医学生物学

How the Mathematics of Algebraic Topology Is Revolutionizing Brain Science 代数的位相幾何学
脳科学に革命を起こす

誰も脳の配線図を理解していなかったが、コネクトームと呼ばれる脳の構造を代数的位相幾何学で理解できることが判明した。 by Emerging Technology from the arXiv2016.08.25

人間のコネクトーム(白質の構造で基本的には脳の配線図といってよい)は、脳の異なる部分間をつなぐリンクのネットワークだ。リンクは、灰白質を構成する神経細胞体を接続する神経細胞「軸索」の突起の束である脳の白質によって図式化する。

脳に関する従来の見解では、灰白質が主に情報処理や認知に関与し、白質は脳の異なる部分間で情報を送信している、とされてきた。

白質の構造はあまり理解されてないが、いくつかの高度なプロジェクトによる研究で、コネクトームは当初考えられていたよりもずっと複雑だとわかってきた。人間の脳には、1014のシナプス結合で接続された1010ものニューロンがある。リンク同士の接続を図式化するのはもともと難しい上に、ネットワーク構造が画像解像度に依存するので、さらに難しくなっている。

構造を研究することで、白質は学習や脳の活動調整で重要な役割を果たしている証拠も出てきた。しかし、この役割が構造にどう結び付いているかは正確にはわからない。

したがって、白質の構造をさまざまなスケールで理解することは神経科学の大きな課題である一方、適切な数学的ツールの欠如が、研究の進展を妨げていた。

しかし今日、この状況は代数的位相幾何学のおかげで変わろうとしている。神経学の研究者が徐々にだが初めて、代数的位相幾何学の価値を理解し始めている。従来、代数的位相幾何学は、空間や形状を分類するための「数学的な探求」だったが、ペンシルベニア大学のアン・サイズモア研究員(準計算機生物学者)などによるチームは、代数的位相幾何学がどのようにコネクトームの理解に革命をもたらすかを示した。

学問的探求において、代数的位相幾何学者は、異なるスケールで位相空間での対称性を見つけるという、試練を設定する。

数学において、対称性とは、視点を変更しても不変であることだ。たとえば正方形は90度回転しても形状が変わらない。これが対称性のひとつのタイプだ。

中でも、コネクトームを理解する上では、さまざまなスケールでも対称性を保つ数学的構造「永続的な相同性」の探求が重要だとわかってきた。

神経学者は、特定の認知機能は、脳全体に分散されているさまざまな神経ノードを利用することにずっと気付いていた。コネクトームプロジェクトの中心的な疑問の1つは、これらのノードが白質でどう接続されているかだ。

神経学者が白質繊維を研究する方法は、繊維の長さに沿って、どう水を拡散するかを観察することだ。拡散経路は、「拡散スペクトルイメージング」によって明らかにでき、白質の構造を理解できる。

詳細に調べるため、サイズモア研究員は8人の健康な成人の脳を測定した。これにより、すべての脳に同じ構造を探せた。チームは特に、聴覚系や視覚系、接触、圧力、疼痛に関する体性感覚システムなど、認知システムに関わる脳の83の異なる領域間のリンクを観察した。

こうして配線図を構築したサイズモア研究者のチームは、構造の研究に代数的位相幾何学の手法を適用することで、いくつかの重要な洞察が生まれた。

まず特定のノードのグループは、グループ内の各ノードが他のすべてのノードに接続された「すべての対全接続している」状態でクリークと呼ばれる構造を形成していることが明らかになった。認知システムのすべては、異なる数のノードを含むのクリークで構成されている。

しかし、分析により、もうひとつの重要な位相構造のグループが明らかになった。この位相構造は「サイクル」と呼ばれる閉じたループで、最初のノードが次のノードに接続し、その次のノードがまた次のノードに接続していき、最後のノードは最初のノードに接続してサイクルが閉じている。

