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米国務省高官が政権「敵リスト」、職員にメール提出を指示
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Senior State Department official sought internal communications with journalists, European officials, and Trump critics

米国務省高官が政権「敵リスト」、職員にメール提出を指示

米国のダレン・ビーティー公共外交担当次官代理が、国務省のデマ対策部門の職員に対し、トランプ政権に批判的な人物や組織との電子メールのやり取りを提出するように指示していたことが分かった。 by Eileen Guo2025.05.19

この記事の3つのポイント
  1. 国務省高官が未報道の文書を配布し外国のデマ情報対策部署の通信記録を要求
  2. 要求対象には著名人や組織が多数含まれ魔女狩りのようだと政府関係者
  3. 通信記録の公開は関係者のプライバシーとセキュリティを危険にさらす可能性がある
summarized by Claude 3

米国国務省の高官ダレン・ビーティーが配布したこれまで未報道だった文書によって、ネットのデマ情報を重点的に扱うある小規模な政府部局の職員たちと、官民の多数の著名人(その多くは長年にわたり政治的右派の標的となっている)との間で交わされたすべてのやり取りを明らかにしようとする、徹底的な取り組みが明らかになった。

もともとは3月初旬に国務省の職員10人あまりと直接共有されたこの文書は、同省の職員たちに対し、外国のデマ情報を追跡したり、それについて記事を書いたりしている多くの個人や組織、あるいはドナルド・トランプ大統領とその同志たちを批判してきた個人や組織との間で交わした電子メールや、関連するその他の記録の提出を求めたものだ。前者の対象には、アトランティック(Atlantic)の記者アン・アップルバウム、元米サイバーセキュリティ当局者のクリストファー・クレブス、スタンフォード・インターネット観測所(Stanford Internet Observatory)などが、後者には反トランプの保守派解説者ビル・クリストルなどが含まれている。

この文書はさらに、トランプ本人とその取り巻き(アレックス・ジョーンズ、グレン・グリーンウォルド、ロバート・F・ケネディ・ジュニアなど)に単に言及しただけの職員の通信内容も、すべて提出するように求めている。さらに、「カエルのペペ」「非自発的禁欲主義者」「Qアノン」「ブラック・ライヴズ・マター」といった、多数のキーワードが含まれている通信を検索することも指示している。

この文書を受け取ったり見たりした複数の人々にとって、未編集の情報を幅広く求めるこの要求は「魔女狩り」のように感じられたと、ある政府関係者は話す。多くの個人や組織のプライバシーとセキュリティを危険にさらす可能性があるという。

この説明を聞いたある国務省職員によると、2月にトランプ大統領が公共外交・広報担当国務次官代理に任命したビーティーは国務省職員に対し、そうした記録の提出を求める目的について、「米国民との信頼関係を再構築するため」に国務省内部文書を公開する「ツイッター・ファイル」のようなものであると語ったという。ビーティーが言及している「ツイッター・ファイル」とは、イーロン・マスクがツイッターを買収した後、同社が以前に保守派の口を封じたことを証明しようとして公開させた、ツイッターの一連の内部文書を指している。この取り組みは、ツイッター社がすでに認めていた課題や過ちに関する詳細な情報をもたらしたものの、決定的な証拠を得ることはできなかった。

2025年3月11日付の今回の文書は特に、国務省の公共外交部内に設置され、外国のデマ情報キャンペーンを追跡・対策する小規模な部署「対外国情報操作・干渉(R/FIMI)ハブ」の記録と通信に焦点を当てている。R/FIMIは、同じ任務を担っていた「グローバル・エンゲージメント・センター(GEC)」が2024年末に閉鎖された後に創設された。MITテクノロジーレビューは、R/FIMIが閉鎖されるニュースを先日報じている。

この文書が最初に共有された会議には、R/FIMIの職員数人のほか、国務省の弁護士や、公文書開示請求に対応するための調査を担当する国務省行政局の職員も出席していた。

ビーティーの情報捜査網に引っかかった約60の個人や組織の中には、ビル・ゲイツ、オープンソース・ジャーナリズム報道機関のベリングキャット(Bellingcat)、元FBI特別捜査官クリント・ワッツ、ドイツのナンシー・フェーザー内務大臣、米国国務省のキャリア官僚で元駐ポーランド米国大使のダニエル・フリード、スタンフォード・インターネット観測所で研究を主導したネットデマ情報の専門家ルネ・ディレスタ、米国国土安全保障省のデマ情報ガバナンス委員会を短期間率いていたデマ情報研究家ニーナ・ヤンコヴィッチらが含まれていた。

この記録請求に自分たちが含まれていることを聞かされた複数の人々は、そもそも米国の機関にそのようなリストが存在することに警戒感を示した。「私が政府にいたときは、そのようなことは一切したことがありません」と、元副大統領首席補佐官のダン・クエールは言う。「そんなことをする理由はいったい何なのでしょうか?」

フリードも同じ感想を持つ。「私は国務省に40年いましたが、名前を集めたり、電子メールの記録を要求したりすることはありませんでした」と語り、「少なくとも米国関連で、そのようなことは聞いたことがありません」と明言する。フリードはこの話を聞き、東欧の「共産党監視員(たち)が信頼できない官僚組織を監視している」ことを思い出したと言う。

そしてこう付け加えた。「敵リストを作成することに近い取り組みです」。

「検閲産業複合体」を標的にする

GECと、その縮小された後継部局であるR/FIMIはどちらも、ロシア、中国、イラン、そのほかの外国によるデマ情報の追跡と対策に重点的に取り組んでいた。しかしGECは、同部局が保守的な米国人の意見に対する検閲を可能にしていると主張する保守派の批評家たちから非難されることが頻繁にあり、訴えられることさえあった。2022年にはGECに対するそのような主張の1つが裁判で棄却されている(一方、バイデン政権の他の政府部局がテック・プラットフォームに不当な圧力をかけたことは認定された)。

ビーティーは、個人的にもそのような見解を宣伝してきた。ビーティーは国務省に入る前、特定の保守派 …

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