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相談中にこっそりChatGPTを使用、セラピストは何のため?
Danzhu Hu
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Therapists are secretly using ChatGPT. Clients are triggered.

相談中にこっそりChatGPTを使用、セラピストは何のため?

技術トラブルで偶然発覚したセラピストの「秘密」。セラピストがリアルタイムでChatGPTを使い、患者の発言を入力して回答を参考にしていることが判明した。同様のケースが広がり、プライバシー保護や信頼関係への影響が懸念されている。 by Laurie Clarke2025.09.05

ちょっとした技術トラブルさえなければ、デクランは、自身の心理セラピストがChatGPT(チャットGPT)を使っていることを知る由もなかっただろう。その日、恒例のオンライン・セッションで回線状態が不安定だったため、デクランはカメラをオフにするよう提案した。だがセラピストは、オフにする代わりに、うっかり画面共有を始めてしまった。

「突然、セラピストがChatGPTを使う様子が映し出されたのです」と、ロサンゼルス在住のデクラン(31歳)は言う。「彼は、僕の話す内容を書き留めてChatGPTに入力し、その回答を要約したり、抜粋したりしていました」。

デクランは衝撃のあまり何も指摘できず、残りのセッションの間、セラピストの画面にリアルタイムで流れるChatGPTの分析結果を覗き見ることとなった。そして、デクランがセラピストの先回りをして、ChatGPTの回答に倣って受け答えを始めたことで、そのセッションはさらにシュールな展開を見せた。

「僕はこの上なく最高の患者になったのです」。デクランは言う。「ChatGPTが『あなたの考え方は、少し白黒付けすぎだと思いませんか?』と答えれば、僕も『ああ、僕の考え方は白黒付けすぎかもしれませんね』と言う。そうすると、セラピストは『その通り』と返すんです。セラピストにとっては、夢のようなセッションだったに違いありません」。

デクランの脳裏には数々の疑問がよぎったが、一番は「これは合法なのか?」ということだった。次のセッションでデクランがセラピストにこの一件を打ち明けると、セラピストは涙を流した。その様子は「かなり気まずくて、奇妙な別れ話のようだった」という。セラピストは、2人のセッションが行き詰まっていると感じ、あらゆる角度から解決策を見出そうとしたのだと釈明した。「それでもそのセッションの料金は請求されましたよ」とデクランは笑いながら付け加えた。

ここ数年の大規模言語モデル(LLM)の躍進は、心理療法の分野にも予期せぬ影響をもたらした。その主な原因は、ChatGPTのようなツールを人間のセラピストの代わりに利用する人が増加したことにある。一方で、セラピスト自身がどのように人工知能(AI)を診療に取り入れているかは、あまり議論されていない。他の多くの専門職と同様、生成AIは魅力的な効率化をもたらすが、導入することにより、機密性の高い患者情報を漏洩させ、信頼が肝となる患者との関係性を損ねるリスクも伴うこととなる。

疑心暗鬼

こうした状況に陥ったのはデクランだけではない。それは、私個人の経験からも言えることだ。私は最近、自身のセラピストから普段より長文で洗練されたメールを受け取った。初めはそれに勇気づけられた。文面は親切で肯定的な印象のものであったし、長文であることから、彼女が私の(かなりデリケートな内容の)メールに記されていたあらゆる点について時間をかけて考えてくれたのだと感じた。

しかしよく読むと、セラピストからのメールにはどこか奇妙な点があった。今までとは違うフォントが使用されていたことに加えて、文章には、米国人が好むエムダッシュの多用(2人とも英国出身だ)、人間味のない独特の文体、元のメールで挙げられた点を一々取り上げるスタイルなど、いくつかのAIらしき 「特徴」が見て取れた。

メッセージの下書きにChatGPTが使われている可能性が高いと気づいたことで、当初の好印象はたちまち消え去り、失望と不信感に変わった。そして、ChatGPTの使用についてセラピストに尋ねたところ、本人も認めた。

セラピストはAIを使ってただ長文のメールを音声入力しているだけだと言い切ったが、私は、メールに込められた感情のうち、どこまでがボットではなく彼女の意図したものなのか、確信が持てなかった。さらに、彼女が私の極めてプライベートなメールをそのままChatGPTにペーストしたのではないかという疑念も拭いきれなかった。

同じような経験をした人がいないかインターネットで調べたところ、AIが作成したと思しきメッセージをセラピストから受け取ったという数多くの事例が見つかった。デクランをはじめとする大勢が、精神的な支えや助言を求めてレディット(Reddit)に投稿していた。

米国東海岸在住の25歳、ホープも同様だ。彼女は、愛犬の死についてセラピストにダイレクト・メッセージを送っていた。程なくしてセラピストから返信があった。「愛犬があなたの隣にいない」ことがどれほど辛いことであるかと慰める、思いやりに満ちたメッセージだった。文章の頭に「こちらが穏やかな会話調の、より人間らしい心の込もったバージョンです」という一言が残されてさえいなければ。

ホープは「正直なところ、とても驚き、戸惑いました」と語る。「ただただ、とても奇妙な気分でした」とホープ。「その後、裏切られた気分になりました。(中略)セラピストへの信頼が揺らいだことは間違いありません」。特に問題だったのは、「私がセラピストを受診していた理由のひとつが、人間不信の問題を克服するためだった」からだ、とホープは付け加える。

ホープは、セラピストが優秀で親身に話を聞いてくれる人だと信じ込んでいたので、「彼女がAIを使う必要性を感じるなんて、思いもよらなかった」のだ。セラピストに問いただすと、彼女は申し訳なさそうに、自分自身がペットを飼っ …

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