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バイデン政権始動、新型コロナや気候対策など「脱トランプ」指示
AP Photo/Evan Vucci
Biden's first steps as president: Action on covid and climate

バイデン政権始動、新型コロナや気候対策など「脱トランプ」指示

ホワイトハウスに着任したバイデン大統領は、トランプ前大統領の方針を覆す大統領令を矢継ぎ早に出すことで、新型コロナウイルス感染症や気候変動などの問題に対処しようとしている。 by TR Staff2021.01.24

米国のジョー・バイデン新大統領が1月20日に就任し、今後、次々に大統領令を発令する見込みだ。バイデン新大統領が現時点までに署名した大統領令のうち主なものを紹介しよう。

「100日間マスク・チャレンジ」

バイデン大統領の最初の大統領令の中には勧告もあれば、義務もある。すべての連邦政府の施設においてマスク着用を義務付ける一方で、知事や地方の選挙で選ばれた人々に対しては、これにならって同じことをするよう勧告している。マスクの着用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を止めるのに役立つ重要な公衆衛生上の勧告である。大統領令の言い回しをみると、すべての米国人が今後100日間マスクの着用を励行するよう呼びかけて、マスク着用を国民の目標にしようとしていることが分かる。

(アビー・オルハイザー)

気候変動に関するパリ協定への復帰

バイデン大統領は時間をほとんど無駄にすることなく気候変動に関する新方針を打ち出した。同大統領は気候変動問題を政権の中心課題にすると約束している。選挙期間中もその後も約束してきてたとおり、大統領着任初日にパリ協定に復帰する手続きを開始した。

パリ協定に復帰するのには、正式には数週間かかる。また、復帰したからといって、順守を義務付けられる何らかの気候変動関連政策を新たに策定することにはならない。だが、復帰することによって、米国は2021年後半に開催される国連気候変動会議で排出目標について見直した結果を提出する義務が生じる。加えて、今世紀半ばまでに大幅に排出を削減する計画を同国連会議に提出することも義務づけられる。

世界第2位の地球温暖化ガス排出国である米国が国際的枠組みに復帰することによって、産業革命後の気温上昇を2℃未満にするという国際的な目標に向けた勢いが強まることに大きな期待がかけられている。だが米国はまず、トランプ政権下の4年間を経てひどく傷ついた諸外国との関係を修復するとともに、国内の気候変動政策につき真の進捗をみる必要がある。そうしなければ、気候変動問題で後塵を拝している国ではなく、指導的な国とみなされることはないだろう。

(ジェームズ・テンプル)

キーストーン・パイプライン建設認可の取り消し

バイデン大統領は、気候変動に関する影響力の大きな大統領令も発令している。この大統領令は、連邦政府に対し、トランプ政権が緩和したり、つぶしたりしようとした数十本のエネルギー政策や環境政策について見直しを開始し、必要に応じて取り消すよう命じるものだ。

この大統領令では、物議を醸したキーストーンXLパイプラインの建設許可を取り消すよう命じている。このパイプラインによってカナダからイリノイ州に原油を運ぶことになっていた。加えて、石油・天然ガス業界からのメタンガス排出についてより厳格なルールを策定したり、自動車についての新たな燃費基準を発効させたり、電化製品や建物の効率性についてより厳格な基準を設定したり、炭素や亜酸化窒素やメタンのいわゆる「社会的コスト」を確立したりするための手続きを開始するよう連邦機関に命じている。これらの決定事項は、地球温暖化効果ガスの環境面の影響を考慮に入れることによって、連邦政府の政策にかかる便益および費用をより正確に評価するために使われる。

これとは別に、この大統領令では、内務長官に対して、ベアイアーズやグランド・ステアケース・エスカランテを含む国定記念物地域および周辺での土地掘削や石油や天然ガスの探査を可能にしようとしていたトランプ政権の取り組みを見直すよう命じた。内務省に対して、北極国立野生動物保護地域での掘削計画を休止するとともに、同計画の環境への影響を評価することも求めている。

ワシントンポスト紙によると、バイデン政権は1月27日に気候変動問題に関し、より積極的な措置を取ろうと計画している。その1つは、気候変動問題を国内政策および国家安全保障政策の最前線に位置づける大統領令に署名することである。

これらひとつひとつの措置によって、規制に関して各州や企業や投資家により大きな確実性がもたらされる可能性がある。別の面でいえば、各種の気候変動に関する技術やクリーンエネルギー産業の市場の振興につながるかもしれない。

だが、パリ協定あるいはバイデン大統領自身の目標である、2035年までにカーボンフリーの発電を実現し、2050年までに経済全体で地球温暖化ガス排出を「実質ゼロ」にするという目標を達成できるほどに米国の排出削減を加速するには、より厳格な気候変動関連の法律を制定するように連邦議会を後押しすることが必要になる。だが、上院で民主党の多数が紙一重でしかないときに、あまりに野心的な法律を制定することは容易ではなかろう。

(ジェームズ・テンプル)

連邦政府の新型コロナウイルス感染症対策

バイデン大統領は、最近発表した1兆9000億ドルの新型コロナウイルス感染症に関する救援策案および行動計画案に続いて、パンデミック対応において非常に重要である連邦政府の官職の一部を変更する大統領令に署名した。同大統領は「グローバルヘルス・セキュリティおよびバイオディフェンス」担当局長を再度任命する予定だ。これはエボラ出血熱が流行したときにオバマ元大統領が創設したポストである。トランプ政権時代、同局の職員や職務および使命の大部分は、国家安全保障会議の他課室に吸収されていた。バイデン大統領は以前、同局は完全に廃止されたと言ったことがあるが、これはどちらかといえば誤りである

(アビー・オルハイザー)

世界保健機関(WHO)への復帰

世界中で新型コロナウイルス感染症が拡大する中、トランプ前大統領は世界保健機関(WHO)から米国が正式に脱退する手続きを開始した。バイデン大統領が就任初日に発令した大統領令によって、この手続きが停止される。

(アビー・オルハイザー)

移民に関する規則の改正

バイデン大統領は、大統領令を発令したり、法案に署名したりすることよって、トランプ前大統領の物議を醸した移民政策の多くを覆す予定だ。1月21日に署名する大統領令において、バイデン大統領は次のことをすると発表している。イスラム教徒の入国禁止を停止し、米国とメキシコの国境の壁の建設を停止し、若年期に米国に入国した者について国外に強制退去させる措置を延期するDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)と呼ばれる政策を維持し、世論調査の集計から国籍を保持しない者を排除する旨のトランプ前大統領の命令を廃止する。

ほかにも、永住権を持たない1100万人の移民に公民権を獲得するための道を開くことや、移民に関する法制度を現代化すること、永住権付与にあたって現在設けられている国別割当の上限を部分的に解除することなどが、重要な改正として連邦議会で審議されることになる。

(アイリーン・グオ)

立ち退き強制の禁止を延長

12月に我々が報じたように、何千人もの人々の強制的な立ち退きについての聴聞会がビデオ会議や電話で実施されている。不公平なことだが、テクノロジー関連の格差があることによって、人々は自宅から追い出されてしまうことが多々ある。米国疾病予防管理センター(CDC)は立ち退きの猶予を定めているが、1月31日に期限切れとなる。追加的に措置をとらなければ、パンデミックの渦中にあって何千万人もの人々が自宅を失いかねない。バイデン大統領の大統領令によって、少なくとも支払い能力がないことを証明できる者に対して立ち退きを強制することの禁止が3月末まで延長される。

(アイリーン・グオ)

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