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「AIの帝国」とは何か? 元MITTR記者が描く、権力集中の実態
Karen Hao(提供写真)
Interview with Karen Hao : Empire of AI

「AIの帝国」とは何か? 元MITTR記者が描く、権力集中の実態

MITテクノロジーレビュー[米国版]の元AI担当記者であるカレン・ハオによる著書は、AI(人工知能)の成立過程をたどり、シリコンバレーの主要人物をはじめとし、世界各地を巡り、その舞台裏に光を当てる。約7年の取材で得た膨大な記録が映し出すのは、帝国の存在と、その巨大な力だ。同氏から執筆のいきさつと狙いを尋ねた。 by MIT Technology Review Japan2026.07.09

——あなたの著書『Empire οf AI(エンパイア オブ AI) 新しい帝国が生まれるとき』(邦訳は東洋経済新報社、2026年7⽉15⽇発売)は、AI(人工知能)の起源から開発・経営判断、利用の広がり、そして汎用人工知能(AGI)をめぐる開発競争まで、AI製品の全体像を描いています。中でも印象的だったのは、テック界の大物にせよ、ケニアで働く母親にせよ、開発競争に巻き込まれていく人々を公平に描いている点です。誰の肩も持たない書き方には、何か意図があったのでしょうか。

関係者の実体験に基づいたジャーナリスティックな本として提示したいという意図がありました。確かに、テック界の大物たちの経験だけに焦点を当てることもできたでしょう。もしサンフランシスコに住む人々の視点からAIを語るのであれば、テクノロジーは概ね機能し、彼らのイデオロギーにも適合して、違和感のないものとして描かれたはずです。しかしその場合、世界の大多数の人々にもたらされている本当の影響を捉えることはできなかったと思います。

AIとは何か、そしてそれが社会にどのような影響を与えるのかを本当に理解するためには、シリコンバレーの外に出て、その威力を探る必要がありました。

また私は、擁護を目的とするのではなく、報道としての一貫性を保つことを重視しました。大きな力が働いていて、帝国を成しているという根本的な問題を描き、人々に認識してもらいたいという思いがありました。問題を認識せずに、今開発されているAIを軌道修正することはできません。ですから、AI開発の背後で起きていることに読者を振り向かせ、考え直すきっかけを提供するために、AI企業関係者と、開発の中心から遠く離れた人々の視点を、バランスよく取り上げることに努めました。

『Empire οf AI(エンパイア オブ AI) 新しい帝国が生まれるとき』
カレン・ハオ
東洋経済新報社

——大学では機械工学を学ばれていますが、ジャーナリズムに進んだ理由は?

私は常に、世界最大の問題の解決に貢献したいと考えていました。大学進学時に、気候変動という社会課題に関心を寄せ、巨大な問題を体系的に修正するために、私ができる最も重要な介入は何か? という考えのもと、機械工学を学ぶに至りました。のちにジャーナリズムに進んだのも課題解決に資するという一貫した考えからです。

大学卒業後、サンフランシスコのスタートアップに入社し、建築や都市デザインをよりサステナブルに改善するソフトウェアの構築に携わりました。しかし、収益重視のシリコンバレーのイノベーションモデルでは生き残れないことをすぐに悟りました。収益に不満を抱いた投資家は、会社に対し事業の焦点を気候変動以外に方向転換するよう強制しました。この経験から、公益を使命とする専門職であるジャーナリストにキャリアチェンジすることにしたのです。あいにく気候変動を担当する記者の仕事はありませんでしたが、技術に強いことからAIを取材することになりました。取材を重ねるうちに、AIとは、公共の利益になる技術をどのように作り出すか、という大きな問題解決のテーマであり、自分の原点にある考え方とつながっていることに気づきました。

幸い、AIの社会的影響に関する報道は、世界中のジャーナリストや研究者、市民社会がネットワークを形成しており、今では「AIアカウンタビリティ」や「テックアカウンタビリティ」と呼ばれる分野を確立しています。特に最近は、目覚ましい研究成果や調査報道が相次いで、読むのが追いつかないほどです。

——あなたの本の中では、汎用人工知能(AGI)の説明にあたってまず、人間の知能を定義しようという歴史をたどっていますね。これはどのようなものでしたか。

AI分野の非常に難しい点の1つは、人間の知能という概念と、それを再現したいという欲望に関連して定義されてきたことです。しかし、人間の知能の定義も、それを測定し定量化する方法も、科学的なコンセンサスは存在しません。にもかかわらず、AI研究者たちは、知能なるものを再現しようと、あくなき追求を続けています。一部のAI研究では、システムの設計における定量化・評価の際に、社会としてすでに克服したはずの人種差別的な考え方を無自覚に採用しているケースもあります。

歴史的に、人間の知能を測定し、ランク付けし、分類しようとするあらゆる試みは、非常に暗い動機と結びついてきました。具体的には、特定の人種やジェンダーがより優れていることを正当化する中で、定義されてきたのです。こうした道徳的にも科学的にも健全とは言いがたい前提は、今のAIを理解するうえで、重要な基盤となると思います。

——あなたは、「テック業界は、夢遊病のごとく、潜在的な危害のある世界に向かって目を瞑ったまま歩いている」というティムニット・ゲブルの言葉を引用しています。この言葉が示すような状況は、実際に起きているのでしょうか。

