KADOKAWA Technology Review
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NIHONBASHI SPACE WEEK 2022 Report #1

英国ベンチャーも日本橋に集まったスペース・ウィーク

東京・日本橋で開催されたアジア最大級の宇宙ビジネス・イベントは、ispace(アイスペース)による月着陸船打ち上げ成功のニュースに沸く中で始まった。 by Koichi Motoda2023.01.18

2回目となるアジア最大級の宇宙ビジネス・イベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2022」が、東京・日本橋で2022年12月12日から16日まで開催された。今回は10の関連イベントが実施され、メイン・イベントとなる「TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2022」(12月12日〜14日)の展示会場には、宇宙スタートアップを中心に、宇宙港設置に取り組む地方自治体やJAXAなど、宇宙ビジネスに関わる30の企業・団体が集結した。

広がりを見せる宇宙産業

オープニング・セレモニーには、宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事の石井康夫氏が登壇。冒頭、開催日当日の朝に報じられたispace(アイスペース)による月着陸船打ち上げ成功のニュースに触れ、「開催にあたって、これ以上ないニュースだった」と語った。

JAXA 理事 石井康夫氏

JAXAは宇宙産業の事業創出に向けた対話やマッチングの場造りを目的として、2018年12月から日本橋にも拠点を設けている。こうした活動の一環として、内閣府や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共に、宇宙ビジネスに関するアイデアを募集し事業化を支援するコンテスト「S-Booster 2022」を実施。イベント開催中に、受賞者を発表するセレモニーがあると紹介した。

さらに石井氏は、JAXAが英国大使館や英国宇宙庁、三井不動産と共に、日英の企業間でビジネス・マッチング機会を創出する「X-NIHONBASHI Global Hub ’22」を開催することにも触れ、今後もこのイベントが継続することで「冬の風物詩として盛り上がっていくことに期待している」と述べた。

駐日英国大使 ジュリア・ロングボトム氏

英国大使館を代表して登壇した、駐日英国大使のジュリア・ロングボトム氏は、「英国は1962年に人工衛星を軌道に投入し、1971年にロケットを打ち上げた。現在、月探査や火星探査のミッションで主導的な役割を担っており、欧州発となる軌道衛星の打ち上げを控えている」と、英国の宇宙への取り組みについて紹介した。

宇宙開発競争が急速に拡大し変化している中、ロングボトム氏は「国際的なリーダーシップとコラボレーションを、英国は宇宙構想の中核に掲げている」と述べ、「世界でもっとも魅力的な宇宙経済大国の1つにすることが、私たちの目標である」と語った。

英国宇宙庁(UKSA:UK Space Agency)とJAXAは2021年6月に、民間宇宙開発における連携強化と共通の最先課目の検討に関する覚書を取り交わしている。連携の1つとして注目しているのが、宇宙センターにおける産業界の日英連携パートナーシップであり、ロングボトム氏はイベント開催中に行われるUKSAとJAXA、三井不動産、英国大使館が共催する宇宙ビジネスイベントで、「日英がどのように宇宙ビジネスの未来を共に作っていけるか、おおいに語り合って欲しい」と述べた。

東京大学 大学院工学系研究科 教授 中須賀真一氏

宇宙に関する政府のさまざまな政策委員会を、今年7月まで10年間務めてきた東京大学の中須賀真一教授は、日本の宇宙ベンチャーが世界と勝負するには「政府とうまく連携し、支援も受けながら一緒に世界と競争する流れを作っていくことが必要だ」との考えを示した。一方で政府においても、ますます激甚化する自然災害をいかに宇宙から監視、予測していくかが大事であり「安全保障や宇宙科学探査にもっと力を入れて技術を伸ばし、利用を広げていく活動が必要になっている」と述べる。「そのためには、民間で強固なコミュニティを作り、産官学での連携を深めていくことが求められる」(中須賀氏)。

これまでのように、政府が宇宙開発の戦略を作り、民間に衛星やロケットを発注するような連携では不十分で、逆に民間のコミュニティから世界と勝負できるというメッセージを政府に投げかけることが求められるという。その上で、中須賀氏は民間と政府の間で信頼感をもった連携が必要になり、「民間や大学、研究機関の力も借りながら、オールジャパンの体制で宇宙に挑んでいく姿勢が求められる」と語った。

宇宙飛行士/Space Port Japan代表 山崎直子氏

宇宙飛行士の山崎直子氏は、自身が代表理事を務め、日本でのスペースポート(宇宙港)開港を目指すSpace Port Japanも日本橋にオフィスがあり、さまざまな国際連携に力を入れていると紹介。現在、日本で宇宙港を目指す地域と英国のコーンウォール宇宙港との交流が進んでおり、それぞれの地域の高校生が交流を深めるなど「裾野が広がっていることを感じている」と述べた。

