世界を変えるはずのAIが、それでも誇大広告と言われる理由
AIが変革をもたらすという約束の上に、テクノロジー業界は成り立っている。しかし最先端モデルでも多くの業務タスクをこなせず、誰が、いつ、どのように恩恵を受けるのかは不明なままだ。誇大広告が飛び交う背景には、ステップ2という巨大な空白がある。 by Will Douglas Heaven2026.05.12
- この記事の3つのポイント
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- AIは「構築→変革」を約束するが、その中間プロセスが依然として不透明なままである
- 最新研究ではAIエージェントが実務タスクの大半を完了できず、誇大宣伝と実態の乖離が示されている
- 推測の氾濫を抑えるには、開発者の透明性・産学連携・実世界評価手法の確立が急務だ
2026年2月、私はロンドンで開催されたアンチAIデモでチラシを手にした。その書き手が『サウスパーク(South Park)』のパンツ泥棒のノームをもじって書いたのかどうかは定かではない。しかし、もしそうだとすれば、見事に的を射ている。チラシにはこう書かれていた。「ステップ1:デジタル超知性を育てる。ステップ2:? ステップ3:?」
このチラシは、抗議活動を共同主催した国際的な活動家グループであるポーズAI(Pause AI)が制作したもので、読者へのこんな訴えで締めくくられていた。「ステップ2が何なのかわかるまで、AIを一時停止してください。」
1998年に初放送された『サウスパーク』のエピソード「ノームズ(Gnomes)」では、ケニー、カイル、カートマン、スタンが、夜中にこっそり抜け出してタンスからパンツを盗むノーム(妖精)たちのコミュニティを発見する。なぜパンツを盗むのか? ノームたちはピッチデッキを披露する。「フェーズ1:パンツを集める。フェーズ2:?フェーズ3:利益を得る」。
ノームたちのビジネスプランは、スタートアップ戦略から政策提言まであらゆるものを風刺するために使われるインターネット・ミームの傑作の1つとなった。ミームの第一人者であるイーロン・マスクも、火星探査ミッションの資金調達計画について語った講演でこれを引用したことがある。そして今、このミームはAIの現状をまさに言い表している。企業はテクノロジーを構築し(ステップ1)、変革を約束した(ステップ3)。しかし、そこへどうたどり着くかは、依然として大きな疑問符のままだ。
ポーズAIの立場からすれば、ステップ2には何らかの規制が必要だということになる。しかし、具体的に何を求め、誰が執行するかについては、議論の余地がある。
一方、AIの推進派はステップ3が救済をもたらすと確信しており、中間の部分をなおざりにしがちだ。数週間前にオープンAI(OpenAI)の主任科学者ヤクブ・パチョッキが私に語った「経済的に変革をもたらすテクノロジー」と表現したものを背景に、私たちが明るい未来へと突き進んでいると彼らは見ている。目指す場所はおおよそわかっている。ただし、そこはまだ霞がかかっており、かなり先の話だ。しかし、そこへ向かうルートはそれぞれ異なる。全員がたどり着けるのだろうか? 誰かはたどり着けるのだろうか?
未来についての大きな主張があるたびに、誇大宣伝を鎮める、より冷静な現実評価が存在する。最近の2つの研究を見てみよう。1つはアンソロピック(Anthropic)によるもので、大規模言語モデル(LLM)によって最も影響を受ける職種を予測した(要点としては、管理職、建築家、メディア関係者は変化に備えるべきだが、造園業者、建設作業員、ホスピタリティ業界の人々はそれほどでもないという)。しかし、これらの予測はあくまで推測にすぎず、LLMが実際の職場でどのように機能するかではなく、どのようなタスクが得意そうかに基づいている。
もう1つは、AIを活用して人材採用を効率化するスタートアップ、メルコア(Mercor)の研究者たちが2月に発表した研究で、オープンAI、アンソロピック、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の最先端モデルを搭載した複数のAIエージェントを対象に、銀行員、コンサルタント、弁護士が日常的に実施する480の業務タスクでテストを実施した。テストしたすべてのエージェントが、担当業務の大半を完了できなかった。
なぜこれほど大きな意見の相違があるのか。要因はいくつかある。まず、誰が(そしてなぜ)その主張をしているのかを考えることが重要だ。アンソロピックは利害関係者だ。さらに、何か大きなことが起ころうとしていると主張する人々の多くは、AIコーディング・ツールがいかに急速に進化しているかを主な根拠として、その結論に達している。しかし、すべてのタスクがコーディングで解決できるわけではない。たとえば、他の研究ではLLMが戦略的な判断を下すことが苦手だという結果も出ている。
さらに、実際に導入される際、ツールはクリーンルームに置かれるわけではない。人間や既存のワークフローが混在する環境で機能しなければならない。そして、AIを導入することで状況が悪化することもある。確かに、テクノロジーが変革的な地位を確立するためには、既存のワークフローを解体し、新しいテクノロジーを中心に再構築する必要があるかもしれないが、それには時間(と勇気)が必要だ。
その大きな穴こそ、ステップ2があるべき場所だ。何が起ころうとしているのか、そしてどのように起こるのかについての合意の欠如が情報の真空地帯を生み出し、そこに毎週のように飛び出す最新の荒唐無稽な主張が流れ込んでくる。証拠などお構いなしだ。何が来るのか、どのように展開されるのかについての真の理解から私たちはあまりにも遠ざかっており、たった1つのソーシャルメディアの投稿が市場を揺るがすことができる(そして実際に揺るがしている)。
推測を減らし、証拠を増やす必要がある。しかしそのためには、モデル開発者の透明性、研究者と企業間の連携、そして実世界で展開された際に実際に何が起きるかを明らかにする新たな技術評価手法が必要だ。
テクノロジー業界(そして世界経済)は、AIが本当に変革をもたらすという約束の上に成り立っている。しかし、それはまだ確実な賭けではない。次に未来についての大胆な主張を耳にしたとき、ほとんどの企業がまだ自分たちのパンツをどう扱うか考え中だということを思い出してほしい。
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- ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
- AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めた。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピューターサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識を持つ。