが使われるようになれば、もっと簡単になるでしょう。そしてユーザーの役に立つでしょう」。

イラン政府は独自の限定版インターネットを作り、企業や家庭向けに安価な料金で提供している。また、通信事業者に対しても、限定版インターネットへの直接アクセスとユーザー情報の引き渡しを強制している。だからこそ、このようにシンプルであることも極めて重要なのだ。監視を避けたり、ブロックされているWebサイトにアクセスしたいイランのユーザーは、狭いネットと広いネットを行ったり来たりする面倒な作業を我慢しなければならない上に、高く付くことが多い。SDKは、他の開発者がアプリにVPN接続を無料かつ直接組み込めるようにし、これによってユーザーが広いネットにより簡単かつ安価にアクセスできるようになるかもしれない。

もちろん、SDKはバラタリンのようなサイトにとっては画期的かもしれないが、「実用的で、持続可能で、堅牢な」検閲耐性テクノロジーの構築には、今後数年間で、ユーザーのトラフィックを妨害する者が増えるにつれ、より多くの注意を払うことが求められるだろう、とミシガン大学で電気工学とコンピューター・サイエンスの准教授を務めるロヤ・エンサフィは言う。

エンサフィ准教授の研究チームは、検閲を測定するプロジェクトでジグソーと協力しているが、エンサフィ准教授はSDKについて「楽観的」だと述べ、検閲という不安定で、費用がかかり、進化し続ける問題への対応に苦慮しがちな分野にとって「適切な方向に向かう一歩」であるとしている。

ジグソーによると、当面は全世界のほかのパートナーとの統合に取り組み、ニュースやメディア・アプとの連携に注力していくという。

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新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。
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