核融合でも中国が優位に、西側に残された3つの勝機
核融合エネルギーの商業化に不可欠なのは、基礎技術だけではない。広範なサプライチェーンを含む産業基盤への投資を怠れば、米欧は中国に主導権を奪われかねない。 by Rory Burke2025.07.10
核融合エネルギーは、現在の化石燃料が中心の地政学的状況を一変させる可能性を秘めている。核融合エネルギーを活用すれば、あらゆる近代的な産業部門およびサービス部門で必要とされる豊富なエネルギーとエネルギー安全保障、エネルギー・レジリエンスを実現できる。しかし、そのような恩恵を享受できるのは、必要となる複雑なサプライチェーンの構築と、経済コストを十分低減できるような大規模な核融合発電所の建設という2つの側面で主導権を握る国だ。
米国をはじめとする西側諸国は、実用的な核融合発電所を支える基盤技術の開発に加え、広範な技術分野にまたがる強固なサプライチェーンを構築する必要がある。サプライチェーンへの投資と複雑な生産工程のスケールアップは、ますます中国の強みとなる一方で、西側諸国の弱点となってきている。その結果、多くの重要産業が西側諸国から中国へと移転している。核融合分野においても、同じことが繰り返されるリスクがある。しかし、必ずしもそうなる必要はない。
米国と欧州は核融合エネルギー研究の主要な公的資金提供者であり、世界の多くの先駆的な民間核融合プロジェクトの拠点となっている。その結果、西側諸国は核融合発電を可能にする基礎技術の多くを開発してきた。しかし、過去5年間で、核融合エネルギー分野への中国の支援は急増しており、中国がこの産業を支配することになりかねない。
中国には、黎明期にある核融合エネルギー産業を支える産業基盤が存在するため、西側諸国よりもはるかに迅速かつ効果的に学習曲線を短縮させることが可能になるだろう。商業化には、ノウハウ、能力、そして隣接産業におけるサプライチェーンや労働力といった補完的資産が必要となる。そして特に中国と比較すると、米国と欧州では薄膜加工やパワーエレクトロニクスなど、核融合産業に必要な産業資産への支援が著しく不足している。
中国と競合していくためには、米国、同盟国、そしてパートナー国は、すでに投資している核融合自体だけでなく、核融合産業基盤にとって不可欠な隣接技術にも、より大規模な投資をする必要がある。
中国が核融合分野の覇権を握るまでの軌跡と、西側諸国の競争参入を可能にする道筋は、送電網での核融合エネルギーの利用を実現するために、科学・工学的に現在最も有望な道筋を考察することで理解できる。この道筋は「トカマク」にかかっている。トカマクとは核融合炉の一方式で、電離した気体であるプラズマを磁場で閉じ込め、最終的に核融合反応を起こさせる。この過程で放出される熱エネルギーは電気エネルギーへと変換される。トマカクを構成する重要システムには、プラズマの閉じ込めと加熱、燃料の生産と処理、ブランケットと熱流束管理、そして電力変換などがある。
これらの重要システムを開発するために必要な隣接産業を詳しく見てみると、中国の優位性が明確に示されると同時に、米国や欧州で核融合産業基盤を構築する際の課題も垣間見えてくる。中国はこれらの6つの主要産業のうち3つで主導権を掌握している。そして、さらに2つの産業で西側諸国は主導権を失う危機に瀕している。薄膜加工、金属合金製大型構造物、パワーエレクトロニクスの分野における中国の産業力は、核融合の上流サプライチェーンを確立するための強固な基盤を提供している。
薄膜加工の重要性は、プラズマ閉じ込めシステムにおいて明白だ。トカマクは強力な電磁石を用いて核融合プラズマを所定の位置に維持するが、この電磁石のコイルの材料は超伝導体である必要がある。希土類系銅酸化(REBCO)超伝導体は、核融合での使用に十分な量を確保でき、最も優れた性能を発揮する材料である。
REBCO産業では薄膜加工技術が不可欠である。そして現在、世界中に分散しているメーカーが少量生産をしている。しかし、核融合産業が成長するにつれて、REBCOの製造基盤は、規模の経済を迅速に活用できる業界のプレーヤー間で統合される可能性が高い。中国は現在、太陽光パネルとフラットパネルディスプレイ向けの薄膜の大量生産において世界をリードしており、関連する専門技術を有する労働力、ツール部門、インフラ、そして上流の材料サプラ …
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