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結局、どっちが嘘つき? マスク対アルトマン 最終週で激しい応酬
Benjamin Fanjoy/Getty Images
Musk v. Altman week 3: Elon Musk and Sam Altman traded blows over each other’s credibility. Now the jury will pick a side.

結局、どっちが嘘つき? マスク対アルトマン 最終週で激しい応酬

マスク対オープンAI裁判の最終週、法廷の焦点はアルトマンCEOとマスク、どちらが信頼できるかという点に絞られた。オープンAI側はマスクをAGI支配を狙う権力志向の人物として描き、マスク側はアルトマンCEOの虚言癖と利益相反を追及した。陪審員は評議を開始し、判決が近づいている。 by Michelle Kim2026.05.18

この記事の3つのポイント
  1. マスク対アルトマンの裁判最終週、双方は信頼性と非営利使命の遵守をめぐり激しく応酬した
  2. マスク側は約束違反と利益相反を訴え、オープンAI側は提訴の遅延とxAIへの競争妨害意図を反論した
  3. 陪審評決次第では1兆ドル規模のIPO計画が頓挫しうるが、いずれの結果でも公益は損なわれるとの懸念も
summarized by Claude 3

『マスク対アルトマン』裁判の最終週、弁護士たちはイーロン・マスクとオープンAI(OpenAI)のサム・アルトマンCEOの信頼性をめぐって激しく応酬した。アルトマンCEOは、オープンAIと取引する企業に関わる虚言癖利益相反行為の疑惑について厳しく追及された。しかし彼は反撃に転じ、マスクを、ほとんどの認知タスクで人間に匹敵する強力な人工知能(AI)である汎用人工知能(AGI)の開発を支配しようとする権力志向の人物として描き出した。

AI安全性への取り組みを示す証拠として、オープンAIはロバの尻を模した金色のトロフィーを法廷に持ち込んだ。これは、AGI開発へ突き進もうとするマスクの計画に異を唱え、「jackass(間抜け野郎)」とマスクから罵倒された従業員に同僚から贈られたものだ。

双方の弁護士はまた、最終弁論を行ない、マスクとアルトマンCEOの不鮮明な証明写真風の画像を巨大スクリーンに並べて映し出した。マスク側の代理人であるスティーブン・モロ弁護士は、アルトマンCEOとオープンAIのグレッグ・ブロックマン社長が、マスクの寄付金を用いて「人類の利益のためにAIを開発する非営利組織」としてオープンAIを維持するという約束を破ったと主張した。その代わりに彼らは営利子会社を設立し、莫大な富を手にしたとした。

オープンAI側のサラ・エディ弁護士は、アルトマンCEOとブロックマン社長がオープンAIを非営利組織として維持すると約束した事実はないと反論した。また、組織再編を経た現在も、オープンAIはAIを安全に開発することを使命とする非営利組織であり続けていると付け加えた。

エディ弁護士はさらに、マスクによる提訴は遅すぎたと主張し、その真の目的は、2023年に設立した自身のAI企業xAIの競合相手を妨害することにあると述べた。

マスクは、オープンAIの営利子会社を公益法人へ転換した2025年の組織再編を無効にし、アルトマンCEOとブロックマン社長を役職から解任するよう裁判所に求めている。また、オープンAIとマイクロソフトに対して、最大1340億ドルの損害賠償を請求しており、その賠償金はオープンAIの非営利部門に支払われるべきだと主張している。

陪審員団は月曜日から評議を開始し、早ければ来週にも勧告的評決を下す見通しだ。陪審員の評決に拘束力はなく、最終判断は裁判官が下す。

裁判官がマスク側の主張を認めれば、1兆ドル近い評価額でのIPO(新規株式公開)を目指すオープンAIの計画は大きく狂う可能性がある。一方、xAIはマスクの宇宙企業スペースX(SpaceX)の一部として、早ければ6月にも上場する見込みで、目標評価額は1兆7500億ドルとされている。

権力を求めるマスク、嘘をつくアルトマン

裁判第1週でマスクは、人類の利益のためにAIを安全に構築するというオープンAIの使命を守るために提訴したと述べた。しかし今週、アルトマンCEOは、マスクがAI安全性の擁護者ではなく、オープンAIを支配しようとした権力志向の人物だと反論した。