ええ、そう思います。ゲブルが指摘しているのは、AGIの技術を開発する人々の多くが、自分たちの技術が社会全般に与えている影響に注意を払っていないということです。彼らには、巨大な財政的関心があるため、自分たちが何をしていて、それがどう影響するかについて熟慮していません。それどころか、非常に楽観的な誇大広告に基づいたビジョンを投影しています。人々がAGIについて耳にするメッセージは、もっぱら彼らの言葉ですから、テック界の重鎮自身が夢遊病になると、残りの一般の人々も一緒に眠ったまま歩くことになるわけです。

——オープンAI(OpenAI)は設立当初、非営利組織としてスタートしました。その背景には、グーグルのような巨大テック企業による権力集中への問題意識があったと考えられます。しかし本書では、オープンAIが現在、きわめて大きな影響力を持つ存在へと変化してきた過程が描かれています。こうした変化は、サム・アルトマンCEO個人の考え方によるものなのでしょうか。それとも、別の論理が作用しているのでしょうか。

それはシリコンバレーの論理に関連していると思います。アルトマンのイデオロギーは、より広範なテック業界のイデオロギーから派生しています。彼が関わってきたYコンビネーター(Y Combinator)周辺のスタートアップ・エコシステムにおいて、競争とは、勝者がすべてを手に入れるゼロサム・ゲームであり、会社は常に独占を目指すべきだという考えを推し進めてきました。アルトマン氏もこの発想で行動しています。するとグーグルによる権力集中の問題は、支配の是非ではなく、誰がその支配的立場に立つのかにあると読み取ることができます。これはすべてのテック億万長者に当てはまる思考様式です。だからこそ、現在、すべてのテック億万長者は自前のAI会社を持っています。彼らはみな、市場を支配し、AIを自分たちのイメージに沿って作り直そうとしているのです。

きらびやかなAIの製品発表会だけに目を向けると、AIプロダクトは、中立的で安全、人々に利益をもたらす、客観的なプロフェッショナリズムの賜物に見えるでしょう。しかし実際のところ、これらの技術を創造する過程の意思決定の背後には、感情的で個人的な対立があります。AIは、世の人々の利益のためではなく、エゴを満たし、他者を圧倒させ、支配したいという関係者の思惑からつくられている側面があります。

——AGIに費やされる資源は、どのくらいの規模なのでしょうか。

アルトマンは、2033年までに250ギガワット規模のデータセンターを建設したいと述べ、費用は10兆ドルに上ると推定しています。これは、ニューヨーク市の平均的な電力需要(約5.5ギガワット)の40個分以上に相当し、人類を月に送ったアポロ計画の費用(当時280億ドル、現在価値でおよそ3000億ドル)を大きく上回ります。AIの訓練とシステム展開には、24時間安定したエネルギー供給が不可欠で、主に化石燃料に依存せざるを得ないとされています。さらに、設備を冷却するためには、高度に処理された飲料水レベルの真水を必要とします。

こうした大規模な資源の投入は、地域の人々の暮らしと健康を脅かすおそれがあります。例えば、本書では、生活に不可欠な資源をめぐり、人々とデータセンターとが競合しているウルグアイの例を挙げています。また、チリでは、グーグルのデータセンターの建設計画を政府が認可していましたが、水資源保護団体によって、設備の冷却のために町全体の生活用水を上回る水資源が必要になることが明らかになると、長年干ばつ問題に直面してきた住民の反発が広がりました。市民社会が示した懸念を受け、その後、当局は認可を取り消しています。

——AI帝国の圧倒的パワーに直面してもあなたは、希望を抱いています。今とは異なるAIの未来を描くことはできるのでしょうか?

今のAGIや超知能といった発想は、普遍的で万能なモデルが存在しうるという見解を前提としています。単一の世界観や言語をもつ限られた主体が、大多数の人々が使う技術を開発し、その価値観を広く課すことができるという仮説であり、この発想自体、きわめて帝国主義的です。私たちがこれから向かっていくべき方向は、一律的なAIへのアンチテーゼ、つまり、明確なタスクに特化してローカライズされ、実際にその技術を使う当事者コミュニティによって構築される小規模なAIモデルの構築です。なぜなら、コミュニティの当事者こそ、解決すべき問題を把握しており、コミュニティの主権を尊重しつつ、害が及ばないように、どのようなデータを提供・保護し、どのように技術を展開すべきかを最もよく理解しているからです。

具体例として、ニュージーランドの「テ・ヒク・メディア(Te Hiku Media)」という非営利メディア組織によるAIを挙げることができます。彼らは、失われかけていたマオリ先住民の言語を再活性化するのに、AIを用いた音声認識モデルを開発しました。開発にかかる検討事項——音声認識のトレーニングに使用すべきデータの収集や保護、どう教育に応用するかなど——はすべてコミュニティ主導の参加型プロセスによって実施しました。これは、あらゆるコミュニティがAIに取り組む方法の良い模範になるでしょう。

私のAIへの批判は、技術全体に対するものではありません。帝国主義さながらの権力の集中なしでは動員できない膨大な資源を投じる開発のあり方と、一律に万能な超知能モデルであるべきだというシリコンバレーの見解に対するものです。それよりも、私たちは、AIの開発と利用をもっと分散させ、幅広く恩恵を受ける人々が実際に担い手となる技術として捉えるべきです。誰もがAI技術の恩恵を受けられるようにするには、ごく一部の頂点に立つ人々ではなく、より民主的なガバナンスが実現して、初めて可能になるでしょう。


(取材・執筆協力:田中恵子)

MITテクノロジーレビューでのカレン・ハオ氏の執筆記事はこちら

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