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トランプ新方針どう影響?
若手トップ研究者たちが語る
科学大国・米国のリアル
Mark Wang
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How Trump’s policies are affecting early-career scientists—in their own words

トランプ新方針どう影響?
若手トップ研究者たちが語る
科学大国・米国のリアル

MITテクノロジーレビューは、過去6年間に「35歳未満のイノベーター」に選出された研究者や起業家にアンケートを実施。研究資金の削減や発言の制限、移民排除により、多くの若手研究者が「生き残ることを考えている」状況が浮き彫りになった。 by Amy Nordrum2025.09.26

この記事の3つのポイント
  1. MITテクノロジーレビューが選出した若手イノベーターの37人中26人がトランプ政権の政策で研究に悪影響と回答
  2. 政権は科学研究予算を大幅削減し1000件以上の助成金を打ち切り、DEI関連用語の使用制限で研究者の自己検閲が拡大
  3. 移民制限強化で優秀な外国人研究者の確保が困難となり、米国の長期的な科学技術競争力低下への懸念が深刻化
summarized by Claude 3

MIT テクノロジーレビューは毎年、「35歳未満のイノベーター」を選出し、世界中の優秀な若手科学者、起業家、発明家たちを祝福している。しかし今年は、状況があからさまに異なっている。米国の科学界は、その活動の基盤そのものが攻撃を受けるという、かつてない事態に直面しているのだ。

今年1月にドナルド・トランプ大統領就が就任して以来、政権は個々の大学や学術界全体を標的として、トップレベルの政府系科学者を解雇し、米国の科学技術インフラに対する資金供給を大幅にカットした。これまで長く続いてきた言論の自由、公民権、移民に関する権利や慣習を根底から覆すものでもあり、それらすべてが、科学とテクノロジーにおける研究とイノベーションを取り巻く環境全体に大きな影響を与えている。

本誌は、このような変化が若い世代のイノベーターたちのキャリアや仕事に対し、どのような影響を与えているのか、理解したいと考えた。米国政府は、米国の大学における研究資金の最大の供給源である。また、本誌の若手イノベーター・リストの受賞者の多くは、新任の教授や現役の大学院生、あるいは最近の卒業生であり、政府が資金援助する団体と協力している者もいる。一方、米国の大学院に在籍する学生の約16%は、外国からの留学生だ。

MITテクノロジーレビュー編集部は、過去6年間の受賞者210人に対し、アンケートを送付した。アンケートでは、現政権の新たな政策が及ぼす肯定的な影響と否定的な影響の両方について質問し、任意のインタビューに応じてくれた者たちには、さらに詳しく話を聞いた。37人から回答が得られ、そのうちの14人にフォローアップの電話インタビューを実施した。回答者の約3分の2は学術研究者であり、81%は米国を拠点に活動している。11人は民間部門で働いており、うち6人は起業家だ。彼らの回答からは、今日の政治情勢の中で研究室や企業、キャリアを構築することの複雑さを垣間見ることができる。

回答者のうち26人が、トランプ政権の政策変更によって自分の研究に影響があったと話した。そのうちの1人だけが、影響を「主にポジティブ」と評した。他の25人は、主にネガティブな影響を報告した。数人の回答者はこの記事で名前を明かすことに同意したが、ほとんどの回答者は報復を恐れ、役職名と大まかな研究分野のみの公開に限定するか、または匿名とすることを希望した。「米国政府の怒りを買うようなことはしたくありません」。インタビューに応じたある回答者は話した。

インタビューとアンケート全体を通じて、いくつかのテーマが繰り返し浮かび上がった。それは、雇用や資金、機会の喪失、発言や研究テーマの制限、そして研究を実施できる人の制限である。こうした変化は、多くの回答者に、「知的財産の創出、新たな科学者の育成、スピンアウト企業への影響」といった米国における長期的な影響への深い懸念を抱かせている。

