ルービン天文台が初画像を公開、宇宙観測を変える「10年の夜明け」
世界最大のデジタルカメラを備えたルービン天文台が撮影した画像が2025年6月23日に初めて公開された。銀河と星雲がずらりと並ぶ壮観な光景を映した壮観な画像は、今後10年にわたる数々の野心的な観測の成果を約束しているかのようだ。 by Robin George Andrews2025.06.29
ヴェラ・C・ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory)で撮影された最初の画像が公開され、世界中で精査することが可能になった。その画像は、虹色の銀河ときらめく星雲の数々が写る壮観な光景を撮影したものだ。「ルービン天文台の夜明けです」。北アイルランドのクイーンズ大学ベルファストの惑星科学者で天文学者のメグ・シュワンブ講師は話す。
この天文台が約束する壮大な可能性については、これまで多くの文献で書かれてきた。遠く離れた銀河、爆発する星々、恒星間天体、見つけにくい惑星など、かつては隠れていた天体群が明らかになることで、宇宙に対する私たちの理解が革命的に深まる可能性がある。そして、その比類なき技術の力のおかげで、その役割を果たすルービン天文台の能力を疑う者はほとんどいなかった。しかし、過去10年間にわたる長い建設期間中、「すべてが理論上のことでした」と、シュワンブ講師は言う。
今、その約束は驚くほど美しい現実となった。
ルービン天文台が写し出す宇宙の景色は、これまでのどの景色とも異なる。それは細部に満ちた広大な夜空の光景であり、銀河を包み込むように流れる物質のぼんやりとした光や、銀河と銀河をアーチ状に結ぶ、星で埋め尽くされた橋などを見ることができる。「これらの画像は本当に驚くべきものです」と、ワシントン大学の天文学者であるペドロ・ベルナルディネッリ博士は言う。
ルービン天文台は夜空を短時間観察する間に、これまで見たこともない2000個以上もの小惑星を見つけることができた。このことは、この天文台が私たちの太陽系の最も見つけにくい天体や、最も暗い一角にもスポットライトを当てられるはずであることを実証している。

NSF-DOE VERA C. RUBIN OBSERVATORY
今回公開された画像は、これから続くものと比べたらほんの前菜に過ぎない。米国立科学財団(NSF)と米国エネルギー省から資金提供を受けるルービン天文台では、今後少なくとも10年にわたる計画的な観測が予定されている。しかし今、この瞬間、これらの輝かしい最初の画像は、それらが象徴しているものを思うと、祝福に値する。これは、10年以上に及ぶ忍耐強い取り組みの集大成なのだ。
「この画像は、ルービン天文台がもはや未来ではないことを示す直接的な証拠です」と、ベルナルディネッリ博士は言う。「現在なのです」。
この天文台の名前は、暗黒物質の強力な証拠を発見した天文学者、故ヴェラ・ルービンにちなんで付けられた。暗黒物質は、通常の目に見える物質の重力だけでは説明できないほど強力に銀河を強く結びつけている、いまだ検知されていない謎の「何か」である。暗黒物質と、宇宙を膨張させている、同じくらいに謎めいた「暗黒エネルギー」の正体を解明する試みは、単一の研究分野や特定種類の宇宙天体の調査だけでは解決できない、非常に大きな課題となっている。
そのためにルービン天文台は、夜空で動いたり輝いたりしているありとあらゆるものを記録する目的で設計された。チリのセロ・パチョン山脈の頂上に設置されたこの天文台は、重さ約3トン、解像度3200メガピクセルを誇るデジタルカメラを用いて、夜空の広い範囲の詳細なスナップショットを撮影できる。家くらい大きさの反射鏡は、極めて遠方のかすかな星の光を捉えることが可能だ。そして迷路のように入り組んだ機構の関節とピストンにより、信じられないほどのスピードと精度で旋回できる。多国籍のコンピューターネットワークのおかげで、この天文台の天空探査はほぼ自動化されている。画像は迅速に処理され、新たな天体があれば容易に検出されて、関連する天文学者のグループに対して迅速にアラートが送られる。
それらの魔法のような技術により、ルービン天文台は数日に一度、目に見える夜空の全空写真を撮影し、影になった隙間を埋め、銀河間の目に見えない活動を明らかにする。「空は静止していません。小惑星が飛び交い、超新星が爆発しています」と、ルービン天文台の画像処理を監督するユスラ・アルサイヤド博士は言う。今後10年にわたって継続的な調査をすることで、この天文台は絶えず変化する宇宙のカオスを3次元動画化する。その成果は、あらゆる種類の天文学上の疑問を解決するのに役立つ可能性がある。生まれたばかりの銀河はどのようなものだったのか?天の川銀河はどのように形成されたのか?私たちの太陽系の裏庭には隠れた惑星が存在するのか?