さらに、山崎氏は英国のウイリアム皇太子が設立した「アースショット賞」の授賞式に評議委員、および最終選考の審査員の1人として参加したことに触れ、「アースショットは、アポロ時代に月を目指したムーンショットのように、不可能を可能にしていくという精神を引き継いだもの。地球上のさまざまな課題解決に宇宙を活用していくという期待が、どんどん膨らんでいることを痛感している」と述べた。

SPACETIDE 代表理事兼CEO 石田真康氏

宇宙ビジネスの新しい潮流を作ることをミッションに、業界横断活動を続けているSPACETIDEの代表理事兼CEOの石田真康氏は、2002年に創業したスペースXや2010年に創業したispaceなど、創業20年以下の企業が月を目指すように、宇宙業界は現在大転換期にあると述べる。

宇宙にはすでにさまざまな国が参入しており、JAXAのような政府機関は60を越えているという。その市場規模は40兆円と言われ、2040年に向けて100兆円以上にもなると期待されているが、石田氏は宇宙はまだまだニッチな産業だと感じている。「例えば、自動車産業は宇宙産業の約15倍の規模があり、ヘルスケア産業は25倍の規模があるなど、他の産業と比べるとまだまだニッチだ」(石田氏)。

宇宙がもたらす可能性や価値を最大化し、「われわれが直面している気候変動やSDGsなどさまざまな課題に貢献していくことが、宇宙産業の規模を拡大し価値を最大化することに影響を与えるだろう」と石田氏は語った。

英国から参加した宇宙ベンチャー

 「TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2022」には、初めての海外からの出展として英国企業が参加した。現在英国には、スタートアップからグローバルプレーヤーまで1300社を超える宇宙関連企業があるとされ、中でも衛星データを活用したアプリケーション開発、軌道上ロボット、およびAIの分野に力を入れているという。今回は、その中から7社が来日してブースを設け、自社技術をアピールした。

「TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2022」に出展した英国企業

アーケンジェル・ライトワークス(Archangel Lightworks)は、宇宙での通信ネットワークをレーザー技術によって構築しようとしている。現在、小型衛星から直接地上に向けて通信する小型省電力通信端末「ASTRA-X」や、空中レーザー通信のためのプラットフォーム「STRATA-X」など4つの通信技術を持ち、日本で共同事業を始めるパートナーを探している。

アステロイド・マイニング(Asteroid Mining)は、宇宙でも走行可能な6本足のロボットについて、東北大学宇宙ロボット研究室と共同開発を進めている。2023年には仙台市にオフィスと技術施設を置く予定で、2035年までに宇宙資源採掘能力の開発を実現することを目標としている。

ブルー・スカイ・スペース(Blue Skies Space)は、紫外分光計と15cmクラスの望遠鏡を搭載した低軌道衛星や、赤外分光計と0.45mの望遠鏡を搭載した低軌道衛星から得たデータを市場に提供している。さらに、2024年の衛星打ち上げに向け、すでに日本の火星衛星探査計画への参加を含む、10カ国15団体の顧客を確保しているという。

メトリア・ミッション・データ(Metrea Mission Data)は、低軌道での宇宙領域認識技術を提供するソフトウェアを開発している。ソフトウェアは、低軌道域での常駐宇宙物体の検出や追跡、撮像、分類のために最適化されており、既存のデータ通信システム上で利用できるようになっている。将来的には、海洋と極超音速滑空対追跡にも適応させるという。

オックスフォード・スペース・システム(Oxford Space Systems)が提供するのは、宇宙用の展開アンテナだ。日本の折り紙などからアイデアを得たアンテナは、打ち上げ時には小さな容器に収納され、軌道投入後に展開される。合成開口レーダー(SAR)から通信衛星、IoT、船舶追跡、衛星間データ中継など、さまざまな用途に応じてカスタマイズ可能という。

サテライト・ビュー(Satellite Vu)は、超高解像度の熱赤外線撮像衛星によるコンステレーションの構築に取り組んでいる。建物レベルの大きさの対象物の熱赤外測定値を画像化し、熱量の変化を24時間継続的にモニタリングできるという。これによって、建造物内の活動状況や工場の稼働の有無、車両などの熱の痕跡が測定可能になる。

サリー・サテライト・テクノロジー(Surrey Satellite Technology)は、光学撮像、レーダー、赤外線撮像、RFモニタリングおよび通信用の実用小型衛星システムを提供している。これらのシステムを衛星コンステレーションとして構成すれば、広範囲な監視と商用利用に活用できるという。

オックスフォード・スペース・システムの折り畳めるアンテナの模型
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元田光一 [Koichi Motoda]日本版 ライター
サイエンスライター。日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、ICTからエレクトロニクス、AI、ロボット、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。
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