KADOKAWA Technology Review
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法学から遺伝子工学へ
自らの「時限爆弾」と闘う
研究者の挑戦
生命の再定義 One woman’s race to defuse the genetic time-bomb in her genes

法学から遺伝子工学へ
自らの「時限爆弾」と闘う
研究者の挑戦

死に至る病である「プリオン病」を発症する遺伝子突然変異を保有していると宣告を受けた女性とその夫は、自らが科学者となって自分たちの運命に立ち向かう決意をした。非常に困難な挑戦ではあるが、遺伝子シーケンシング技術やアンチセンス療法の進歩により、宣告を受けた当時に比べると、彼女たちが賭けに勝つ可能性は高まっている。 by Antonio Regalado2018.07.31

2011年、ソニア・バラブは自分の遺伝子に関する報告書を手にした。そこには死の宣告が含まれていた。だが同時に、その運命から逃れるための手引きも含まれていた。

バラブは自分の体に、ある遺伝子突然変異が隠れていることを知った。それはプリオン遺伝子のDNA文字列のたった一つの間違いであった。しかしその一文字の間違いは、いずれ致死性家族性不眠症という希少な脳疾患を引き起こす可能性がある。バラブの母親はこの病気で前年に亡くなっていた。遺伝子検査の結果、バラブも致死性家族性不眠症を引き起こす遺伝子突然変異を受け継いでいることが判明したのだ。

病気の発症を防ぐためにバラブと夫のエリック・ミニケルが下した決断は、今ではよく知られている。『ザ・ニューヨーカー』誌はそれを「プリオン・ラブストーリー」と名付けた。遺伝子の時限爆弾を持っていると診断を受けた後、2人はそれぞれの法律と工学でのキャリアを捨てて、その時限爆弾の処理に打ち込む科学者となった。2人は来春、博士号を取得する予定だ(「ソニア・バラブ:2016年版35歳未満のイノベーター35人」を参照)。

死の宣告を含む報告書を受け取って7年経った現在、2人は時限爆弾の処理を可能にする方法を発見したと考えている。アンチセンス医薬品と呼ばれる鏡像異性体の一種が脳に達すると、プリオンタンパク質の量を大幅に減らす可能性がある。この薬により、プリオン病の特徴であるタンパク質を誤って折りたたむという不可解な連鎖反応を未然に防げるかもしれないのだ。

プリオンタンパク質が減れば、病気になる可能性も小さくなるはずだ。

7月9日のブログでバラブとミニケルは、カリフォルニアのアイオニス(Ionis)という民間バイオテック企業を連携していることを発表した。アイオニスはアンチセンス化合物を専門とする企業だ。「私は具体的な治療方針について初めて楽観的になっています」とバラブは記している。アンチセンス療法により、「私たちが生きている間に」致死性家族性不眠症を治療できる「望みが持てそう」だという。

プリオン病の発症を防ぐためのバラブの時間との闘いは、現代の遺伝子時代に1つの疑問を引き起こす。遺伝性疾患の完全なDNAの設計図を与えられたとして、自分または愛する人が生きている間に病気の発症を止められる可能性はどれくらいあるのか?

このような医療における大きな賭けに勝てる確率が高くなってきた。それにはいくつか理由がある。まず、遺伝子配列解析によって低コストで分子の欠陥を知ることができるということが挙げられる。加えて、アンチセンス、遺伝子療法、遺伝子編集技術のCRISPR(クリスパー)など、一連の有望な技術によって遺伝子を入れ替えたり抑制したりして、遺伝子の問題を根本から修正できるようになっていることがある。

その上、これらの治療には遺伝子コードが使われる。遺伝子コードはDNA、またはいとこ分子であるRNAでできている。つまり、基本的に組み換え可能でプログラム可能ということだ。少なくとも理論上では今や、あらゆる遺伝子の欠陥を調べて、すばやく対抗手段の概要を描くことができる。

死に至る病である「プリオン病」を発症する遺伝子突然変異を保有していると宣告を受けた女性とその夫は、自らが科学者となって自分たちの運命に立ち向かう決意をした。非常に困難な挑戦ではあるが、遺伝子シーケンシング技術やアンチセンス療法の進歩により、宣告を受けた当時に比べると、彼女たちが賭けに勝つ可能性は高まっている。
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