「声のクローン」で歌声再現
ALSのミュージシャンが
2年ぶりにステージ復帰
難病によって歌声を失った32歳のミュージシャンが、AI音声クローン技術で歌声を再現した。完璧ではないが「人間らしい」その声で、彼は2年ぶりにバンドメンバーとステージに立った。 by Jessica Hamzelou2026.02.20
- この記事の3つのポイント
-
- ALS患者のミュージシャンが古い録音から声のクローンを生成し2年ぶりにステージ復帰を果たした
- 筋萎縮性側索硬化症により歌唱能力を失った患者にとって音楽活動の継続は困難な課題となっている
- AI音声技術の発展により失声患者の創造活動継続と人間らしさの維持に新たな可能性が開かれた
パトリック・ダーリングの歌が始まると、観客席には涙があふれた。それは彼が会うことのできなかった曽祖父のために書いた、心のこもった歌だった。しかし、この演奏が感動的なのは別の理由もある。2年前に歌う能力を失って以来、バンドメンバーと共にステージに立つのはダーリングにとって初めてのことだったのだ。
32歳のミュージシャンである彼は、29歳の時に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。他の運動ニューロン疾患(MND)と同様に、この病気は体の筋肉に信号を送る神経に影響を与える。ALS患者は最終的に、動く、話す、呼吸するための筋肉を含め、筋肉をコントロールする能力を失う。
ダーリングの最後のステージ・パフォーマンスは2年以上前のことだった。その時点で、彼はすでに立って楽器を演奏する能力を失っており、歌ったり話したりするのに苦労していた。しかし最近、彼は古い録音の断片で訓練されたAIツールを使って、失った声を再現することに成功した。別のAIツールによって、彼はこの「声のクローン」を使って新しい歌を作曲することも可能になった。ダーリングは再び音楽を作れるようになったのだ。
「残念ながら、私は歌ったり楽器を演奏したりする能力を失いました」。ダーリングは2026年2月11日にロンドンで開催されたイベントのステージで、声のクローンを使って語った。「それにもかかわらず、最近の私の時間の大部分は、音楽の作曲と制作を続けることに費やされています。そうすることは、今の私にとってこれまで以上に重要に感じられます」。
声を失うということ
ダーリングは14歳頃からミュージシャン兼作曲家として活動してきたという。「ベースギター、アコースティックギター、ピアノ、メロディカ、マンドリン、テナーバンジョーを演奏することを学びました」と彼はイベントで語った。「しかし、私の最大の愛は歌うことでした」。
彼がバンドメンバーのニック・コッキングと出会ったのは10年以上前、まだ大学生だった頃だとコッキングは語る。ダーリングはその後すぐにコッキングのアイリッシュ・フォークバンド「ザ・ケイリー・ハウス・バンド」に加入し、2014年4月に最初のライブをした。シンガー兼ギタリストとしてバンドに加入したダーリングは、「バンドの音楽性を一段と高めました」とコッキングは振り返る。
しかし数年前、コッキングと他のバンドメンバーはダーリングの変化に気づき始めた。次第に動作が不器用になっていったとコッキングは語る。雨の中、カーディフ市内を歩いて移動しなければならなかった夜のことを彼は思い出す。「ダーリングは何度も滑っては転び、舗装石につまずいたりしていました」。
当時はあまり深刻に考えなかったが、ダーリングの症状は悪化し続けた。疾患はまず脚に影響し、2023年8月には演奏中に座る必要が生じるようになった。その後、手の機能を失い始めた。「最終的に彼はもうギターやバンジョーを演奏できなくなりました」(コッキング)。
2024年4月までに、ダーリングは同時に話すことと呼吸することが困難になっていた。その公演では、バンド …
- 人気の記事ランキング
-
- EVs could be cheaper to own than gas cars in Africa by 2040 アフリカでEVがガソリン車より安くなる日——鍵は「太陽光オフグリッド」
- Promotion Emerging Technology Nite #36 Special 【3/9開催】2026年版「新規事業の発想と作り方」開催のお知らせ
- Why the Moltbook frenzy was like Pokémon 「AIの未来」と持ち上げられたMoltbookがつまらない理由
- What’s next for Chinese open-source AI ディープシーク騒動から1年 中国のオープンモデルが 世界の開発者を席巻している
- 10 Breakthrough Technologies 2026 MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2026年版
