KADOKAWA Technology Review
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ビットコインに喰われた街
カナダ・ケベック州
北米最大級の採掘場を直撃
Bitcoin is eating Quebec

ビットコインに喰われた街
カナダ・ケベック州
北米最大級の採掘場を直撃

ビットコインを始めとする暗号通貨は膨大な数のコンピューターとそれを動かす大量の電力を必要とする。カナダ・ケベック州の水力発電を利用した北米最大の採掘場は、巨大ダム建設による環境への深刻な影響、冬場の電力不足への懸念など、新たな問題を引き起こしている。 by Kathryn Miles2018.05.07

モントリオールから東へ約100キロメートル、ケベック州サンティアシントにあるこの古い工業団地は、一見したところ最先端施設には見えない。巨大なチョコレート工場でカカオを焙煎する匂いが、貨物トラックや忘れ去られたオフィスにまで染みこんでいる。その近くでは、オーディオ・ビジュアル機器の修理店や家畜の病原体検出を専門とする農業研究所が、使われていない巨大な乳製品処理工場のスペースを争っている。この3つの建物の後ろには、低層の古い建物がある。以前はスープ会社の倉庫で、その前はおむつ工場だった。内部に新しい建物があることをほのめかすプラスチック・シートや駐車場にある何台もの光輝く社用車がなければ、この建物もとっくの昔に忘れ去られたオフィスの1つだと勘違いされそうだ。だが、社用車の隣に立って耳を澄ませば、新しくて明らかにハイテクな何かがここで起きていることを示唆する最大の手がかりが聞こえてくる。毎日変わることのない同じタスクを何度も何度も休むことなく繰り返す、何千台ものコンピューターのブーンという音だ。ビルの外から十分聞こえる音だ。

この音を発するコンピューター群は、北米最大級の暗号通貨採掘業者であるビットファーム(Bitfarms)のものだ。一度は使われなくなったこの工場には、床から天井までの棚に約7000台のシューボックス・サイズのコンピューター(2018年4月時点の台数。7月には1万4000台まで増える予定)がびっしり収められ、巨大な棚は建物全体を2分している。棚の片側では、コンピューターの裏側から無秩序に伸びるワイヤーとルーターがカナダの冷たい空気にさらされている。反対側では何千もの同じ形をした冷却ファンがうなり声を上げ、熱風が空になった段ボール箱の山を押しのけ、空きスペースへ流れていく。薄手のTシャツとジーンズを着た数名の従業員が熱で顔を赤くしてラックの両側を忙しく動く。じめじめして寒く、どんよりとした日でも、ファンが回っている側では息苦しさを感じる。

これらの「リグ(rigs)」と呼ばれるコンピューターはある目的を持って作られた。気温と湿度の急激な変化に耐え、毎秒数兆回の演算処理を休むことなく1日中繰り返す。演算の種類はたった1つだけだ。このコンピューター群は莫大なエネルギーを消費する。サンティアシントの7000台だけで、近くにあるモントリオール・カナディアンズのホッケー競技場が満員になった時に使われる電力よりも常に多くのエネルギーを消費する。

地球全体では、2009年に始まった暗号通貨ブームの一部として、こうしたコンピューターが何百万台も稼働している。ビットコイン誕生から10年、暗号通貨採掘作業のほとんどは、豊富な電力があって規制が緩い中国やルーマニアで行なわれてきた。2016年、カナダ・ケベック州の電力会社であるハイドロ・ケベック(Hydro-Québec)は、マイクロソフトやアマゾンが運営するようなデータセンターを招致する正式な計画を発表した。暗号通貨の採掘者が熱心に訪問し、2017年9月には提案書を提出し始めた。採掘者(マイナー)の関心は極めて高く、すぐにハイドロ・ケベックが対応できる範囲を上回った。この時入り切れなかった採掘業者をケベック州がわずかでも受け入れていたならば、ケベック州は暗号通貨採掘の世界的な中心地となっていただろう。ハイドロ・ケベックの送電網が、冬の間にとりわけ増加する電力需要にうまく耐えられるかという問題もあった。環境保護主義者や社会正義推進派は、データセンター誘致キャンペーンが環境や文化に及ぼすインパクトを危惧している。そして次には、完全に仮想的な通貨の真の価値について、難しい倫理的疑問も湧いてきた。

無益なパズル

暗号通貨は元来の性質として、エネルギーを大量に消費する。暗号通貨の分散型台帳システム(その最大のものがビットコインだ)は、「プルーフ・オブ・ワーク」というアプローチにセキュリティのほとんどを依存している。ビットコインのシステムは、ビットコイン取引の「ブロック」を検証する演算問題を解いたことに対する報酬として、約10分ごとに新しいビットコインを発行する。採掘者がある基準に到達するまで何度も演算を繰り返し、データを「ハッシュ」と呼ばれる一連のコードに変換すると、問題を一つ解いたと認められる。このプロセスを完了するのに高度な知識は不要だが、計算過程ですさまじい量のはずれを引かされる。ビットコインのインサイダーはこれを、ロト(数字選択式宝くじ)の当たり番号を推測するようなものだと表現している。

「本質的には、数学で解けない無益なパズルを解いているということです」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のクリプトエコノミクス研究所の創設者である、クリスチャン・カタリーニ准教授(テクノロジカル・イノベーション担当)はいう。「獣のように、ただ力尽くで計算するだけです」。その力の裏にある筋肉は、採掘者のコンピューターに電力として供給されている。

資源依存は、ビットコインのような分散型システムに固有の特徴だと、カタリーニ准教授はいう。なぜならば、参加者同士の信頼が欠如しているという原則に基づいているからだ。米連邦準備制度理事会(FRB)のような中央銀行の保証を受ける代わりに、ビットコインのような暗号通貨は、すべての取引を透明化し、すべての参加者が検証可能にすることで不正に対抗する。台帳を改ざんしようとすれば自滅を招く。

「仮想通貨システムは基本的に、ユーザーと攻撃者の間に経済コストを置いているのです」と、カタリーニ准教授はいう。「もし誰かが取引を改ざんしてシステムを転覆させようとしたり、正当な取引を反転させようとしたりすれば、おびただしい量のエネルギーと演算が必要にな …

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