KADOKAWA Technology Review
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夢の「ドローン宅配」近づく、NASAが作った運行管理システム
DOMINIC HART/NASA
NASA has made an air traffic control system for drones

夢の「ドローン宅配」近づく、NASAが作った運行管理システム

本格的な実用化には至っていないドローン宅配の実現に向けて、NASAは運航管理システムを開発した。クラウドベースで飛行経路を共有することで、ドローン同士の衝突を避けるシステムだ。 by Yaakov Zinberg2025.05.01

この記事の3つのポイント
  1. UTMシステムにより多数のドローンを安全に運航管理できる
  2. UTMを導入したドローン同士は飛行経路を共有し衝突を回避する
  3. ドローン企業は競合しつつもUTMにおいて協調体制を取っている
summarized by Claude 3

2013年の感謝祭の週末、当時アマゾンのCEO(最高経営責任者)だったジェフ・ベゾスがテレビ番組『60ミニッツ(60 Minutes)』に出演し、驚きの内容を発表した。アマゾンは数年以内に、荷物を30分以内に家庭へ届けるドローンを導入すると述べたのである。

この発表は、米航空宇宙局航空研究所(NASA Aeronautics Research Institute)のパリマル・コパルデカール所長がその年に考え始めていた問題に、緊急性を与えることとなった。

「航空管制システムに過度な負荷をかけることなく、ドローンの大規模運用をいかにして管理・受け入れられるのだろうか?」 PKの愛称で知られるコパルデカール所長は、当時こう悩んだことを振り返る。航空管制官たちは、すべての航空機の離着陸を管理するのに手一杯で、アマゾンが構想するような多数の配達用ドローンを監視する余力がないのは明白だった。

PKが考案し、のちに連邦政府機関、研究機関、産業界との協働へと発展した解決策が、「無人航空機システム運航管理(UTM:Unmanned Aircraft System Traffic Management)」と呼ばれるシステムである。UTMを導入したドローン操縦者は、航空管制官と口頭で交信する代わりに、クラウドベースのネットワークを通じて互いに飛行予定経路を共有する。

この高い拡張性を備えたアプローチによって、いまだ実現していない多くの商用ドローン活用の扉がついに開かれる可能性がある。たとえば、アマゾン・プライムエア(Amazon Prime Air)は2022年にサービスを開始したが、テスト施設での墜落事故を受け、運用が停止された。現在、米国領空を飛行している無人航空機は1日あたり約8500機にすぎず、その大半は捜索救助や不動産検査、映像監視、農地調査といった用途ではなく、娯楽目的で使用されている。

より広範な利用を阻んできた障壁の一つは、ドローン同士が空中衝突する可能性への懸念だった。ドローンは通常、高度400フィート(約120メートル)以下の空域に制限され、空港へのアクセスも制限されているため、航空機との衝突リスクは著しく低い。米連邦航空局(FAA)の規定では、ドローンは基本的に操縦者の目視範囲内でのみ飛行が許されており、その飛行距離はおよそ3分の1マイル(約540メートル)に制限されている。これにより多くの衝突は防げるものの、患者の玄関先に薬を届けたり、進行中の犯罪現場に警察のドローンを派遣したりといった活用事例の実現も妨げられている。

しかし現在では、ドローンの操縦者たちはUTMを飛行に取り入れることが増えている。このシステムは、グーグル・マップのような経路計画アルゴリズムを用いて、天候や建物、樹木といった障害物だけでなく、周囲のドローンの飛行経路も考慮したルートを地図上に描く。もし同時刻・同空域を他のドローンがすでに予約している場合には、離陸前に自動的に経路が再設定され、その新しい飛行経路は後続の操縦者にも共有される。ドローンは目的地との間を自律的に往復できるため、航空管制官は必要ない。

この10年の間に、NASAと産業界は一連のテストを通じて、UTMを順守することでドローン同士が安全に回避できることを米連邦航空局に対して実証してきた。そして2024年夏、連邦航空局はUTMを導入した複数のドローン配達会社に対し、ダラス上空の同一空域で同時に飛行することを許可した。これは米国の航空史上初のことである。UTM機能を自社に備えていない事業者も、FAAが認可した第三者プロバイダーからサービス提供を受け、利用を開始している。

UTMは、すべての関係者が同一のルールを遵守し、データ共有に合意する場合にのみ機能する。そして、UTMは、成長著しい新興分野で競合する企業にしては珍しく、高度な協調体制を可能にしていると、ドローン配送会社、ジップライン(Zipline)の空域統合戦略責任者であるピーター・サックスは指摘する。南サンフランシスコに拠点を置く同社は、UTMの使用認可を得ている。

「ドローンの飛行前衝突回避を確実に機能させるには、舞台裏の実務的で基本的な部分において協力する必要があるという点については、我々全員が一致しています」とサックスは述べる(「戦略的衝突回避」とは、ドローン同士の衝突を最小限に抑えるための技術的プロセスである)。ジップラインやドローン配送企業のウィング(Wing)、フライトレックス(Flytrex)、ドローンアップ(DroneUp)は、いずれもダラス地域で事業を展開しており、他都市への展開を目指して競っているが、空域の競合を避けるため、互いに飛行予定エリアを開示している。

UTMの導入は、今後さらに進む可能性がある。米連邦航空局は近く、「パート108(Part 108)」と呼ばれる新たな規則を発表する見通しだ。この規則が導入されれば、操縦者が他の条件を満たすことに加え、何らかのUTM機能を備えていれば、目視外飛行が許可されるようになる可能性がある。これにより、現在は取得が難しい免除許可が不要になるかもしれない。こうした追加のドローン運航を安全に管理するためには、ドローン企業同士が協力を続け、自社の航空機が他社の航路を妨げないようにする必要があるだろう。

筆者のヤーコフ・ジンバーグはマサチューセッツ州ケンブリッジを拠点に活動するライター。

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