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生成AIは建築をどう変えるか? NYC展覧会で見た可能性
Robert Lee Brackett III and Duks Koschitz
AI is pushing the limits of the physical world

生成AIは建築をどう変えるか? NYC展覧会で見た可能性

絵や音楽の創作家に衝撃を与えた生成AIは、建築の世界にも影響を与えることができるのだろうか?ニューヨーク市ブルックリンで最近開催された展覧会の作品に、AIを活用した建築における初期段階の探究を垣間見ることができる。 by Allison Arieff2025.05.09

建築では、実際に建築されるプロジェクトと理論上のプロジェクトが対立することを前提としていることが多い。結局のところ、実際に物理的に建築可能なものは、建築家が想像・設計できるもの(しばしば「紙の建築」と呼ばれる)とは大きく異なる。建築家の想像の産物は長らく設計技術によって支えられ、実現されてきたが、人工知能(AI)の最新の進歩は、理論的な側面の急速な発展を促している。

ai-generated shapes
カール・ダウブマン(ローレンス工科大学建築デザイン学部)
「ミッドジャーニー(Midjourney)やステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)のようなツールを使って生み出される新しい合成画像は、新鮮に感じられることが非常に多いです」とダウブマンは語る。「複数のツールのそれぞれから助けを借りていますが、そのようなツールだけから生み出されることはめったにありません」。

ニューヨーク市ブルックリンのプラット・インスティテュートで最近開催された展覧会「トランスダクションズ(Transductions):人工知能を使った建築実験」では、30名以上の建築専門家の作品が展示された。彼らはAIが主流になるずっと前から、10年以上もの間、AIの実験的、生成的、そして協働的な可能性を探求し、建築の新たな探求領域を開拓しようとしてきた。建築家であり、展覧会の共同キュレーターでもあるジェイソン・ヴィグネリ=ビーン、オリビア・ヴィエン、スティーブン・スローター、そしてハート・マーロウは、「トランスダクションズ」に出展された画像、テキスト、アニメーションから複合現実(MR)メディアやファブリケーションに至るまでの作品は、建築に関する言説、手法、フォーマット、そしてメディア間のフィードバックループから生まれたものだと説明している。この展覧会の目的は、すぐに着工するようなプロジェクトを紹介することではない。建築家はすでに、手持ちのツールを使った建設方法を知っている。この展覧会はむしろ、AIを活用した建築の探究のごく初期の段階をとらえようとするものである。

テクノロジーは長きにわたり、建築の形態と機能の限界を押し広げることを可能にしてきた。1963年にはすでに、最初の建築ソフトウェアのひとつである「スケッチパッド(Sketchpad)」が登場し、建築家やデザイナーは画面上でオブジェクトを移動したり変更したりできるようになった。その後、昔ながらの手描きの作業は急速に、「レビット(Revit)」「スケッチアップ(SketchUp)」「ビム(BIM)」をはじめとする、絶えず拡大し続けるソフトウェア一式に取って代わられ、平面図や断面図の作成、建物のエネルギー使用量の追跡、持続可能な建設の促進、建築基準の遵守支援など、さまざまな用途に利用されるようになった。

「トランスダクションズ」に作品を出展した建築家たちは、AIの新たな進化形を「人間の仕事を奪うような発展というよりは、新しいツールのように」とらえていると、ヴィグネリ=ビーンは語る。とはいえ、ヴィグネリ=ビーンの同僚の中には、AIに恐れを抱いている人もいる。ヴィグネリ=ビーンはまた、「人々にとって多少不安を感じるものだということは理解していますが、その表現技法には親しみを覚えます」とも語っている。

結局のところ、AIはすぐに仕事をこなしてくれるわけではないとヴィグネリ=ビーンは語る。「AIで何かおもしろくて保存する価値のあるものを作るには、膨大な時間が必要です。私の建築語彙ははるかに正確になり、私のビジュアルセンスも驚くほど鍛えられ、少し衰えていたこれらの筋肉がすべて鍛えられています」。

ヴィエンも同意見だ。「建築家や設計者にとって、これらは非常に強力なツールだと思います。建築の未来そのものだと思うか? と聞かれれば、そうは思いません。しかし、建築家が自分の作品を表現するだけでなく、アイデアの生成器として、メディアの長い歴史をさらに発展させることができるツールと手段であると思います」。

アンドリュー・クドレス(ジェラルド・D.ハインズ建築デザイン大学)
この画像は「アーバン・レゾリューション(Urban Resolution)」シリーズの一部で、ステーブル・ディフュージョンのAIモデルが「リアルな画像の構築に集中できず、代わりに局所的な潜在空間で顕著な特徴を複製する」様子を示しているとクドレスは説明する。
ジェイソン・ヴィグネリ=ビーン(プラット・インスティテュート)
「これらの画像は、機械と共創して他の機械を想像するという、サイボーグ・エコロジーに関するより大規模なシリーズの一部です」とヴィグネリ=ビーンは説明する。「これらは、建築スケールで動作するインフラロボット、いわば『クリプトメガファウナ(暗号巨大生物)』とでも呼ぶものです」。
マーティン・サマーズ(ケンタッキー大学デザイン学部)
「ほとんどのAIは現実を模倣しようと競い合っています」とサマーズは語る。「私は、グリッチ(突発的な不具合)のようなハルシネーション(幻覚)や誤った解釈、そしてそれらが媒介された現実に存在するサブロジックを楽しむのが好きです」。
ジェイソン・リー(プラット・インスティテュート)
リーは通常、AIを「反復作業や高解像度のスケッチを生成するために」使用していると語る。「また、より抽象的な表現手法の中にどれだけのリアリズムを取り入れられるかを試すためにもAIを使っています」。
オリビア・ヴィエン(プラット・インスティテュート)
「インプリンティング・グラウンズ(Imprinting Grounds)」シリーズのために、ヴィエンはデジタル画像を作成し、それをミッドジャーニーに入力した。「この作品は、ダマスク織の模様というアイデアをよりデジタルな領域で反復したものです」とヴィエンは説明する。
ロバート・リー・ブラケット3世(プラット・インスティテュート)
「新しいソフトウェアの登場は、手描きやモデル作成といった従来のツールが使えなくなるのではないかという懸念を引き起こしますが、私はこのようなテクノロジーを、従来のツールに取って代わるものではなく、むしろ協力者だと考えています」とブラケットは語る。
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