1クエリでレンジ1秒分、グーグルがGeminiの消費電力を初公開
グーグルが生成AI「Gemini」のエネルギー消費量に関するデータを初めて公開した。大手テック企業として初で、同社は「日常行動と同程度で過度な心配は不要」としている。 by Casey Crownhart2025.08.25
- この記事の3つのポイント
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- グーグルがGeminiの1クエリ当たりのエネルギー消費量を0.24Whと発表した
- AIチップは全電力消費の58%で残りは冷却やバックアップ装置などが占める
- 2024年5月からの1年でエネルギー消費量が33分の1に劇的減少したという
グーグルはつい最近、Gemini(ジェミニ)アプリがクエリごとに消費するエネルギー量に関する詳細な技術レポートを発表した。全体として、エネルギー需要の中央値に位置するプロンプトは、0.24ワット時(Wh)の電力を消費する。これは、標準的な電子レンジを約1秒間動作させるのに相当する。グーグルはまた、Geminiへのテキスト・プロンプトに関連する水の消費量と二酸化炭素排出量の平均推定値も提示している。
これは、人気のあるAI製品を提供する大手テック企業による、これまでで最も透明性の高い推定値である。またこのレポートには、最終的な推定値の算出方法に関する詳細な情報も含まれている。AIの導入が進むにつれ、そのエネルギー使用量を理解しようとする取り組みも強まっている。しかし、AIの消費エネルギーを直接測定しようとする公的な取り組みは、大手テック企業の業務への完全なアクセスが得られないことにより、妨げられてきた。
MITテクノロジーレビューは今年、AIとエネルギーに関する包括的な特集記事を公開したが、その時点では、主要なAI企業のいずれもプロンプトごとのエネルギー使用量を明らかにしていなかった。今回ついに、グーグルの新たなレポートによって、研究者やアナリストが長年望んでいた舞台裏の実態が明らかになった。
この研究では、モデルを実行するAIチップだけでなく、そのハードウェアを支えるために必要なすべてのインフラが消費する電力も含め、エネルギー需要を広範に調査している。
「取り上げたすべての要素を包括的に示したいと考えました」。グーグルの主任科学者であるジェフ・ディーンは、この新しいレポートに関するMITテクノロジーレビューの独占インタビューに対して、こう語った。
これは重要な点である。なぜなら、この測定において、AIチップ(この場合、グーグルが独自に開発したTPU)が占めるのは、全体の電力消費の58%に過ぎないからだ。
残りの大部分の電力は、AI専用ハードウェアを支えるための周辺機器によって使用されている。たとえば、ホストマシンのCPUとメモリが消費する電力は全体の25%にのぼる。また、障害時に備えた待機中のバックアップ装置が10%を占め、最後の8%は冷却や電力変換など、データセンターの運用に必要なオーバーヘッドによるものである。
この種のレポートは、AIとエネルギーに関する研究において、産業界からの情報提供がいかに重要であるかを示していると、ミシガン大学のモシャラフ・チョウドリー教授は述べている。同教授は、AIモデルのエネルギー消費を追跡するリーダーボード「ML.エナジー(ML.Energy)」の代表者の1人だ。
グーグルが今回公開したような推定値は、通常、企業にしか算出できないものである。なぜなら、企業は研究者よりも大規模に運営しており、その内部情報へもアクセスできるからだ。「これはAIエネルギー分野において、極めて重要な成果となるでしょう」。ML.エナジーの共同リーダーであるミシガン大学の博士課程生、ジェウォン・チョンは語る。「これまでで最も包括的な分析です」。
ただし、グーグルの提示した数字は、Geminiに送信されるすべてのクエリを代表しているわけではない。同社は非常に多様なリクエストを処理しており、今回の推定値は、エネルギー消費量の分布における中央値にあたるクエリを基に算出されている。