サイクルによって、脳の周りに情報を伝える神経回路が形成され、フィードバックループが、おそらく記憶の形成と動作の制御に作用する。サイズモア研究員は、この分析が、異なるサイズのサイクルの広い範囲を明らかにしたという。

クリークは、大脳皮質のような脳の特定の部分内に存在する傾向があるが、サイクルは、異なる機能を持つ大きく異なる領域を連結しながら、さまざまな領域にまたがって存在する。

「これらのサイクルは、長いループで進化上の早い起源を持つ領域と、遅い起源を持つ領域をリンクし、脳機能を制御する上で独自の役割がある」

クリークとサイクル間のもうひとつの重要な違いは密度だ。クリークは全対接続されているすべてのノードを含むため、密集した構造だが、対照的に、ループ状のサイクルは比較的拡散している。確かに、サイクルのひとつの特徴は、サイクルが包含する脳の部分の間にリンクが存在しないことだ。

本質的に、サイクルは、幅広いスケールのコネクトームにある空洞の輪郭を示す。サイズモア研究員のチームは、これらの空洞が重要な役割を果たしていることを示している。

「これらの結果は、代数的位相幾何学の手法が構造的なコネクトームの研究に新たな視点を提供することを初めて実証したもので、人間の脳の構造的様式に重要な機能としてループ状の経路にハイライトを当てている」

コネクトームのよりよい理解に向けて、代数的位相幾何学がいかに重要な貢献をしているかを明らかにするのは、興味をそそる研究だ。優れた科学がすべてそうであるように、この研究は多くの答えを提供すると同時に多くの疑問をも提起する。ひとつは、サイクルが、他のネットワーク構造よりも、より広範な認知計算を可能にできるのではないかということだ。しかし、どんな種類の計算だろうか?

また、人工知能(AI)システムのニューラルネットワークは、脳の構造を模したものだ。新しい脳の構造が分析から判明した今、AI学界は、今回の発見をどう採り入れ、代数的位相幾何学を自分たちの研究に活用するのだろうか?

これは明らかに代数的位相幾何学者にとってエキサイティングな時代だ。

関連ページ

人間のコネクトームにおけると閉包と空洞:人間のコネクトームにおけると閉包と空洞

人気の記事ランキング
  1. Wikileaks E-Mails Are an Election Influence to Really Worry About クリントン不支持の世論形成は、ロシアによる選挙干渉
  2. Neural Network Learns to Identify Criminals by Their Faces ニューラル・ネットワーク、「犯罪者顔」で犯罪者を判定
  3. Can social media control public opinion? ソーシャルメディアで世論は操作できるか?
  4. Machines Can Now Recognize Something After Seeing It Once グーグル・ディープマインド、大量データ不要の深層学習システムを開発
  5. How the Bot-y Politic Influenced This Election 大統領選ツイートは約20%がボット、約75%はトランプ支持
この記事をシェアしてください!
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
エマージングテクノロジー フロム アーカイブ [Emerging Technology from the arXiv]米国版 寄稿者
Emerging Technology from the arXivは、最新の研究成果とPhysics arXivプリプリントサーバーに掲載されるテクノロジーを取り上げるコーネル大学図書館のサービスです。Physics arXiv Blogの一部として提供されています。メールアドレス:KentuckyFC@arxivblog.com RSSフィード:Physics arXiv Blog RSS Feed
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

0 コメント
    「合成生物学」の記事
    人気の記事ランキング
    1. Wikileaks E-Mails Are an Election Influence to Really Worry About クリントン不支持の世論形成は、ロシアによる選挙干渉
    2. Neural Network Learns to Identify Criminals by Their Faces ニューラル・ネットワーク、「犯罪者顔」で犯罪者を判定
    3. Can social media control public opinion? ソーシャルメディアで世論は操作できるか?
    4. Machines Can Now Recognize Something After Seeing It Once グーグル・ディープマインド、大量データ不要の深層学習システムを開発
    5. How the Bot-y Politic Influenced This Election 大統領選ツイートは約20%がボット、約75%はトランプ支持