EVより小さいAIの電力需要への対応が脱炭素化の鍵になる理由
AIやデータセンターの電力需要の急増が問題となっているが、実は電気自動車や建物の需要に比べると小さい。重要なのは、今後の経済のより広範な電化に私たちがどう対処するかという試金石となっているからだ。 by Ramayya Krishnan2025.05.22
- この記事の3つのポイント
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- AI電力需要は全体の2割だが、急成長と地理的集中で最も緊急性が高い
- EV(5割)より小さいが、電化社会への対処能力を測る「テストケース」
- 解決策として筆者らは「グリッド・ニューディール」を提案している
人工知能(AI)の需要に際限がないように思われる中、エネルギー、AI、気候の各分野に携わる誰もが当然とも言える懸念を抱いている。今後、AIを動かすのに十分なクリーンな電力と、このテクノロジーを支えるデータセンターを冷却するのに十分な水を確保することはできるのだろうか? これらは地域社会、経済、環境に深刻な影響を及ぼす重要な問題である。
AIのエネルギー使用量に関する疑問は、今後数十年間で気候変動に対処するために私たちがすべきことについてさらに大きな問題を示唆している。もしこの問題の解決策を見出せなければ、より広範な経済の電化に対応できず、私たちが直面する気候リスクが増大することになる。
ITのイノベーションにより私たちはこうした状況に立たされている。AIのコンピューティングを支えるグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU、画像処理装置)は、2006年以来、99%もコストが下がっている。データセンターのエネルギー使用については2010年代初頭にも同様の懸念があり、電力需要の伸びに関して極端な予測がされていた。しかし、コンピューティング・パワーとエネルギー効率の向上により、これらの予測が間違っていることが証明されただけでなく、2010年から2018年にかけて、エネルギー使用量をほとんど増加させることなく、世界のコンピューティング能力を550%向上させることができた。
しかし、2010年代後半になると、私たちを救ったこの傾向が崩れ始めた。AIモデルの正確さが劇的に向上するにつれて、データセンターに必要な電力も急速に増加し始めた。2018年には総需要の1.9%であったのが、現在では4.4%を占めるまでになっている。データセンターは米国の6つの州で電力供給の10%以上を消費している。データセンター活動の拠点として台頭してきたバージニア州では25%だ。
AIに電力を供給するための将来のエネルギー需要に関する予測は不確かで、その範囲も広い。しかし、ローレンス・バークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)の研究では、データセンターが2028年までに米国の総電力使用量の6%から12%を占める可能性があると推定している。地域社会や企業はこのような電力需要の急激な増加を目の当たりにすることになるだろう。そうなれば、エネルギー価格とエコシステムを圧迫することになる。この予測により、化石火力発電所を大量に新設するか、古くなって現在は使われていない発電所の使用を再開することが求められている。米国の多くの地域では、この需要によって天然ガスによる発電所が急増する可能性が高い。
これは大変な状況だ。しかし、一歩引いて考えて …
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