KADOKAWA Technology Review
×
Global Urban Footprint Revealed in Unprecedented Resolution

世界の都市化の状況が鮮明にわかる地図が公開中

市街地の地図化にはさまざまな困難を伴う。しかし、宇宙からレーダーで撮影した画像データベースが出来たことで、地球の都市化状況を把握する研究に光明が見えてきた。 by Emerging Technology from the arXiv2017.08.30

都市化により、地球は変貌を遂げつつある。現在の世界の人口は約70億人だが、そのおよそ半数が都市に住んでいる。2050年までに、都市居住人口の割合は全体の3分の2に達すると予測されている。さらに地球の人口自体が増え続けているので、2050年までには都市に住む人口だけで60億人を超えることになる。

都市人口が増えると、環境に大きな負担がかかる。都市には水、食品、電力を供給する必要があり、複雑なインフラが必須となる。これらのインフラすべてを、持続可能な形で施設・維持・管理しなければならない。

そこで重要な問題が浮上してくる。地球上に都市がどれぐらいあるのか、さらには地球上のどのくらいの面積が市街地で覆われているのか、ということだ。

先進国にはすでに詳細な地図があるが、発展途上国には存在しないうえに、発展途上国が地球の人口に占める割合は大きい。さらに、宇宙から撮影した画像を使って市街化地域を特定しようとすると、いろいろと問題が出てくる。画像の解像度が低い、雲で覆われている地域の情報が把握できない、データの解釈が方法によってあいまいだ、という点だ。

このため、宇宙からでも雲に邪魔されず、高解像度の画像を撮影して、明確に市街化地域を地図化する手法が必要になる。

ドイツのウェスリングにあるドイツ航空宇宙センター(German Aerospace Center)では、トーマス・エシュ博士らが上記の条件をすべて満たした世界の都市化状況を表す地図を公表している。独自の研究によって、12メートル単位という前例のない精度と解像度で、地球全体の都市化の様子が分かる。

「今回の研究によって新たに地球の人口動態が分かり、これまでにない高解像度の画像によって、人間の居住状況が把握できるようになっています」とエシュ博士が率いる研究チームはいう。

これまで地球上の市街化状況を推測する場合、ほとんどが光学レンズで地上を撮影した画像を解析するしかなかった。光学レンズでの撮影は簡単だが、重大な欠点がある。

まず、光学レンズを使って宇宙から撮影する画像の空間解像度は数百メートル単位だ。そのため、小規模な地方の村や都市の未開発地域が特定できるのかについては、誰が考えてもあやしい。

また、上空に雲がかかると地上の様子が分かりにくなり、情報が得られる範囲にむらが出てくる。さらには、そもそも市街地をどうやって特定するのかという問題がある。光学レンズで撮影した画像を使って市街地を特定しようとすると、どうしてもある程度は不明確な部分が出てしまう。

その結果、地理学者が地球の都市化状況を推測しようとすると、実態と比べて大きな誤差が生じてしまう。より優れた手法が必要なのは明らかだ。

そこで、エシュ博士が率いる研究チームは、タンデムエックス(TanDEM-X)と呼ばれる地球観測衛星から得られる合成開口レーダーの画像を元に、市街地に関する地球規模のデータベースを作り上げた。2007年以降、タンデムエックスは2基の人工衛星が連携して、お互い近い距離(わずか数百メートル)で地球を観測している。

衛星2基を利用して微妙に異なる角度からレーダー画像を撮影するため、地球の三次元(3D)地図が作成できる。エシュ博士が率いる研究チームは合計で47万組みの画像を処理し、地球全体の地図を自前で作り上げた。

出来上がった地図の空間解像度は12メートルだが、3D地図なので、高低差の変化状況も明らかになる。実際、壁のような垂直構造物を特定するのもたやすい。

これによって、市街地を自動的に特定する作業が、今までに比べてはるかに容易になる。さらに、レーダーは雲に邪魔をされることはないので、上空に雲がかかっていても得られるデータに影響は出ない。

出来上がった地図は、前例のないレベルの精度と解像度の高さとなった。「われわれは現在、他では真似のできない空間解像度で、最新の地球の居住状況を公開しています。これを『グローバル・アーバン・フットプリント(the Global Urban Footprint)』と呼んでいます」とエシュ博士が率いる研究チームはいう。

研究成果は素晴らしく、地理学者や社会学者、政府や自治体が、都市化によって地球が変化していく様子を理解する上で重要な役割を担う。

1950年の地球の農村人口は、都市人口の2倍だった。2008年には都市人口が初めて農村人口を上回り、都市化のスピードはますます速まりつつある。

都市化が地球に与えるインパクトを理解するには、まず正確な地図を作成する必要がある。今になってようやく、都市の数を数えて土地の専有面積を計測するという困難な作業を、本格的に進めることが可能になった。

地図はこちらで閲覧可能。https://geoservice.dlr.de/web/maps/eoc:guf:4326

(参照:アーカイブ(arXiv)arxiv.org/abs/1706.04862: 宇宙から人間の居住状況を地図化する最新の立脚点)

人気の記事ランキング
  1. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  2. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
  3. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
エマージングテクノロジー フロム アーカイブ [Emerging Technology from the arXiv]米国版 寄稿者
Emerging Technology from the arXivは、最新の研究成果とPhysics arXivプリプリントサーバーに掲載されるテクノロジーを取り上げるコーネル大学図書館のサービスです。Physics arXiv Blogの一部として提供されています。 メールアドレス:KentuckyFC@arxivblog.com RSSフィード:Physics arXiv Blog RSS Feed
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  2. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
  3. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る