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「若返り薬」より効果? カロリー制限のメリット・デメリット
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
Calorie restriction can help animals live longer. What about humans?

「若返り薬」より効果? カロリー制限のメリット・デメリット

167件の動物実験を分析した最新研究によると、食事量を減らすことで寿命を延ばす効果は、有力視されてきた「抗老化薬」ラパマイシンやメトホルミンより確実だという。 by Jessica Hamzelou2025.06.23

この記事の3つのポイント
  1. 過去の動物実験の結果から、カロリー制限が最も確実な寿命延長法であることが判明
  2. カロリー制限は減量効果があるが、創傷治癒阻害や骨密度低下などのリスクも
  3. 人間での長期効果は不明であり、包括的推奨を出すには時期尚早
summarized by Claude 3

生きることには「老化」という副作用が伴う。ソーシャルメディアや広告でよく耳にする言葉とは裏腹に、人間の老化を遅らせたり逆転させたりする薬物は存在しない。だが、別のアプローチ、すなわちカロリー制限を支持する証拠ならいくつかある。

カロリー制限(カロリー摂取量を減らすこと)と間欠的断食(決まったスケジュールで断食と通常の食事を切り替えること)は、体重減少に役立つ。加えて、特定の健康状態を予防する効果もあるかもしれない。さらに、寿命を延ばすのにも役立つ可能性があると考える人もいる。先週発表された新たな研究は、この考えを裏付けるものだ(長寿愛好家のブライアン・ジョンソンは、1日の最後の食事を午後12時に摂ることで有名)。

ただ、全体像はそれほど単純ではない。減量が常に健康的であるとは限らず、カロリー摂取量を制限することも同様だ。特に、最初からBMIが低い場合はなおさらだ。一部の科学者は、動物実験での証拠に基づいて、カロリー制限が創傷治癒、代謝、骨密度に悪影響を与える可能性があると警告している。今回は、カロリー制限のメリットとリスクについて詳しく見てみよう。

動物の長寿にもっとも効果的なのは「カロリー制限」

動物は食事量を減らすことで寿命を延ばすことができる——。この驚くべき発見は過去100年間、科学雑誌で発表されてきた。研究対象となったほぼすべての動物、例えば小さな線虫やショウジョウバエから、マウス、ラット、さらにはサルまで、あらゆる動物で効果が認められている。どの研究を見るかによって異なるものの、げっ歯類では寿命を15%から60%延ばせる可能性がある。

カロリー制限の効果は、「抗老化」薬の有力候補よりも信頼性が高い。ラパマイシン(臓器移植で使用される免疫抑制薬)とメトホルミン(糖尿病治療薬)は、長寿治療薬の候補として有望視されてきた。いくつかの研究では、実際に動物の寿命を延ばす効果が確認されている。

だが、カロリー制限、ラパマイシン、メトホルミンの3つの介入に関する実験動物における167件の公表済み研究を調査したところ、カロリー制限が最も「確実」であることが判明した。学術誌エイジング・セル(Aging Cell)に6月18日に掲載されたメタ分析の結果によると、ラパマイシンの効果はカロリー制限にほぼ匹敵するものであったが、メトホルミンはそれほど効果的ではなかった。

「寿命延長のためにメトホルミンを適応外使用している多くの人にとって、残念なことです」。英国ランカスター大学の生物老年学講師であるデイビッド・クランシーは声明でこう述べている。「副作用がないか、あったとしても少ないことを願いましょう」。とはいえ、カロリー制限については、今のところ順調だ。

少なくとも実験動物にとっては良いニュースである。人間についてはどうだろうか? 同じく6月18日に、別の科学者チームがカロリー制限と断食が人間に与える影響を調査したシステマティック・レビューの結果を発表した。このレビューでは6500人以上の成人を対象とした99件の臨床試験を評価した(前述したように、カロリー制限は長らく活発な研究分野だった)。

研究では、すべての試験を通じて、断食とカロリー制限は減量に効果があることが分かった。ほかにも利益があったが、それは食事制限の具体的なアプローチに依存していた。例えば、隔日断食はコレステロールを下げるのに役立つようだ。一方、ブライアン・ジョンソンが実践しているような、毎日特定の時間内でのみ食事をする時間制限食事法は、コレステロールを増加させるようだと、研究チームはBMJ誌に掲載された論文に記している。血中コレステロール値の上昇は心疾患につながる可能性があることを考えると、時間制限食事法を実践する人々にとっては良いニュースではない。

カロリーを削減することはより広範囲なリスクを伴う可能性もある。例えば、食事制限はマウスやラットにおいて創傷治癒を阻害するようだ。カロリー制限は骨密度にも影響を与えるようである。いくつかの研究では、幼少期のラットをカロリー制限食に置いた場合に、寿命延長に対する最大の効果が見られる。しかし、このアプローチは骨の発達に影響を与え、骨密度を9%から30%減少させる可能性がある。

また、ほとんどの人にとってカロリー摂取量を減らすことは本当に困難である。カロリー摂取量の25%削減の影響を測定する2年間の試験を実施したところ、ボランティアが削減できた最大値は12%であったことが判明した研究結果がある(この研究では、カロリー制限が慢性化すると有害となりうる炎症マーカーを減少させ、骨密度への影響はわずかであることが明らかになった)。

残念ながら、カロリー制限については、まだ本当に理解できていないことが多い。すべての動物の寿命延長に役立つわけではないようで、特定の遺伝的背景を持つ動物の寿命を短くする可能性がある。そして、人間の寿命を延ばすかどうかは分からない。人々を幼少期から食物を制限し、その後一生涯にわたって死亡時期を観察するランダム化臨床試験を実施することは不可能だからだ。

食事を追跡したり変更したりすることは非常に困難であることは周知の事実である。そして、カロリー制限を取り巻く未知の要素を考慮すると、包括的な推奨事項を出すには時期尚早だろう。特に、個人の生物学的特性が、経験するであろう利益やリスクに役割を果たすことを考えるとなおさらだ。次の研究結果を待つしかない。

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ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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