GPSに代わる選択肢を、
地球低軌道で100倍強い
次世代測位システム
GPSは今や、重要な社会インフラとなっている。だが、精度がさほど高くない上、電波妨害に弱い欠点がある。米国のスタートアップ企業は、地球低軌道に衛星コンステレーションを構築し、GPSの欠点を克服しようとしている。 by Tereza Pultarova2025.07.14
- この記事の3つのポイント
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- ゾナ・スペース・システムズがGPSを補完する高精度衛星を打ち上げた
- 地球低軌道からGPSの100倍強い信号を送信し妨害に対抗する
- 2030年までに258基の衛星網を構築し自動運転車等への応用を目指す
6月23日、特別目立つわけではない150キログラムの人工衛星が、スペースX(SpaceX)の「トランスポーター(Transporter)14」ミッションで宇宙へと打ち上げられた。米国の全地球測位システム(GPS)の欠点を補うために設計された超高精度の次世代衛星航法技術を、軌道上でテストをするための衛星である。
このミッションで打ち上げられたのは、カリフォルニアに本社を置くゾナ・スペース・システムズ(Xona Space Systems)の「パルサー(Pulsar)」と呼ばれるコンステレーション構築計画の最初の衛星だ。同社は最終的に、地球低軌道上に258基の人工衛星によるコンステレーションを設けることを計画している。これらの衛星はGPSを作るために使用されているものと同じように動作するが、GPSの衛星よりも地表に約1万9000キロメートル近い軌道を周回することで、より精度が高く妨害されにくい、はるかに強力な信号を送ることになる。
「単に距離がより短いという理由で、GPS信号の約100倍の強さの信号を発信することになります」とゾナの共同創業者で最高技術責任者(CTO)のタイラー・リードは話す。「つまり、当社のシステムに対する妨害電波の到達範囲はずっと小さくなります。さらに、このシステムによる信号なら複数の壁があっても遮断されず、屋内のより深い場所でも位置測定が可能となります」。
21世紀の衛星航法システム
GPSシステムの運用が開始されたのは1993年のことだ。以来数十年、GPSは世界が依存する基盤テクノロジーのひとつとなっている。GPSに用いられている人工衛星から送信される正確な測位・航法・タイミング(PNT)信号は、私たちが携帯電話で使用するグーグル・マップ以外にも非常に多くのものを支えている。この信号が海洋石油掘削装置のドリルヘッドを誘導し、金融取引にタイムスタンプを付与し、世界中の送電網を同期させるのに役立てられているのだ。
しかし、なくてはならない存在であるにもかかわらず、GPS信号は宇宙の天気から5G基地局、数十ドルの携帯電話サイズのジャマー装置に至るまで、あらゆるものによって簡単に抑制または妨害されてしまう。この問題は専門家の間では何年も前から囁かれていたのだが、ロシアがウクライナに侵攻してからのこの3年間で一気に表面化した。この戦争の特徴となった積極的なドローンの活用は、ドローンの航行に必要なGPS信号をジャミング(妨害)したり、信号のスプーフィング(なりすまし)により説得力のある偽の測位データを作成したりして、ドローンによる攻撃を阻止するテクノロジー開発の競争も引き起こした。
決定的なのは距離の問題だ。24基の人工衛星と数個の予備衛星からなるGPSコンステレーションは、地球中軌道と呼ばれる上空2万200キロメートルを周回している。その信号が地上の受信機まで届く頃には、ジャマー装置に簡単に上書きされてしまうほど微弱なものになってしまうのだ。
欧州のガリレオ(Galileo)、ロシアのグロナス(GLONASS)、中国の北斗(衛星測位システム)など、既存の全地球航法衛星システムのコンステレーションも同様のアーキテクチャを有しているため、同じ問題を抱えている。
しかし、リードCTOと共同創業者のブライアン・マニングCEO(最高経営責任者)が2019年にゾナ・スペース・システムズを設立したとき、ジャミングやスプーフィングについて考えていたわけではなかった。彼らが目標としていたのは、自動運転車の普及である。
当時すでに、何十台ものウーバー(Uber)やウェイモ(Waymo)の自動運転車が高解像度カメラ …
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