KADOKAWA Technology Review
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Magic Leap’s headset is real, but that may not be enough

ようやく発売された
究極のARヘッドセット
マジック・リープは本物か?

巨額の資金を集めながらも謎のベールに包まれていたAR企業「マジック・リープ」のヘッドセットが、いよいよ発売された。4年前から取材してきた記者が出荷直前の製品を体験。試作版とはまったく異なるすばらしい出来栄えだが、今後の展開はアプリ開発者とユーザー頼みだ。 by Rachel Metz2018.08.21

フロリダ州プランテーションの何の変哲も無いビルの奥深くで、マジック・リープ(Magic Leap)は、すばらしいガジェットを実際に作っていた。このガジェットは、私がこれまで見てきた他のどんな拡張現実(AR)あるいは複合現実(MR)と呼び方はさまざまなヘッドセットより巧みに、3Dのバーチャル・イメージと現実世界を混在できる。

ここで問題になるのは、このガジェットで何をするかだ。

そのうち開発者や他のクリエーターが答えを見つけるだろうと、マジック・リープは考えている。なぜなら、マジック・リープは長く待ち望まれてきた最初のガジェットをやっと売り出そうとしているからだ。ハエの目のような形の黒いゴーグル「マジック・リープ・ワン(Magic Leap One)」だ。

ただし、誰でも買えるわけではない。第一に、開発者として登録し、2295ドルという大金を払わなければならない。マジック・リープはスマホのアプリがそうだったように、ヘッドセット用のアプリを作る開発者が次々と現れるの期待している(ちなみに、マイクロソフトのホロレンズ(HoloLens)ヘッドセットも開発者を対象にしているが、価格は3000ドルから5000ドルだ)。第二に、開発者は18才以上でなければならず、ニューヨークやシアトルなど、最初の販売地として予定されている都市だけが配送の対象だ。開発者として認められるすべての関門を突破すると、ヘッドセットやヘッドセットに接続するウェアラブル・コンピューター、片手で操作するコントローラーを受け取れる。一度の充電でシステム全体が3時間以上使えるバッテリーも付属している。

マジック・リープ・ワンは、ロニー・アボヴィッツ最高経営責任者(CEO)のチームが2011年から取り組んできた仕事の集大成だ。ジムの床から飛び出すクジラや両手に乗る小さな象などを映し出したりと、デジタルの創造物と現実世界を巧みに融合した、子どものような驚きを与える製品をマジック・リープのマーケティングは演出してきた。新しいヘッドセットは、マジック・リープがやっと誇大広告に見合う製品を公開する良い機会となるはずだ。

マジック・リープ・ワンの発売によって、これまで宣伝してきたさまざまなことが実現する。7月、マジックリープのオフィスを訪問した私は、ヘッドセットを頭から装着し、部屋の中を飛び回るウミガメを見た。ウミガメが泳いだ後には小さな気泡の筋ができ、つつくと動いた。壁にあいた穴から気持ち悪いエイリアンのロボットが飛び出すと、ロボットに向かって光線銃を撃った。全体として見ると、映像は鮮明で生き生きとしていた。また、遠近感の異なるさまざまなデジタル画像を同時に見ることもできた。

私が初めてマジック・リープを訪問したのは2014年後半のことだったが、マジック・リープ・ワンは当時見た初期の試作品とは比べものにならないほど小さく携帯性が高い。2014年当時は、巨大な足場のような装置の上に据え付けられたレンズを通してリアルな青いモンスターを見たのが印象的だった。荷台に積まれた(携帯性のない)装置を使うと、SFのスチームパンクに出てきそうな小さな空を飛ぶロボットを見たりつついたりできた。その状況が極めて印象に残ったため、MITテクノロジーレビューが選ぶブレークスルー・テクノロジー10の2015年版でマジック・リープの取り組みを選んだくらいだ(当時は「映画的現実(cinematic reality)」と呼ばれていた)。

これまでマジック・リープを取材した部外者で、こういった印象を持った人は少なかった。マジック・リープは23億ドルを越える資金を調達し、現実世界にデジタル画像を映し出すことに関する数百もの特許を出願し、そのうち数十件は認められている。だが、マジック・リープは人目を引く誇大広告としゃくにさわるほどの秘密主義に終始したため、多くの開発者やテクノロジー好きの消費者は、マジック・リープがほとんどベーパーウェア(盛んに宣伝されているのに実際は完成する可能性のない幻の商品)同然だと結論づけてしまった。

たとえば、マジックリープは2015年に「Just another day in the office(オフィスの日常)」と題した、ロボットが天井の穴からオフィスに落ちてくるユーチューブ(YouTube)映像を発表した。当初、これはマジック・リープの「社内で遊んでいるゲーム」だとユーチューブの説明には記載されていた。実際は、私がその数カ月前に「ただのプロモーション映像」だといって見せられた動画と同じものだった(そのユーチューブの動画は少なくとも400万回は再生され、現在は「Original Concept Video(オリジナルのコンセプト映像)」と題名が変更されている)。最近のツイッチ(Twitch)のライブストリーミング配信でマジック・リープは、マジック・リープ・ワンのデモとして石を投げる小さなモンスターを披露した。しかし、残酷な話だが映像として貧弱だと嘲笑された。

そしてこの夏、マジック・リープ・ワンの発売に先立ち、試用を打診された私はフロリダに向かった。マジック・リープが秘密主義で、説明も不明瞭なうえに、画像がかなり貧弱なのには慣れていた。秘密主義と不明瞭な説明はあまり変わらないが、現在市場に出ているARヘッドセットの中でマジック・リープ・ワンが一番だと私は思っている。

多くの人が不可能だと思っていたことをマジック・リープは成し遂げたが、これから途方もない仕事が待ち受けている。どんなものがいいのかではなく、誰もその存在を知らないような新しいコンピューティング形式で魅力的なコンテンツを作るように開発者を説得することだ。答えを見いだすのは簡単ではないだろう。私の感覚では、マジック・リープ自身もその答えを見つけていないようだ。

マジック・リープの歩み

アボヴィッツCEOは、疲れていたが明るかった。ちょうど2〜3週間のうちにマジック・リープ・ワンを発表するというタイミングだったが、取材前の晩は最後の仕上げで午前2時まで働いていたとのことだ。マジック・リープの本社は、あちこちにヤシの木が茂るフロリダ州フォート・ローダーデールのビーチから約16キロメートルにある都市、プランテーションにある。本社内は迷路のようで、中央のガラス張りの部屋にアボヴィッツCEOは座っていた。

アボヴィッツCEOの後ろの書棚は、玩具で一杯だった。光線銃からジミ・ヘンドリックスのフィギュア、宮崎駿の映画に出てきそうなキャラクターの形をしたイケアの照明まで何でも並んでいる。その他に、『Making Hard Decisions』(難しい決断の下し方:1997年刊、未邦訳)や『Graphics for …

巨額の資金を集めながらも謎のベールに包まれていたAR企業「マジック・リープ」のヘッドセットが、いよいよ発売された。4年前から取材してきた記者が出荷直前の製品を体験。試作版とはまったく異なるすばらしい出来栄えだが、今後の展開はアプリ開発者とユーザー頼みだ。
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