「見えない病気」子宮内膜症に光明、新世代の非侵襲検査が登場
症例の半数が画像検査で検出されず、確定診断まで10年近くかかる子宮内膜症。この「見えない病気」に対し、血液や唾液中のバイオマーカーを分析する非侵襲的検査が登場している。複数の企業が2026年内の実用化を目指し、早期診断実現が期待される。 by Colleen de Bellefonds2025.10.22
- この記事の3つのポイント
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- 複数企業が血液や唾液から子宮内膜症を診断する非侵襲的検査を2026年内に米国で発売予定
- 現在診断に平均10年かかり手術が必要だが新検査により早期発見と治療開始が可能になる
- 検査技術の進歩により疾患サブタイプ分類が可能となり標的治療薬開発への道筋が期待される
シャンタナ・ヘーゼルは、月経中に内臓が飛び出してしまうのではないかと頻繁に感じていた。刺すような痛みに14年間苦しんだ末、ようやく子宮内膜症と診断された。子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮外に着床し、月経周期ごとに出血を繰り返す炎症性疾患である。この疾患は、激しい月経痛や有害な瘢痕組織の形成を引き起こす可能性がある。現在50歳で、子宮内膜症啓発団体のシスター・ガール財団(Sister Girl Foundation)の創設者であるヘーゼルは、かつて外科医から、ラフィー・タフィー(日本版注:米国で人気のある粘着性のキャンディ)のような病変によって内臓が「癒着している」と告げられた。16回におよぶ手術を経て、彼女は30歳で子宮を摘出した。
ヘーゼルは決して特別な存在ではない。子宮内膜症は、米国の生殖年齢にある女性の11%以上に、衰弱させるような痛みや大量の出血をもたらしている。診断には平均して10年近くかかる。症例の半数が画像検査で検出されず、確定診断には組織サンプルを採取するための手術が必要なことが一因だ。
だが、この十分に理解されていない疾患の診断を加速し、管理を改善する可能性のある新世代の非侵襲的検査が登場している。
ヘラ・バイオテック(Hera Biotech)、プロテオミクス・インターナショナル(Proteomics International)、ネクストジェン・ジェーン(NextGen Jane)、ジウィグ(Ziwig)などの複数の企業が、2026年内に、米国で子宮内膜症診断法の発売を目指している。これらの検査は、子宮内膜組織、血液、月経血、唾液のサンプル中のバイオマーカー(この場合、疾患や炎症などのプロセスを示すmRNA、タンパク質、miRNAなどの生体分子)を分析するものだ。

COURTESY MM PRODUCTION – MAGALI MEIRA
検査によって、患者は迅速かつ非侵襲的に正確な診断を受けることが可能になり、手術、ホルモン療法、骨盤底理学療法などの子宮内膜症の治療や管理戦略へのアクセスが早まる可能性がある。さらに、早期発見により、子宮内膜症患者がリスクの高い心血管疾患、心筋梗塞、脳卒中などの管理にも役立つ可能性がある。子宮内膜症は妊娠を困難にすることもあり、不妊症女性の約半数が子宮内膜症を患っているため、早期診断と管理によって妊孕(にんよう)性や体外受精(IVF)の成果の改善が見込まれる。
子宮内膜症のバイオマーカー検査は、単一細胞RNAシーケンシングや、数千種類のタンパク質を同時に特定可能な質量分析法といった、さまざまな技術に依存している。「これらの装置は、分子、つまり我々の場合はタンパク質を正確に同定するのに非常に優れています。そして、過去5年から10年で変わったのは、機器の感度が大きく向上したことです」。プロテオミクスの共同創業者であるリチャード・リプスコムは話す。また、機械学習によって、得られる膨大なデータを効率的に選別できるようになった。
これまでのところ、市場に検査を投入しているのはジウィグのみである。同社は唾液サンプルを使用して子宮内膜症の症状がある人のバイオマーカーを特定し、現在30カ国で販売している。本社があるフランスでは、検査費用は国民健康保険で全額カバーされている。
一部の研究者は、ジウィグの検査が大規模で多様な集団に対して使用された場合に、正確な結果を出せないのではないかと懸念している。同社の中間的な検証研究の対象に含まれていた患者は、わずか200人だった。「効果がないと言っているわけではありません。ただ、もっと多くの検証データが見たいのです」。ハーバード大学で疫学および婦人科学を教えるキャサリン・テリー准教授はこう指摘する。同社の担当者は、近く1000人の患者を対象とした結果を公表する予定であり、また、フランス当局は保険適用を承認する前に、完全なデータセットを確認していると付け加えた。

これらの検査は、子宮内膜症に対する取り組みが世界的に加速する中で登場している。過去5年間で、フランス、オーストラリア、英国、カナダは、子宮内膜症に関する野心的な国家的イニシアチブを開始した。
期待される利益は、個人レベルにとどまらない。世界経済フォーラム(WEF)は、2025年時点の見積もりとして、子宮内膜症による慢性疼痛、不妊、うつ病に対する早期診断と治療の改善により、2040年までに世界のGDPを少なくとも120億ドル押し上げる可能性があると推定している。
これらのバイオマーカー検査がさらに進化すれば、その結果が治療法の開発に活用される可能性がある。現在では、病変を切除するための外科手術が一般的だが、手術には最大7時間を要することもあり、さらに病変は再発しやすい。オーストラリア国立子宮内膜症臨床・科学試験ネットワークのジェイソン・アボット議長は、現在の子宮内膜症治療を30年前の乳がん治療にたとえている。かつては乳がん患者全員に外科手術が実施されていたが、現在では標的治療が腫瘍の成長と転移を助ける根本的な細胞プロセスに対処している。子宮内膜症検査も同様に、この疾患の異なるサブタイプを分類し、それぞれの炎症経路を解明する手がかりを提供する可能性がある。これにより、製薬会社は疾患を寛解状態に保つ標的治療を開発できるようになるだろう。
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コリーン・ド・ベルフォンは、パリを拠点とする科学ジャーナリストである。
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- colleen.de.bellefonds [Colleen de Bellefonds]米国版
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