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ビットコインでお風呂もホットに、採掘排熱を利用したNYのスパ
JENNY KROIK
This spa’s water is heated by bitcoin mining

ビットコインでお風呂もホットに、採掘排熱を利用したNYのスパ

ニューヨークにある高級スパは、ビットコイン採掘の膨大な処理で発生するコンピューターの排熱を利用して、プールや浴槽の水を温めている。 by Carrie Klein2025.04.25

この記事の3つのポイント
  1. ビットコインの採掘で発生する熱を利用し浴槽の湯を温めるスパがある
  2. 採掘は多大な電力を消費し環境保護主義者は懸念している
  3. 廃熱利用は競争力がなくニッチな存在だと指摘する声もある
summarized by Claude 3

ニューヨークのブルックリンにあるスパ(入浴施設)「バスハウス(Bathhouse)」は一見したところ、他の高級スパとさほど変わらないように見える。違いは、目に見えないところにある。クローゼットの中に、暗号通貨採掘用のコンピューターが詰め込まれているのだ。それらのコンピューターがビットコインを生成するだけでなく、スパのプールや大理石のトルコ風呂、シャワーの水も温めている。

スパの共同創業者であるジェイソン・グッドマンが2019年にバスハウスの1号店をオープンした当初は、従来のプール用ヒーターを使用していた。しかし、ビットコインの世界に深くのめり込んだ後、グッドマンは、暗号通貨の採掘を自分のビジネスにシームレスに組み入れられることに気づいた。というのも、マイナー(採掘機)と呼ばれる特殊なコンピューターが1秒間に何兆回もの推測を実行し、ビットコインを獲得する数列を割り出そうとするプロセスは、膨大な量の電力を消費するからだ。そしてその結果、通常なら無駄に廃棄されることになる熱が大量に発生する。

「『これはおもしろい。自分たちには熱が必要だ』と思いました」。グッドマンはバスハウスについてこう話す。ビットコイン採掘施設では通常、ファンや水を使ってコンピューターを冷却する。そして水を溜めたプールは、もちろんスパの大きな特徴である。

浴槽のお湯を40℃に保つには、ゲーム機「Xボックス・ワン(Xbox One)」ほどの大きさのマイナーが6台必要になる。バスハウスのウィリアムズバーグ店では、酒瓶やお茶が並ぶ収納クローゼットに置かれた2つの大きなタンクの中で、それらのマイナーが静かなうなり声を上げて稼働している。コンピューターを冷やし、静かに保つため、それらの設備一式は電気を通さないオイルの中に直接入れられている。このオイルは、コンピューターの熱を吸収し、バスハウスの浴槽やトルコ風呂の下を通る管へとポンプで送られる。

ポンプで送り込んだ冷たい水でコンピューターを冷やし、約77℃に熱せられて戻って来る採掘ボイラーは、現在もこの施設で使用されている。余った熱は、将来の使用に備えて熱電池に蓄えられる。

グッドマンによれば、彼のスパは、熱源にビットコインの採掘を使うことでエネルギーを節約しているわけではなく、従来の温水装置よりもエネルギーを多く使っているわけでもないという。 「一連の仕組みにマイナーをはめ込んでいるだけです」と言う。

暗号通貨を使った加熱に可能性を見出しているのは、グッドマンだけではない。フィンランドのマラソン・デジタル・ホールディングス(Marathon Digital Holdings)は、大量のビットコイン・マイナーを地域暖房システムに変え、8万人の住民の家を暖めた。総合エネルギー・サービスプロバイダーのヒートコア(heat Core)は、ビットコインの採掘を、中国の商業オフィスビルの暖房や、魚の養殖用プールの温度維持のために利用してきた。2025年には、海水を加熱して淡水化するパイロット・プロジェクトを開始する予定だ。より小規模な例では、もう少し暖かさを求めるビットコインファンは、マイナーを購入し、暖房器具としても使うことができる。

グッドマンのような暗号通貨ファンたちは、特にビットコイン準備金を創設する計画を発表したトランプ政権下で、暗号通貨の普及が拡大すると考えている。この見通しが、環境保護主義者たちを憂慮させている。

経済学者のアレックス・デ・ブリースが運用するビットコイン・エネルギー消費インデックスによると、1回のビットコイン取引に必要なエネルギーはさまざまだが、3月中旬現在で、米国の平均的な家庭が47.2日間に消費するエネルギー量に相当するという。

さまざまな暗号通貨の中でも、ビットコインの採掘は群を抜いてエネルギーを消費する。デ・ブリースが指摘するように、イーサリアムなどの他の暗号通貨はマイニングを廃止し、よりエネルギー消費の少ないアルゴリズムを導入している。だが、ビットコイン・ユーザーは自分たちの通貨に変更を加えることに抵抗しており、近い将来に採掘からのシフトが起きるとの予測に、デ・ブリースは懐疑的だ。

ビットコインを加熱に使用する際の主な障害の1つは、熱を短距離しか運べないことだ。距離が長ければ熱が消散してしまうからだ。「極めてニッチなものだと考えています。競争力がなく、大規模に機能させることはできません」。

より多くの再生可能エネルギー源が送電網に追加され、化石燃料と置き換わっていけばいくほど、暗号通貨の採掘はもっとクリーンになるだろう。しかし、たとえビットコインが再生可能エネルギーを動力源にするとしても、「それで採掘が持続可能になるわけではありません」と話すのは、国連大学水・環境・健康研究所(United Nations University Institute for Water, Environment, and Health)のカヴェ・マダーニ所長だ。採掘は、既存のエネルギー需要を満たすために使用できるかもしれない貴重な資源を使い尽くしてしまうと、マダーニ所長は言う。

グッドマンにとっては、ビットコインで温めたお湯でリラックスすることは、まったく正当なエネルギーの使い方である。それによって筋肉を癒し、心を落ち着かせると同時に、現在の経済構造に挑戦しているのだ。

筆者のキャリー・クラインはニューヨーク市を拠点に活動するフリーランスのジャーナリスト。

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