したがって、中にはこの値を大きく上回るエネルギーを必要とするプロンプトも存在する。ディーンは一例として、Geminiに何十冊もの本を読み込ませ、それらの詳細な要約を生成させるようなタスクを挙げている。「そのようなタスクは、おそらく中央値のプロンプトよりも多くのエネルギーを要するでしょう」とディーンは述べる。推論(reasoning)モデルを使用する場合、回答を出すまでに多くのステップを必要とするため、さらに多くのエネルギーを消費する可能性がある。
また、このレポートは厳密にテキスト・プロンプトのみに限定されており、画像や動画を生成するプロンプトには適用されない(本誌が今年掲載した特集における分析では、画像や動画生成のタスクがテキストよりもはるかに多くのエネルギーを必要とするケースが示されている)。
さらにこのレポートは、時間の経過とともに、Geminiのクエリ処理に必要な総エネルギーが劇的に減少していることも明らかにしている。グーグルによれば、2024年5月時点のGeminiの中央値プロンプトは、2025年5月と比べて33倍ものエネルギーを消費していた。同社は、この改善の理由として、モデルの進化およびソフトウェア最適化の成果を挙げている。
グーグルはまた、中央値プロンプトに関連する温室効果ガス排出量についても推定しており、0.03グラムの二酸化炭素を排出するとしている。同社はこの数値を、1つのプロンプトに応答するために使用された総エネルギー量に、電力1単位あたりの平均排出量を掛け合わせることで算出した。
グーグルが使用する排出量の推定値は、米国の送電網の平均値や、同社が事業を展開する地域の電力網の平均値に基づくものではなく、市場ベースの推定値である。これは、グーグルがクリーンエネルギー・プロジェクトから購入している電力を考慮に入れている。同社は2010年以降、太陽光、風力、地熱、先進的な原子力プロジェクトなどから22ギガワット以上の電力を購入する契約を締結してきた。こうした電力の調達により、グーグルの1単位あたりの電力による排出量は、同社が拠点を置く地域の電力網平均と比べて約3分の1になっている。
AIを稼働させるデータセンターでは冷却のために水も使用されており、グーグルによれば、1つのプロンプトで消費される水は約0.26ミリリットル、つまり5滴程度であるという。
ディーンは、この調査の目的は、ユーザーがAIとのやり取りに伴うエネルギー使用の実態を把握できるようにすることだったと述べている。
「人々はAIツールをあらゆる目的で使っていますが、Geminiモデルのエネルギーや水の使用量について、過度に心配する必要はありません。なぜなら、私たちの実測データから、それらは日常的に何気なくとっている行動と同程度のものだと示せたからです」とディーンは語る。「数秒間テレビを視聴するのと同じくらいのエネルギー、あるいは水を5滴消費する程度なのです」。
このレポートの公開により、AIが消費するリソースに関する知見は大幅に拡大された。今回の発表は、企業に対してテクノロジーのエネルギーコストに関する情報の公開を求める圧力が高まる中で行われたものである。「グーグルがこの情報を公表してくれて本当にうれしく思います」。ハギング・フェイス(Hugging Face)でAIと気候の関係を研究しているサーシャ・ルッチョーニ博士は述べる。「人々は、この技術のコストの実態を知りたがっているのです」。
今回の推定値およびそれを裏付けるレポートには、これまでに比べてはるかに多くの公開情報が含まれており、現実の大規模なAI利用に関する理解を深めるのに役立つとルッチョーニは述べる。しかしながら、グーグルが本レポートで共有していない情報も依然として存在する。特に重要な未公開情報の1つは、Geminiが1日に受け取るクエリの総数である。これが分かれば、AIツール全体のエネルギー需要を推定することが可能になる。
そして結局のところ、どの情報をいつ、どのように共有するかを決めるのは企業自身である。「私たちは、AI版のエネルギースターのような、標準化されたAIエネルギースコアの導入を目指して取り組んできました」とルッチョーニ博士は語る。「今回の推定値は、そのような標準化された比較基準の代わりにはなりませんし、代替物でもありません」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。