アルトマンCEOは陪審員に対し、2017年にマスクと共同創業者たちが営利部門の設立について議論していた際、マスクが死亡した場合、その組織の支配権をどうするかという話題になったと証言した。アルトマンCEOによれば、マスクは「オープンAIの支配権は自分の子どもたちに引き継がれるべきかもしれない」と語ったという。

これに対しマスク側のモロ弁護士は、アルトマンCEOの虚言癖について厳しく追及した。オープンAI元幹部のイリヤ・サツケバー、ミラ・ムラティ、元取締役のヘレン・トナー、ターシャ・マコーリーらが、いずれもアルトマンCEOに嘘をつかれたと証言したことを指摘した。アルトマンCEOは2023年、この疑惑を理由に一時的にCEOを解任されている。

モロ弁護士はまた、オープンAIと取引関係にあるスタートアップへのアルトマンCEOの個人投資についても追及した。アルトマンCEOは、自身が3分の1を保有する核融合エネルギー企業ヘリオン・エナジー(Helion Energy)から電力を購入するよう、オープンAIへ働きかけたという。

(先週金曜日には、米国下院監視委員会がアルトマンCEOの潜在的な利益相反について調査を開始した。また、十数州の司法長官が証券取引委員会(SEC)に調査を求めている。)

最終弁論でモロ弁護士は再びアルトマンCEOの信頼性を俎上に載せた。「山道のハイキング中に峡谷にかかる木製の橋に出くわしたと想像してください。橋の入口に立つ女性がこう言うのです。『心配いりません。この橋は「サム・アルトマン版の真実」の上に建てられていますから』。あなたならその橋を渡りますか?」

弁護団の後ろに座っていたアルトマンCEOは、自分の名前が出るたびに不安そうに顔を上げていた。

最終弁論でエディ弁護士は反撃し、「マスクは非営利という組織形態など気にしていませんでした」と述べた。「彼が気にしていたのは勝つことだったのです」。

しかしマスク本人は法廷にいなかった。裁判官から出廷可能な状態を保つよう命じられていたにもかかわらず、ドナルド・トランプ大統領とともに中国へ飛んでいたからだ。

アルトマンCEOはオープンAIを非営利組織として維持すると約束したのか?

最終弁論でエディ弁護士は、マスクの寄付に条件が付されていたことや、アルトマンCEOとブロックマン社長がオープンAIを非営利組織として維持すると約束したことを示す証言・証拠は一切存在しないと主張した。

「いかなる約束も誓約もなされていません。マスクの寄付に制限は課されていませんでした」。

エディ弁護士はさらに、マスク自身もオープンAIを非営利組織として維持することに強いこだわりを持っていたわけではないと指摘した。2017年には、彼自身が営利子会社の設立を試み、その支配権をめぐってアルトマンCEOとブロックマン社長と激しく争っていたからだ。

「非営利団体に資金を提供する小規模な営利部門が存在すること自体には反対していませんでした」と、マスクは裁判冒頭で陪審員に語っている。「ただし、尻尾が犬を振り回すようなことにならない限りにおいてです」。

エディ弁護士はその後、マスクの提訴は時効後になされたものだと主張した。オープンAIは2019年に営利子会社を設立し、従業員や投資家が上限付きリターンを受け取れる仕組みを導入していたが、マスクが提訴したのは2024年だった。

しかしマスクは、オープンAIが非営利の使命を放棄したと気づいたのは、マイクロソフトが100億ドルを投資しようとしていた2022年だったと証言した。この投資は2023年に成立している。「オープンAIの評価額が200億ドルになっているのを見て衝撃を受けた」と、彼はニュースを読んだ後にアルトマンCEOへ送ったメッセージで述べた。「これは詐欺だ」。

マスクは陪審員に対し、「200億ドルという評価額を見て、営利部門という尻尾が犬を振り回しているのだと悟りました」と述べた。

「2023年の取引は性質が異なるのです」と、モロ弁護士は最終弁論で強調した。

オープンAIは依然として使命に忠実な非営利組織なのか?

