まもなく治験が始まるCRISPR療法、それでも残る懸念
遺伝子編集技術「クリスパー(CRISPR)」による治療が有望視されており、欧米では年内にも治験が開始される予定だ。科学者たちはクリスパー療法の効果や安全性を確認するためにサルを使用した実験を実施しているが、事例は少なく、懸念材料は残っている。 by Emily Mullin2018.04.17
今年中に、欧米の人々は遺伝子編集ツールのクリスパー(CRISPR)を使用した病気の治療を受けられるようになりそうだ。だが、大きな問題が残っている。クリスパーは本当に効果があるのだろうか?
私たちの霊長類の親戚がその答えを握っているかもしれない。
クリスパーがシャーレ上で人間の細胞を編集するのに初めて使われたのは2013年である。以降クリスパーは、人間のDNAを置き換える容易な方法であり、致命的な病や生涯にわたる病を1回の治療で遺伝子の根幹レベルで根治するのに有望だとして持ち上げられてきた。
だが、DNAを切断することはその人の遺伝子を永久に変えてしまうことになる。科学者はクリスパーを人間に使用する前に、安全性と効果を確認しなければならない。クリスパー療法に人間がどのように反応するかを予測するのに、マウスが常に正確な手段になるわけではない。そのため、科学者は臨床試験に向けた研究におけるゴールド・スタンダード(至適基準)として、代わりにサルで実験することがしばしばある。
現時点では、サルにクリスパーを使用したデータは、あまり発表されていない。だが、小規模な研究における初期の成果からは、一部の病気を治癒できる可能性と、他のケースにおける困難な課題が指摘されている。
サルでの最初のクリスパー実験の中には、鎌状赤血球症とベータサラセミア(地中海性貧血)といった遺伝性の血液疾患に関するものがある。これらの病気はいずれも、体中に酸素を運んでいる赤血球内のタンパク質であるヘモグロビンを生成する単一遺伝子の突然変異が原因となっている。科学者はクリスパーが両方の病気に対して理想的な治療法になる可能性があると考えている。いずれの病気も、1カ所の遺伝子切断で治せるかもしれないのだ。
そのアイデアは、クリスパーを使ってDNAの特定のセクションを不活性化して、通常は誕生後に停止する胎児型のヘモグロビンを生成するスイッチを入れるというものだ。これにより、患者は鎌状赤血球症とベータサラセミアのあらゆる症状を取り除くのに十分な量の正常なヘモグロビンを得られるだろう。
米国立衛生研究所(NIH)のシンシア・ダンバー博士ら研究者は、この手法を骨髄内の造血幹細胞で試している。これらの細胞をサルから採取した後、研究室内でクリスパーを使用して改変し、その後、新しい正常な血液細胞を育てるためにサルの骨髄に再び注入する。
レベルを上げる
治療が効果を上げるには、ある程度の割合の細胞が編集されなければならない。ダンバー博士の研究におけるサルの場合、最初は順調のように見えたという。しかし、3、4カ月経っても、症状を改善するのに必要な編集がなされた細胞は約5%にしか達しなかった。鎌状赤血球症の症状を緩和するには …
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