KADOKAWA Technology Review
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クリプトクライムを見逃すな
暗号通貨の不正利用と闘う
世界の研究者たち
コネクティビティ Sitting with the cyber-sleuths who track cryptocurrency criminals

クリプトクライムを見逃すな
暗号通貨の不正利用と闘う
世界の研究者たち

ビットコインに代表される暗号通貨の犯罪利用(クリプトクライム)が後を絶たない。いまのところ犯罪者が優位な立場にあるが、暗号通貨の世界を安全なものにしようと取り組む研究者たちによって、状況は少しずつ変わりつつある。 by Douglas Heaven2018.05.22

とげとげしい形をした黄色と青の模様が、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究室壁一面のスクリーンに広がりだす。鼓動を打ったり踊ったりしているかのように、模様は何もない場所から現れる。映像は眠気を誘い見ている人を困惑させるが、それが何であるかを理解すれば合点がいく。私はビットコインのブロックチェーンが目の前で成長する様を見ていたのだ。

青いギザギザの円が現れると、インペリアル・カレッジのウィリアム・ノッテンベルト研究員は説明し始めた。「これは、誰かがビットコインを受け取り、そこから何千という人に分配していることを示しています」。

「おそらく、これは採掘プールで、ブロックを見つけた人に報酬が支払われているのでしょう」。ノッテンベルト研究員はスクリーンに映し出されたある模様の集まりを指差した。

「あぁ、この構造は興味深いですね」。おそらく複数の口座への支払いを足していると思われる、いくつかの青い円が見える。だがそれは黄色い線で描かれた網でつながっている。まるで誰かが油性マーカーでディスプレイに殴り書きをしたようだ。

そこでノッテンベルト研究員が見つけたのは、現在進行中のきわめて複雑な犯罪の最初の痕跡かもしれない。

暗号通貨をめぐる犯罪に対抗する産業が誕生している。暗号通貨ネットワークの秘密保持能力は創設者の期待を大きく下回り、新しい科学捜査ツールの登場によって当局が暗号通貨ネットワークを通して資金を追跡できるようになった。ちょうど、監視カメラの登場によって有名な銀行強盗が未熟な泥棒に変わったのと同様に、技術の進歩によって匿名の窃盗犯が暴き出され、暗号通貨の世界を安全な場所にできる——。研究者たちはそう期待しているのだ。

暗号通貨犯罪(クリプトクライム)の可能性

もし、あなたがよからぬことを考えているなら、暗号通貨がぴったりだ。ビットコインやイーサリアム(Ethereum)、ネム(NEM)、そのほか数千にものぼる暗号通貨とユーザーを結びつけるのは、一般的に文字と数字を不規則に羅列したアドレスだけだ。アドレスは好きなだけ所有可能で、基本的にそれぞれの関連性や、所有者を特定する明白な方法はない。その上、口座間の資金移動はメール送信と同じくらい簡単で、中間業者も必要無ければ、国境を越えた送金も可能だ。

「紙幣を詰め込んだスーツケースを渡すために真っ暗な駐車場に行かなくても、ノートパソコンが1台あれば、モナコのホテルのバルコニーに座っていられるのです」と話すのは、ジェフリー・ロビンソンだ。ロビンソンは『BitCon: The Naked Truth about Bitcoin(2014、未邦訳)』など30冊の金融犯罪に関する著書を持つ、調査ジャーナリストである。

賢い犯罪者は、新たなチャンスに乗じている。ブロックチェーン分析のスタートアップ企業エリプティック(Elliptic)や、米国のシンクタンク「制裁と不法資金調査センター(Center on Sanctions and Illicit Finance)」による2018年の調査によれば、2013年から2016年の間にビットコインのブロックチェーン上で起こった大規模な違法行為の数は5倍に増加しているという。この調査では、50万件以上のビットコインの動きを分析した結果、ダークウェブの闇市場や出資金詐欺、ランサムウェア攻撃など、102件の違法グループを特定し、追跡した多くのビットコインが違法グループに関連付けられることを示した。

追跡した資金洗浄されたビットコインの95%は、シルク・ロード(Silk Road)やシルク・ロード2.0(Silk Road 2.0)、アゴラ(Agora)、アルファベイ(AlphaBay)など、たった9つのダークウェブの闇市場からのものだった。これらの悪名高いオンライン闇市場では、ドラッグや武器などの非合法商品を購入できるうえ、売春や嘱託殺人などへの支払いもできる。「ダークウェブでは、法的助言まで買えるのです」とロビンソンはいう。「ダークウェブにはビットコインでの支払いを望む弁護士がいて、ビットコインを使った罪を犯しても捕まらない方法を指南しています」。

別の種類の組織犯罪も出現している。ハッカーは、ランサムウェア攻撃による身代金の支払い方法として、ビットコインを喜んで受け入れた。薄汚れたビットコインの16%近くが関連しているロッキー(Locky)のようなマルウェアが大流行し、暗号通貨を利用したランサムウェア攻撃は2016年に急増した。この傾向は、世界中の病院や企業のコンピューターを人質にとるワナクライ(WannaCry)やナットペトヤ(NotPetya)に姿を変え、2017年も続いた。2018年3月には、ランサムウェア攻撃によってシステムを使用不能にされたジョージア州アトランタ市が、約5万1000ドルをビットコインで支払うよう要求された。

暗号通貨犯罪は、オフラインの世界にまで悪影響を与えている。この数カ月間、現実世界でナイフを突きつけられ暗号通貨の口座情報を引き渡すように脅される強盗が急増した。「多額の暗号通貨を持っていると、突然、身に危険が及びます」と、インペリアル・カレッジのノッテンベルト研究員は指摘する。

それでも、すべてのビットコイン取引が公の分散型台帳に記録されているため、不正利得の追跡が可能だ。現時点で約160ギガバイトもの容量があるすべてのビットコイン取引履歴を、誰もがダウンロードして分析できる。あるいは、ブロックチェーン・ドット・インフォ(Blockchain.info)やブロック・エクスプローラー(Block Explorer)などのWebサイトを使えばブラウザーで確認できる。

こういった分析が、ある重要な窃盗を追跡するのに役立った。2014年、当時世界最大のビットコイン取引所だったマウントゴックス(Mt.Gox)が何者かによってハッキングされ、85万ビットコイン(当時の価値で4億5千万ドル超)が盗まれた。

マウントゴックスが破産すると、管財人は失われたビットコインを見つけるために特別科学捜査チームを招集した。そこで分かったのは、とんでもないずさんな実態だった。「マウントゴックスは、顧客の失われたビットコインの金額も分からなければ、失われたと気づく直前の保有量も把握していなかったのです」と、調査を指揮したジョナサン・レヴィンはいう。捜査チームは、資金が最終的にBTC-eという取引所に到達したところまでは突き止めたが、そこで足取りは途切れた。

失われたビットコインのほとんどは取り返せなかったが、「あの調査によって、実際に暗号通貨をやり取りしている人以外も使えるツールを開発するというアイデアが浮かびました」とレヴィンは振り返る。そうして生まれたのが、レヴィンが創業したチェーンアナリシス(Chainalysis)という企業だ。チェーンアナリシスは、ビットコイン関連企業が顧客の動向を調べたい …

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