裁判最終週で中心的な争点となったのは、オープンAIが「人類の利益のためにAGIを安全に開発する」という使命を掲げる非営利組織であり続けているかどうかだった。オープンAI側のエディ弁護士は、非営利部門が依然として営利部門を支配しており、「AGIが人類にとって良い結果をもたらすよう努めている」と主張した。さらに、「オープンAIの非営利部門は、営利部門のおかげで世界で最も潤沢な資源を持つ非営利組織だ」と付け加えた。

これに対しモロ弁護士は、オープンAIの非営利部門は名目上は会社を支配しているものの、実態としてはそうではないと反論した。非営利部門と営利部門はいずれも同じ人物によって支配されており、非営利部門の取締役8人のうち7人が営利部門の取締役も兼任している。さらに、非営利部門が従業員を雇用したのは裁判開始のわずか1カ月前であり、その活動もAI研究ではなく助成金配分に限られているという。

モロ弁護士はまた、アルトマンCEOが2023年のインタビューで「非営利取締役会が自分を解任できなかったこと自体が、一種のガバナンスの失敗だった」と語る映像を再生した。

「結局残されたのは、何の発言力も持たない非営利組織です」。非営利組織研究を専門とするノースウェスタン大学の法学教授ジル・ホーウィッツはMITテクノロジーレビューに語った。「資金も乏しく、オープンAI側も資金提供義務があるとは考えていません。スタッフもほとんどいない。そんな状態で、非営利組織がどうやって義務を果たし、会社全体を統治できるのか、まったく分かりません」。

市民団体や政策立案者たちは長年にわたり、オープンAIの組織再編に懸念を表明してきた。マスクもその一人だが、彼自身もAI競争に大きな利害関係を持つ以上、公益の擁護者としての信頼性には疑問符が付く。

「この裁判でどちらが勝っても負けても、非営利組織における公益は失われる」とホーウィッツ教授は語った。

AI安全性のための「間抜け野郎」

裁判第1週に、米国地方裁判所のイヴォンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は「この裁判はAI安全性を争うものではない」と警告していたにもかかわらず、この問題は再び大きな注目を浴びた。裁判を通じ、双方の弁護士は、ChatGPT(チャットGPT。未成年者の自殺を招いたとされる)やGrok(グロック。X上にポルノを氾濫させたとされる)の安全性実績をめぐって応酬を繰り広げた

証言最終日、オープンAI側のブラッドリー・ウィルソン弁護士は、「Never stop being a jackass for safety(安全のための間抜け野郎であり続けろ)」と刻まれた小さな金色のトロフィーを判事に手渡した。ロバの尻を模したトロフィーだった(日本版編注:英語の「jackass」には「ロバ」から転じて「間抜け」「厄介な頑固者」という意味があり、ここでは「安全性を守るために嫌われ役になってでも異議を唱える人物」という皮肉を込めて使われている)。

このトロフィーは、オープンAIの主席フューチャリストであるジョシュア・アキアムのものだ。彼は、2018年にマスクがAGI開発競争へ突き進むためオープンAIを離れると宣言した際、「スピード重視は安全性を損なう可能性がある」と警告したという。するとマスクは激怒し、彼を「jackass(間抜け野郎)」と罵倒した。ダリオ・アモデイ(現アンソロピックCEO)らオープンAIの同僚は、この侮辱を忘れないようにするため、アキアムにトロフィーを贈ったという。

「そんなものはいりません」と判事は言った。

騒動は法廷の外にも広がった。オークランドの裁判所前では、ケタミンの袋を持ち、サイバートラック(Cybertruck)を運転するマスク姿のコスプレ抗議者が歩き回った。別の抗議者はサム・アルトマンの写真と、「AGIを止めなければ、私たちはみな死ぬ」と書かれたポスターを掲げていた。

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AIジャーナリズムのためのターベル・センター(Tarbell Center for AI Journalism)の支援を受けて執筆している、MITテクノロジーレビューのAI担当記者。これまでに、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)で労働とテクノロジーをテーマに取材し、フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌では韓国政治について執筆していた。ジャーナリズムに転身する以前は、米カリフォルニア州で企業弁護士として勤務。
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MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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