私たちが最も頻繁に耳にしたのは、現在の不確実性が、科学研究に対してよりリスク回避的な姿勢を取らせているということであった。たとえば、必要とするリソースが少ないプロジェクトや、政権の優先事項に沿っていると思われるプロジェクトを選ぶ、あるいは雇用を極端に抑制するなどの対応が見られる。「私たちは構築することや可能にすることよりも、生き残ることを考えているのです」。ある回答者は述べた。

最終的に多くの回答者が懸念しているのは、失われた機会が全体としてイノベーションの減少につながることであり、その影響の全貌が明らかになるには時間がかかるという点だ。

「今すぐにその影響を感じることはないでしょうが、2~3年後には感じ始めるはずです」。自身の研究分野からスピンアウトした企業を立ち上げた博士号取得者の起業家は語った。「本来なら何かを発明していたはずの人々が、単純に減ってしまうのです」。

お金: 「間違いなく誰もがプレッシャーを感じています」

最も直接的な影響は、資金面に関することだった。トランプ政権はすでに多くの科学分野への支援を縮小しており、米国立衛生研究所による1000件以上の研究助成金と、米国立科学財団(NSF)による気候関連プロジェクトへの100件以上の助成金を打ち切った。両機関による新たな新規助成金の採択ペースは鈍化しており、NSFは今年度の大学院生フェローシップの支給対象を半分に減らした。

現政権はまた、ハーバード大学、コロンビア大学、ブラウン大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などに対し、反ユダヤ主義への対応が不十分であるとして、資金提供の打ち切りまたは削減といった脅しを強めている。

その結果、本誌の若手イノベーターたちは、自らの研究資金の確保が以前にも増して難しくなったと述べている。

資金集めはこれまでも大きな課題ではあった。ある公立大学の生化学者は、主要なNIH助成金を失ったと語った。今年、その助成金が打ち切られてからは、研究時間を削って、資金集めにより多くの時間を割くようになったという。

NSF、医療先端研究計画局、エネルギー省(DOE)、疾病予防管理センター(CDC)などからの助成金の状況について、不透明感があると述べた者もいた。これらの機関は、総額4400万ドル以上を本誌が認定した研究者たちに支給する可能性がある。申請状況や、すでに獲得した助成金の支払時期について、何カ月も連絡を待っている人もいた。気候変動を研究するAI研究者は、通常であれば更新されるはずの複数年助成金が、今回は更新されないかもしれないと懸念している。

2人の回答者は、DOEのクリーンエネルギー実証局が5月、24件の助成を取り消したことを嘆いた。これには二酸化炭素回収プロジェクトやクリーン・セメント工場への支援も含まれていた。1人は、この決定が「広範な不確実性」をもたらし、「投資家の信頼を損ない」、「戦略的な計画策定を困難にした」と述べ、「気候テック系スタートアップの資金調達環境が著しく混乱した」と語った。

気候研究および技術は、トランプ政権のお気に入りの標的となってきた。最近可決された税制・歳出法案では、インフレ抑制法に基づく税額控除の適用条件が厳格化され、より厳しいスケジュールが設定されたことで、風力・太陽光設備の導入がより困難になっている。現時点ですでに、少なくとも35件の大規模な商用気候テックプロジェクトが中止または縮小されている。

DOEの広報担当者は詳細な質問リストへの回答で、「ライト長官およびトランプ大統領は、米国の科学的イノベーションの解放を最優先事項と位置づけています」と述べた。さらに、大統領予算案と歳出法案では「科学への強力な投資」が行なわれており、核融合、高性能コンピューティング、量子コンピューティング、AIが「米国の国際競争力維持のための重点分野」として挙げられていると説明した。

政府による間接費の計算方法の変更により、予算がさらに厳しくなったと指摘する回答者もいた。間接費とは、研究助成金の一部として支給される資金で、設備費、大学などの機関運営費、場合によっては大学院生の給与などに充てられる。2023年には、NIHの研究資金の約28%が間接費に充てられていたが、NIHは今年2月に15%を上限とする制限を設定した。DOE、国防総省(DOD)、NSFも追随して同様の上限案を提案している。この動きは複数の …

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