KADOKAWA Technology Review
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「火の力」を建築へ
溶岩で未来都市を設計する
建築家の壮大な夢
COURTESY OF S.AP ARKITEKTAR
気候変動/エネルギー Insider Online限定
This architect wants to build cities out of lava

「火の力」を建築へ
溶岩で未来都市を設計する
建築家の壮大な夢

アイスランドの建築家アルンヒルドゥル・パルマドッティルは、幼少期に見た火山噴火の記憶から着想を得て、溶岩を建築材料として活用し、持続可能な未来都市を創造するという、前例のない挑戦に取り組んでいる。 by Elissaveta M. Brandon2025.04.22

アルンヒルドゥル・パルマドッティルが3歳くらいの頃、リビングルームの窓から赤く染まる空を見た。アイスランド北東海岸の彼女の家から約40キロ離れた場所で火山が噴火していたのだ。すぐに危険をもたらすものではなかったが、その不吉な存在は彼女の潜在意識に染み込み、夜空に光の筋が走る夢を何度も見るようになった。

それから50年。パルマドッティルがいま「陰鬱で奇妙な夢」と呼ぶこれらの夢は、溶岩を再利用し、そこから都市を建設するという途方もない使命を持つ建築家としてのキャリアへとつながった。

現在、パルマドッティルはアイスランドの首都・レイキャビクに住み、自身の建築スタジオ「S.APアルキテクター(Arkitektar)」と、建築資材の再利用を専門とするデンマークの建築会社「レンデジャー(Lendager)」のアイスランド支社を経営している。

パルマドッティルは、1回の噴火で流れる溶岩で、都市全体の基礎を築くのに十分な建築材料が得られると考えている。彼女は5年以上にわたり、「ラヴァフォーミング(Lavaforming)」と呼ぶプロジェクトの一環として、この可能性を研究してきた。息子であり同僚でもあるアルナー・スカルフェディンソンとともに、3つの技術的アプローチを特定した。マグマポケットに直接穴を開けて溶岩を抽出する、溶けた溶岩をあらかじめ掘った溝に流し込んで都市の基礎を形成する、そして溶けた溶岩を3Dプリントしてレンガを作るというものである。

パルマドッティルとスカルフェディンソンは、2022年にレイキャビクで開催されたデザインマーチ・フェスティバルの講演でこのコンセプトを初めて発表した。今年は、2150年を舞台にした架空の都市エルドボルグの住民たちの生活を描くスペキュレイティブ映画『ラヴァフォーミング』を制作している。この映画は、彼らがどのように溶岩を建築材料として使うようになったかを振り返る内容で、5月に開催される世界有数の建築フェスティバル、ヴェネチア・ビエンナーレで上映される予定だ。

コンクリートや鉄鋼といった建築物・建設材料は、現在、世界の年間二酸化炭素排出量の37%という驚異的な割合を占めている。多くの建築家が天然素材や既存素材の使用を提唱しているが、土と水を型に流し込むのと、約1100℃の溶岩を扱うのとではまったく異なる。

それでも、パルマドッティルは、30の活火山を有するアイスランドで進行中の研究に便乗している。2021年以降、首都やブルーラグーン近くのレイキャネス半島では噴火が活発化しており、2024年だけでもこの地域で6回の噴火が発生している。この頻度のおかげで、火山学者たちは噴火後の溶岩の動きを研究する機会を得ている。「私たちはこの“ケダモノ”を追跡しようとしています」。アイスランド気象庁(IMO)の火山学者で、パルマドッティルと意見交換をしたこともあるグロ・ビルケフェルト・M・ペダーセンは語る。「多くのことが起きており、私たちはただ追いつき、備えようとしています」。

パルマドッティルの構想は、将来的に火山学者たちが溶岩流を十分に正確に予測できるようになり、都市が溶岩を利用して建築できるようになることを前提としている。噴火が発生した際に、溶岩が流れ込み、壁や基礎として固まるよう、いつどこに溝を掘るべきかを把握できるようになるということだ。

今日、溶岩流の予測は複雑な科学であり、リモートセンシング技術とスーパーコンピューターでシミュレーションを実行するための膨大な計算能力を必要とする。アイスランド気象庁は通常、新たな噴火ごとに2通りのシミュレーションを実施している。1つは過去の噴火データに基づ …

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