家族が陰謀論にハマったら:
専門家が語る、
5つの現実的アプローチ
陰謀論にはまった家族や友人を、どう助けるか。ケンブリッジ大学で誤情報を研究するファン・デル・リンデン教授が教える現実的な対処法を紹介する。 by Niall Firth2025.11.17
- この記事の3つのポイント
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- ケンブリッジ大学研究者が陰謀論対策の5段階アプローチを解説
- コロナ禍で陰謀論拡散が深刻化し従来の事実提示による反論は逆効果
- 完全過激化した人への介入は困難で予防的教育と早期対応が重要
知人が、あっという間に陰謀論者になってしまった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの真っ最中だった。その知人は突然、フェイスブックに毎日のように投稿し始めた。新型コロナウイルス感染症のワクチンやマスク着用は危険であり、私たちをコントロールし、抑え込もうとする企てだと警告する内容だった。すべてを計画したのは政府であり、それは世界を支配する謎に包まれた小児性愛者のエリート集団による、より大規模な陰謀の一部だとも投稿した。世界経済フォーラム(WEF)が何らかの形で関与しており、ビル・ゲイツも当然ながら関わっているというものだった。その主張は日を追うごとに荒唐無稽になっていき、言っていることが意味をなさない時もあった。
私は科学・技術分野のジャーナリストとして、これに対応するのが自分の務めだと感じた。だから私は時折、その人の投稿に対して長いデバンキング( 事実に基づき誤情報を訂正)する反論を投稿した。(当時はまだ不確かではあったが)事実さえ提示すれば、相手を納得させられると考えていた。しかし、返ってきたのは嘲笑だけだった。どうやら私はかなり世間知らずだったようだ。結局、自分の精神的健康を保つために、私はその知人をブロックした。
それ以来、私は度々考えてきた。もっと助けられたのではないか? その人を落ち着かせて、正気を取り戻させるために、もっとできることがあったのではないか?
ケンブリッジ大学で社会心理学を研究しているサンダー・ファン・デル・リンデン教授に話を聞くべきだった。同教授は、誤情報と、それに惑わされ難くなる方法について記した書籍『Foolproof: Why We Fall for Misinformation and How to Build Immunity(誰でもできる:なぜ誤情報に騙され、どうすれば免疫を得られるのか)』(2023年刊、未邦訳)の著者である。
ファン・デル・リンデン教授に電話をかけ、こう尋ねた。家族や友人の誰かが陰謀論にはまっている兆候が見られる場合、どのようなアドバイスをするのですか?
ステップ1:
「プレバンキング」から始める
陰謀論の渦に巻き込まれない最善の方法は、もちろん最初から足を踏み入れないことだ。これが「プレバンキング(事前暴露)」という考え方である。この手法は、(皮肉なことに)病気に対するワクチン接種のように機能する。陰謀論がどのように仕組まれているかをあらかじめ理解しておくことで、実際にそれに出会ったときに見抜く力を強化できる。
この概念は、1960年代に社会心理学者ウィリアム・マクガイアによって提唱された。彼は、米兵が敵による洗脳から身を守る方法を模索していた。マクガイアが打ち出したのは、「洗脳に対抗するワクチン」という発想だった。
「陰謀論者は、デバンキングやファクトチェックに否定的に反応し、より攻撃的になって信念を一層強める傾向があります」と、サンダー・ファン・デル・リンデン教授は語る。「しかし、プレバンキングの手法を用いると、彼らはより受け入れやすくなるのです」。
最も効果的なプレバンキングの一つは、事実関係の正誤を論じるのではなく、人がどのように操作され得るかを示すことだ。これは、誤情報や陰謀論に触れる前の段階での広範なメディア・リテラシー教育の一環として最も効果を発揮する(感染症と同様に、治療より予防が重要という考え方だ)。ただし、ファン・デル・リンデン教授によれば、この手法はすでにある程度過激化した人々に対しても「セラピー(治療)」のような効果を発揮す …
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