KADOKAWA Technology Review
×
次世代GPSからネット接続まで、注目の衛星コンステレーション4つ
SpaceX
The number of satellites orbiting Earth could quintuple in the next decade

次世代GPSからネット接続まで、注目の衛星コンステレーション4つ

直接目にする機会はほとんどないが、人工衛星は今や、天気予報から道案内まで人々の暮らしにすっかり浸透しており、今後も大量の衛星群(コンステレーション)の打ち上げが予定されている。人々の生活に大きな影響を与えそうな4つのコンステレーションの計画を紹介しよう。 by Konstantin Kakaes2019.07.09

現在、私たちの頭上には2000基以上の人工衛星が周回している。たまに夜空で見かける以外はほとんど目に見えないが、人工衛星は人々の日々の暮らしに大きな役割を果たしている。目的地までの道のりを知りたいと思ったら、スマートフォンのボタンをタップすれば、GPSの一群から情報を取得できる。北極海の氷の画像や海に渦巻くハリケーンの息を呑むような動画も、当然ながら人工衛星から撮影した映像がベースになっている。現在では、人工衛星の軌道上から地球を見ることがあまりにも普通になったため、大半の人々はそれが私たちの視点の一部でなかった時代を忘れてしまったかもしれない。

今後数年間で、地球周回軌道は、より一層混み合うことになる。2018年に打ち上げられた人工衛星は365基だったが、2025年までには毎年1100基が打ち上げられるようになる可能性がある。スペースX(SpaceX)の野心的なインターネット衛星群の打ち上げ計画「スターリンク(Starlink)」は、2027年までに1万2000基の小型人工衛星の打ち上げを目標としている。同計画をはじめとする同様のプロジェクトは、単に宇宙を混雑させるだけではなく、地球上の生活向上につながる技術的アップグレードを引き起こしている。

全体像

地球の詳細な地図を作ることから、スマートフォンのユーザーを道案内することまで、衛星はさまざまな用途で役立っている。人工衛星は、多数でコンステレーション(衛星群)を構成することで、より強力な機能を提供できる。以下に紹介する4つの衛星コンステレーションはそれぞれ同期して機能する。こうしたコンステレーションは人々の生活を変える、あるいは間もなく変えることになるだろう。


<インターネット・アクセス>
スターリンク(Starlink)

  • 人工衛星数: 60基打ち上げ済み、1万2000基弱の打ち上げを計画中
  • 製造:スペースX(SpaceX)
  • 打ち上げ期間:2019~2027年

スターリンク計画は、地上ネットワークに対抗しうるような、低コストで高速のグローバル人工衛星インターネットを創出し、僻地の村落を繋ぐことを目的とするプロジェクトのうちの1つだ。これらの人工衛星は、地球低軌道上で3つの異なる高度に配置される予定となっている。1基あたりわずかに200キロを超えるほどの重量で人工衛星としては比較的小型ではあるが、1回に打ち上げられる60基ごとに毎秒1テラビットの帯域を提供する。4K映像を4万人に同時にストリーミングするのに十分な能力だ。

<気象監視>
ゴーズ(GOES)-R

  • 人工衛星数:2基打ち上げ済み、4基の打ち上げを計画中
  • 製造:ロッキード・マーチン(Lockheed Martin)、ハリス(Harris)
  • 打ち上げ期間:2016~2024年

天気予報は単なる夜のニュースのおまけではない。悪天候の予測精度が上がれば数千人の命を救うことができる。赤道の静止軌道上に配置されている新たな人工衛星は、天気予報を新たなレベルに押し上げている。2016年、ゴーズ(GOES:geostationary operational environmental satellite、静止軌道運用環境人工衛星)-Rは、太陽光の反射を利用して雲と水蒸気のモニタリングを始めた。これは電波信号を上空に向けて発信し、帰ってくる信号を分析する地上ベースのレーダー法とは異なるものだ。これまでに2基のゴーズ-Rが打ち上げられている。可視光、近赤外線および赤外線の16チャンネルで画像を収集する静止軌道雷光観測システム(GLM:Geostationary Lightning Mapper)や可視赤外放射計(ABI:Advanced Baseline Imager)といった機器を搭載したゴーズ-Rは、既に天気予報のリードタイムを改善させている。次のシリーズであるゴーズ-Tにはいくつかの失敗が起こっているが、全部で4基のゴーズが2024年までに打ち上げられ、稼働する予定となっている。

<地球観測>
ダブ(Dove)

  • 人工衛星数:351基打ち上げ済み、120基が稼働中
  • 製造:プラネット・ラボ(Planet Labs)
  • 打ち上げ期間:2013年開始、継続中

小型人工衛星のコンステレーションの多くは準備段階にあるが、スタートアップ企業のプラネット・ラボのコンステレーションはすでに稼働中だ。プラネット・ラボが自社で製作したダブ(Dove)は、地球全体を毎日撮影している。ダブは、小さな箱型(1基あたりわずか数キログラム)をしていて、ロケットに積載して複数同時に打ち上げるキューブサットと呼ばれる小型人工衛星であり、寿命は2~3年だ。2017年、プラネット・ラボは88基のダブを軌道上に送り込み、1回の打ち上げ数の記録を作った。ダブ1基で、地表の高解像度画像を1秒間に2枚撮影できる。これらの画像は継続的に更新され、検索可能なアーカイブに保存される。すでにプラネット・ラボの顧客の多くがこうした画像を利用して、穀物の成長や病虫害の監視、軍事情報の提供、森林の違法伐採の検知などをしている。

<位置情報>
GPS III

  • 人工衛星数:1基打ち上げ済み、最大32基の打ち上げを計画
  • 製造:ロッキード・マーチン
  • 打ち上げ期間:2018年から継続中

GPSは1970年代から軍事利用されてきた。だが2000年にビル・クリントンが「選択利用性(Selective Availability)」の終了を許可し、一般市民がより強力なGPS信号にアクセスできるようになった(米軍はGPSを民間に解放するにあたって意図的に測位精度を落としていた)。現在では、農場でのトラクターのガイドから最寄りのコーヒーショップの検索まで、GPSはあらゆる用途に利用されている。GPS IIIはその最新かつ最強のバージョンだ。ロッキード・マーチンによると、GPS IIIは3倍の精度を持ち、悪意のある干渉や偶発的な干渉にも強いという。さらに、他の位置情報人工衛星と協働することで、建物内部や木の下にいるユーザーの受信感度を向上させられる。計画から数年間の遅れがあり、これまでに打ち上げられたGPS IIIは1基のみとなっている。コンステレーションの「Aブロック」を完成させるために、2023年までにさらに9基の打ち上げが予定されている。

MITテクノロジーレビュー[日本版]は、宇宙ビジネスの可能性をキーパーソンとともに考えるイベント「Future of Society Conference 2019」を11月29日に開催します。詳しくはこちら
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  4. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
コンスタンチン カカエス [Konstantin Kakaes]米国版
現在編集中です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  4. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る