KADOKAWA Technology Review
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1日470本、制作費9割減
——中国は生成AIで
世界のドラマ工場になる
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How Chinese short dramas became AI content machines

1日470本、制作費9割減
——中国は生成AIで
世界のドラマ工場になる

中国のショートドラマ市場は2024年に映画興行収入を初めて上回り、世界市場は2025年に110億ドル規模に達する見込みだ。その成長を支えるのが生成AIによる大量生産体制だ。1日470本、制作費9割減——脚本家や撮影クルーが消え、「コンテンツマシン」が回り始めている。 by Caiwei Chen2026.05.18

この記事の3つのポイント
  1. 中国発のAIショートドラマが急拡大し、1日470本が公開されるなど産業規模は2025年に世界で110億ドルへ達する見込み
  2. 制作費を最大90%削減・期間を4分の1以下に圧縮できる生成AIが、脚本家以外の撮影・視覚効果職をほぼ消滅させつつある
  3. 単純な定番プロットとデータドリブン最適化がAIと高い親和性を持ち、品質より量と速度を優先する構造が固定化
summarized by Claude 3

薄暗い寝室で、恐怖に怯える若い女性が、背の高い筋肉質の男によってベッドに投げ倒される。男が彼女の手をつかむと、炎のような蔦が彼女の体を這い、肉と融合していく。彼女は宙に浮き、そして落下する。龍の形をしたタトゥーが彼女の胸に現れる。

「2カ月だ」と男は言う。「跡継ぎを産め。さもなくばお前を食ってやる」。

このシーンは、DramaWave(ドラマウェーブ)やReelShort(リールショート)といったアプリに登場する、数百本ものショートドラマのうちの1本、『Carrying the Dragon King's Baby(ドラゴンキングの子を宿して)』の一場面だ。ただ、この作品にはどこか違和感がある。照明は光沢感があり映画的だが、映像全体に映画とビデオゲームのカットシーンの中間のような奇妙な質感が漂っている。

それは、『Carrying the Dragon King's Baby』が、AIのみを用いて制作される新たな潮流の一端を担っているからだ。俳優も、カメラオペレーターも、撮影監督も、CGスペシャリストも必要ない。

中国のショートドラマ産業は2018年の誕生以来、急成長を遂げてきた。こうした超短編でメロドラマ的、かつしばしば扇情的な作品群はスマートフォン視聴向けに設計されており、1話がわずか1〜2分程度のものも多い。視聴者は最短30分から1時間でシリーズ全体を見終えることができる。作品は無限スクロールに最適化され、感情的な対立やメロドラマ的な展開が次々と盛り込まれている。このトレンドの成長を支えているのは、TikTok、Instagram、Facebookにサスペンス満載の広告を大量配信し、視聴者をサブスクリプション購入へ誘導するアプリ群だ。2024年、中国のショートドラマ市場の収益は約69億ドルに達し、初めて同国の年間映画興行収入を上回った。

2022年以降、中国のショートドラマ企業は積極的に海外展開を進め、既存ヒット作の翻訳に加え、現地俳優を起用したローカライズ作品の制作も進めてきた。ショートドラマアプリの累計ダウンロード数は世界全体で10億件に迫っている。調査会社データアイ(DataEye)によれば、中国国外で最大の市場は米国であり、全収益の約50%を占めている。

今、この産業は自らを再発明しつつある。低予算かつアルゴリズム最適化型エンターテインメントの達人である中国のショートドラマ企業は、生成AIを活用し、これまで以上に速く安価にコンテンツを制作しようとしている。データアイによると、1月には1日平均470本のAI生成ショートドラマが公開された。クンルン・テック(Kunlun Tech)のような企業はAI制作を拡大し、撮影クルーを縮小するとともに、制作の労働構造そのものを根本から再編している。一部スタジオでは、AIは補助ツールから制作の中核を担う存在へと変化している。

無限のストーリー、無限の定番設定

ショートドラマはもともと低予算で知られている。しかしAIによって大量生産コストは劇的に低下し、制作工程全体の高速化とコスト削減が実現した。制作スケジュールも大幅に短縮されている。企画、脚本執筆、キャスティング、撮影、編集には、かつて3〜4カ月を要していた。しかしショートドラマ・プラットフォーム、フレックスTV(FlexTV)のタン・タン副社長によれば、AIを活用すれば1カ月未満で完了できるという。北米でのショートドラマ制作費は以前は約20万ドルだったが、AIによって80〜90%削減可能だとタン副社長は述べている。

米国市場進出後、中国のショートドラマ企業は中国国内と同じ戦略を踏襲した。TikTok、Facebook、YouTubeで積極的に広告トラフィックを購入し、数話を無料公開した後、残りのエピソードをアプリ内課金で解放する方式だ。次に何を制作するかの判断は、クリエイティブな直感よりもパフォーマンスデータに左右されることが多い。「どのテーマ、 …

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