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中国でトリウム原子炉が稼働、見直される過去のアイデア
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A long-abandoned US nuclear technology is making a comeback in China

中国でトリウム原子炉が稼働、見直される過去のアイデア

中国がトリウムを燃料とする原子炉を稼働させ、運転を停止させずに燃料を補給することに初めて成功した。20世紀半ばに棚上げされた後、復活した原子力技術の一つであり、こうしたアプローチはこれから増えるかもしれない。 by Casey Crownhart2025.05.07

この記事の3つのポイント
  1. 中国の新型原子炉がトリウム燃料を使用し稼働を開始した
  2. 原子力エネルギー技術において中国が最も注目されている
  3. 過去に開発され放棄された原子炉技術が再び注目を集めている
summarized by Claude 3

中国がまた、クリーン・エネルギーのマイルストーンで他国を凌駕した。報道によると、中国で稼働を開始した新型原子炉は、ウランの代わりにトリウムを燃料として使用する世界初の原子炉の1つであり、稼働中に燃料を補給できる種類の原子炉としては初めてのものであると報じられている。

これは明らかに実験的ではあるが、原子力エネルギーの世界的リーダーになりつつある国における、興味深い発展である。中国は現在、原子力発電所の発電量でフランスを上回ったが、発電容量ではまだ及ばない。どちらも、米国には依然として後れを取っている。しかし、今回の原子炉に関するメディア報道で繰り返し言及されているあるテーマが私の目を引いた。なぜなら、それはとてもなじみ深いからだ。このテクノロジーは数十年前に発明されたが、その後放棄されたのである。

基本的にこの一文は、今日の先進炉技術に関する無数の記事にコピー&ペーストできるだろう。溶融塩冷却システムは20世紀半ばに発明されたが、商業化されなかった。トリソ(TRISO)のようないくつかの代替燃料についても同様だ。そして、もちろんトリウムもその一つである。

中国のある研究用原子炉が代替燃料で稼働しているという事実は、原子力エネルギー技術の現状について多くを物語っている。多くのグループが過去の技術を見直し、新たな意欲をもってそれらを構築しようとしているのだ。

まずは、中国が現在、原子力エネルギーにおいて最も注目すべき国であることに留意することが重要だ。米国は依然として世界で最も多くの運転中の原子炉を有しているが、中国は急速に追い上げている。中国は驚くべきペースで原子炉を建設しており、現在、建設中の原子炉の数は他のどの国よりも断然多い。4月末に中国は10基の新しい原子炉の建設を承認し、その投資額は270億ドルを超えている。

中国はいくつかの先進炉技術をリードしている。ここで言う先進炉技術とは、基本的に今日の送電網にある標準的な設計の原子炉、すなわち濃縮ウランを燃料として高圧の水で原子炉を冷却する大型原子炉から逸脱するものすべてが含まれる。ガスを冷却材として使用する高温ガス炉は中国にとって主要な注目分野の1つである。この技術を使用するいくつかの原子炉が最近起動し、さらに多くが計画段階にあるか建設中である。

現在、中国の国営メディアは、同国の科学者らがトリウムをベースとする原子炉で画期的な成果を達成したと報じている。この原子炉は2024年6月に稼働開始したが、研究チームは最近、原子炉を停止せずに燃料を補給したと述べている(従来型の原子炉は、燃料を補給するために一般的に停止する必要がある)。プロジェクトの主任研究者らは、中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の非公開会議で結果を発表した

強調しておくが、今回の成果は巨大な発電所におけるものではない。原子炉は小さく、わずか2メガワットの熱を発生させるだけであり、マサチューセッツ工科大学(MIT)のキャンパスにある研究用原子炉の6メガワットよりも少ない(公平を期すために言えば、MITの原子炉は米国の大学の研究用原子炉としては最大級だが、それでも小さい)。

とは言うものの、世界がここ50年ほどウラン一辺倒だったことを考えると、トリウム炉の前進は進歩だと言える。

トリウムに関する初期の研究の多くは、1950年代と60年代にさまざまな原子炉技術に資源を投入した米国から生まれた。1960年代にオークリッジ国立研究所で運転された原子炉は、トリウムが放射線を浴びると生成されるウラン233を燃料に使用したものであった。

しかし最終的に、世界は多かれ少なかれ、ウラン238を燃料として使用し、高圧の水で冷却する原子炉の設計図に落ち着いた。エネルギー技術としてウランに焦点を当てている理由の1つは、研究が核兵器にも応用できるからだ。

しかし今、代替原子力技術に対する関心が再び高まっている。トリウム燃料炉はその一例に過ぎない。以前にMITテクノロジーレビューが取り上げた著名な例として、カイロス・パワー(Kairos Power)がある。同社は小型原子炉の冷却材として溶融塩を使用する原子炉を建設している。これも1950年代と60年代に発明・開発された後、放棄された技術である。

もうひとつの古くて新しいコンセプトは、高温ガスを使用して原子炉を冷却することだ。これは、X-エナジー(X-energy)がテキサス州の化学プラントに提案している発電所で実現を目指しているものだ。その原子炉は、中国の新しいトリウム原子炉のように、運転中に燃料を交換できる。

数十年前に技術が放棄された原因となった問題の中には、今日でも対処が必要なものがある。例えば、溶融塩炉の場合、超高温の塩の腐食性に耐えられる材料を見つけるのが難しい。トリウム炉では、トリウムをウラン233燃料に変換するプロセスが歴史的に障害の1つとなっている。

しかし、初期の進展が示すように、これらのアーカイブは新しい商業用原子炉の材料を提供する可能性がある。古いアイデアを再検討することで、原子力産業が待望する後押しをもたらすかもしれない。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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