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アルミ缶をクリーン燃料に、
米スタートアップが作った
「新エンジン」を訪ねた
JAMES DINNEEN
気候変動/エネルギー Insider Online限定
This startup is about to conduct the biggest real-world test of aluminum as a zero-carbon fuel

アルミ缶をクリーン燃料に、
米スタートアップが作った
「新エンジン」を訪ねた

米スタートアップのファウンド・エナジー(Found Energy)が、アルミニウム・スクラップから熱と水素を生成する「新エンジン」を開発した。来年、工具メーカーの工場に設置される予定だという反応炉を同社の研究施設で見学させてもらった。 by James Dinneen2025.11.04

この記事の3つのポイント
  1. 米スタートアップが液体金属触媒を用いてアルミニウムからエネルギーを高効率で抽出する技術を開発
  2. アルミニウムは体積比でディーゼル燃料の2倍以上のエネルギー密度を持つが表面酸化層が反応を阻害する課題があった
  3. 年間1200万トンの未回収アルミスクラップ活用と循環システム構築で産業脱炭素化への貢献が期待される
summarized by Claude 3

潰れたソーダ缶は蒸気の雲になって消え、目には見えない水素ガスが発生している。「水を加えれば、この反応を続けられます」。ピーター・ゴダートはそう言いながら、湯気を立てるビーカーに水を注ぎ入れた。「これは常温の水ですが、(ビーカーに)入れた瞬間に沸騰します。家庭のコンロよりも速く沸騰するんです」。

ゴダートは、ボストンに本社を構えるスタートアップ「ファウンド・エナジー(Found Energy)」の創業者兼CEOだ。同社は、アルミニウム金属のスクラップからエネルギーを取り出して、化石燃料を使わずに産業プロセスに動力源を供給することを目指している。2022年から同社は、小規模な装置でアルミニウムからすばやくエネルギーを取り出す方法の開発に取り組んできた。そして今、アルミニウムを燃料とするエンジンの大規模な装置を稼働させたばかりだ。ゴダートCEOは、「史上最大のアルミニウム-水反応炉」だと主張する。

来年早々には、この反応炉は米国南東部にある工具メーカーの工場に設置される予定だ。工場から排出されるアルミニウム廃棄物を燃料として、施設に熱と水素を供給する(この工具メーカーは、プロジェクトの正式発表前の社名公表を控えた)。

触媒を用いてアルミニウム金属内に蓄えられたエネルギーを引き出すこの技術は、すべてが計画通りに進めば、ますます増加するアルミニウム・スクラップをゼロカーボン燃料に変換できる可能性がある。そのエンジンが生み出す高熱エネルギーは、特にセメント生産や金属精錬などのように、電力だけで動かすことが難しい産業プロセスから排出される大量の温室効果ガスの削減に、特に役立つはずだ。

「私たちは燃料を発明しましたが、それは恵みであると同時に呪いでもあります」。実験用反応炉の配管や配線に囲まれながら、ゴダートCEOはこう話す。「私たちにとっては大きなチャンスですが、同時に、取り巻くすべてのシステムを自分たちで開発しなければならないということでもあります。私たちはエンジンとは何かという定義すら再構築しているのです」。

エンジニアたちは、アルミニウムが持つ優れたエネルギー密度に注目して、アルミニウムを燃料として利用する可能性を長年検討してきた。鉱石から精製・精錬されたアルミニウム金属のエネルギー量は、体積比でディーゼル燃料の2倍以上、水素ガスの約8倍にもなる。アルミニウムが水や空気中の酸素と反応すると、酸化アルミニウムが形成される。その反応の過程で熱と水素ガスが発生し、それらをゼロカーボンのエネルギーとして利用できるのだ。

液体金属

アルミニウムを燃料として使う際の問題点、そしてソーダ缶が自然発火しない理由は、この金属が反応し始めるとすぐに表面に酸化層を形成し、残りの部分の反応を妨げるという点にある。まるで、灰を出して自然に消える火のようだ。「人々は何度もこのアイデアを試しては、断念してきました」とゴダートCEOは言う。

アルミニウムを燃料として使うことが、依然として無駄な試みだと考える人もいる。「アルミニウムを燃料として利用する可能性は数年おきに浮上しますが、スクラップを燃料源として使ったとしても成功の見込みはありません」。こう話すのは、ブルネル大学ロンドンの冶金学者、ジェフ・スキャマンズ教授だ。同教授は、1980年代に10年間、アルミニウムを自動車の動力源として利用する研究に携わった。そもそも、鉱石からアルミニウムを精製・精錬するのに必要なエネルギー量を考えると、アルミニウムと水の反応の効率は燃料として意味を持つほど高くないと言う。「突飛なアイデアは、いつまでたっても突飛なのです」。

しかしゴダートCEOは、それを実現する方法を見つけたと確信している。「真のブレークスルーは、触媒作用を従来とは別の視点から考えたことでした」。水とアルミニウムを触媒に接触させて反応を加速させるのではなく、「逆転の発想」で、「アルミニウムに溶解できる材料を見つけた」のだ。

ゴダートCEOによると、同社のアプローチの核となる液体金属触媒は、 …

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