ルービン天文台が初めて写し出した天空は、予想通り銀河と星であふれ返っている。しかし、その画像の解像度、広がり、そして深さは、天文学者たちを驚かせた。「これらの画像にはとても感動しました。本当に信じられないほどです」と、英国マンチェスター大学で銀河外天文学を研究するクリストファー・コンセリチェ教授は話す。
678回の個別の露光によって撮影された1枚の画像には、トリフィド星雲とラグーン星雲がはっきりと写っている。この2つの発光ガスと塵の海では、新たな星たちが生まれている。その他の画像には、銀河の動物園とも言えるおとめ座銀河団をルービン天文台から眺めた景色の、ごく一部が写っている。青い色調の光は比較的近くにある星の渦巻きから届いているものであり、赤い色調の光は非常に遠くにある原始の銀河から発せられている。
これらの画像の豊富な細部は、すでに、多くを明らかにする手がかりとなることを証明している。「銀河は結合して相互作用する際に、お互いから星を引き離し合っています」と、コンセリチェ教授は話す。この現象は、いくつかの銀河から噴出する拡散光の柱として観察でき、周囲のハローや、銀河同士を結ぶ光り輝く橋を作り出している。それらがすべて、古代の銀河の過去を物語る記録なのだ。
このような画像には、巨大な星が爆発する最後の瞬間である超新星が写っている可能性も高い。超新星は、惑星や生命を生み出すあらゆる重元素の種を宇宙に蒔くだけでなく、宇宙が時間とともに膨張してきた様子を解明する手がかりにもなり得る。
オーストラリアのメルボルンにあるスウィンバーン工科大学の天体物理学者、アナイス・メラー博士は、超新星ハンターだ。「非常に遠く離れた銀河で爆発している星を探しています」と、メラー博士は言う。超新星はもっと昔の天空調査でもたくさん見つかっているが、それらには背景情報が欠けていることがある。爆発は見えても、それがどの銀河のものかわからないのだ。おとめ座銀河団の一連の画像で十分に実証されたルービン天文台の解像度のおかげで、天文学者たちは「爆発している星が属している場所を見つける」ことができるようになったと、メラー博士は言う。

NSF-DOE VERA C. RUBIN OBSERVATORY
ルービン天文台は、これらの遠い宇宙の画像を撮影する一方で、私たちの太陽系の中を動き回る2104個の小惑星も発見した。その中には、地球の軌道に近い軌道を持つ7つの小惑星も含まれている。この数は感動的な成果のように聞こえるかもしれないが、ルービン天文台にとっては当たり前のことである。これからわずか数カ月の間に、100万個以上の新たな小惑星を見つける予定なのだ。これは、現在知られている小惑星の数の約2倍にあたる。そして、10年以上にわたる調査の間に、8万9000個の地球近傍小惑星、火星と木星の間に帯状に広がる370万個の小惑星、そして海王星よりも外にある3万2000個の氷の天体を明らかにすると予測されている。
たった数時間の観測で、これまで見つからなかった2000個以上の小惑星を見つけたことは、ルービン天文台にとって「難しいことでさえありませんでした」と、ワシントン大学の天文学者、マリオ・ジュリッチ教授は言う。「それらの小惑星が、まさに突然、姿を現したのです」。
ルービン天文台による太陽系の包括的な目録の作成には、2つの利点がある。1つは科学的な利点だ。岩や氷の塊であるそれらの小惑星はすべて、太陽系が形成された時代の残滓である。天文学者はそれらを使って、私たちを取り巻くあらゆるものがどのようにつなぎ合わされて形成されたのか、理解することができる。
もう1つは、安全保障上の利点である。その辺のどこかに地球へ向かう軌道上の小惑星が存在するかもしれない。その中には、地球に衝突して都市全体、さらにはいくつかの国を壊滅させるものさえあるかもしれない。技術者たちはそのような小惑星を逸らす、または完全に破壊するように設計された防御技術の開発に取り組んでいるものの、天文学者がそれらの小惑星の位置を把握していなければ、そういった防御も役に立たない。非常に多くの小惑星を迅速に発見したことで、ルービン天文台は他のどの地上望遠鏡よりも地球の惑星防衛能力を強化することをはっきりと示した。
要するに、ルービン天文台のデビューは、数え切れないほど多くの天文学者たちの期待を裏付けるものだった。この天文台は、これまでの天文台を漸進的に改良するのにとどまらないだろう。「世代を超える飛躍だと思います」と、メラー博士は言う。それは、発見を生み出す冷酷なまでに効率的な巨大装置である。天文学に新たな喜びを次々と生み出し、その喜びで科学界をあふれさせようとしている。「とても恐ろしいことですが、同時に、とてもわくわくします」とメラー博士は語る
非常に忙しい10年になることだろう。まさにシュワムブ講師が言うように、「今からジェットコースターがスタート」する。
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- ロビン・ジョージ・アンドリュース [Robin George Andrews]米国版 寄稿者
- ロビン・ジョージ・アンドリュースは、ロンドンを拠点に活動する、受賞歴のある科学ジャーナリスト。火山博士。地球、宇宙、惑星科学について定期的に執筆し、高い評価を受ける2冊の書籍『Super Volcanoes(超火山)』(2021年、未邦訳)と『How To Kill An Asteroid(小惑星の殺し方)』(2024年10月、未邦訳)の著者である。