誤差1センチ以内へ、宇宙原子時計で描く新たな地球像
4月に打ち上げられた宇宙原子時計アンサンブル(ACES)ミッションの主な目的は、地球上で最も正確な時計と同期した時計ネットワークを構築することだ。将来的に同ネットワークは、地球上の地点の標高を極めて正確に測定するのに役立つ可能性がある。 by Sophia Chen2025.05.28
- この記事の3つのポイント
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- 史上最高精度の宇宙原子時計ACESが打ち上げられ、10センチ精度での標高測定を実現
- 重力による時間の遅れを測定して地球の重力場をマッピングする革新的手法を採用
- 将来は1センチ精度の時計ネットワークを構築し、国際的な測地ミスを根絶へ
2003年、ドイツとスイスの技術者たちは、ライン川に架ける橋の建設を両岸から同時に開始した。建設開始から数カ月後、双方の橋が出会わないことが判明した。ドイツ側の橋が、スイス側より54センチメートルも高かったのだ。
このズレは、ドイツの技術者たちが北海の歴史的な水準をゼロ点として標高を測ったのに対し、スイスの技術者たちはそれより27センチメートル低い地中海の水準を使用していたために発生した。私たちは慣用的に「海面」を基準に標高を語るかもしれないが、地球の海は実際には水平ではない。「海面は場所によって異なります」と、ドイツのミュンヘン工科大学の測地学者ローラ・サンチェス教授は言う。測地学者は地球の形状、向き、重力場を研究している。両国のチームは27センチメートルの差を認識していたが、どちら側が高いのかを勘違いしていた(編集部注:スイス側が27センチメートル高いと思っていた)。そして、最終的にドイツ側が橋を低くすることで完成に漕ぎつけた。
このようなコストのかかる建設ミスを防ぐため、2015年に国際測地学協会(International Association of Geodesy)の科学者たちは、標高の世界標準となる「国際高さ基準座標系(IHRF:International Height Reference Frame)」の採用を決議した。これは緯度と経度に相当する3次元座標であると、標準化の取り組みの調整を手伝うサンチェス教授は説明する。
IHRFの採用から10年が経った今、測地学者たちは、宇宙を飛び回る史上最も高精度な時計を用いて、この基準の改訂を目指している。
「宇宙原子時計アンサンブル(ACES:Atomic Clock Ensemble in Space)」と呼ばれるこの時計は、2025年4月にフロリダから国際宇宙ステーション(ISS)に向けて軌道に打ち上げられた。欧州宇宙機関(ESA)が開発したACESは、セシウム原子を含む原子時計と水素原子を含む原子時計の2つを連結したもので、これらを組み合わせることにより、どちらか一方の時計単独よりも高い精度で単一の時を刻む。
振り子時計は、湿度、気温、余分なホコリの重さによって振り子の振れる速度が変化するため、1日あたり約1秒の遅れや進みを生じる精度しかない。現在のGPS衛星に搭載されている原子時計は、平均して3000年で1秒の遅れまたは進みが生じる。一方、ACESは「3億年経っても1秒の遅れも進みもない」と、この装置の開発と打ち上げに携わったESAの物理学者、ルイジ・カッチャプオティは話す。カッチャプオティによると、中国は2022年に宇宙ステーションに、より安定した性能を秘めた時計を設置したが、中国政府は打ち上げ後の時計の性能について公表していない。
ACESは宇宙から、地球上で最も正確な時計のいくつかに接続し、同期された時計ネットワークを構築することになっている。このネットワークは、ACESの主目的である基礎物理学の検証を支援するものとなる。
しかし、 …
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