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AI閉塞感の時代、私たちはまだ何も分かっていない
Max-o-matic
The era of AI malaise

AI閉塞感の時代、私たちはまだ何も分かっていない

2020年3月のコロナ禍初期、私たちは何が起きているか分からないまま立ちすくんでいた。今のAIをめぐる状況は、あのときと恐ろしく似ている。テクノロジーはすでにここにある。だが、それが何をもたらすのか、追跡するツールすら私たちにはない。米国版編集長、マット・ホーナンによるエッセー。 by Mat Honan2026.05.09

2020年3月中旬、私たちは誰も何が起きるのか見当もつかなかった。世界中で人々が「新型コロナウイルス」に感染し、命を落とす者まで出始めていた。ブロードウェイは閉鎖された。NBAも同様だった。トム・ハンクスとリタ・ウィルソンはオーストラリアの映画撮影現場で陽性反応を示した。窓の外には沖合に停泊するクルーズ船が見えた。乗客が感染しているか、あるいは感染している可能性があるとして入港を拒否されており、いずれにせよ私たちは彼らを受け入れたくなかった。今も脳裏に焼き付いて離れない光景がある。必死の形相でターゲット(日本版注:米国の大型ディスカウント・スーパー)の駐車場に入ろうとする車の行列だ。棚から商品がすべてなくなっていないことを祈りながら。手遅れではないことを祈りながら。

あの3月、すべてが猛烈な速さで動いていたが、まだ決定的には何も起きていなかった。世界が変わろうとしていることは分かっていたが、どう変わるのかは分からなかった。周囲で何が起きているのかを的確に把握するための道具を、私たちは持ち合わせていなかった。

あの不確かな初期の日々は、今の人工知能(AI)をめぐる私たちの状況とやけに似ている。テクノロジーはすでにここにあり、あらゆる場所に広がり、消える気配もない。だが、それが一体何をもたらすのか。社会にどんな影響を与えるのか。生活を良くするのか、それとも悪化させるのか。どうすればそれを見極められるのか。計画はあるのか。そもそも、乱立する未来予測のうち、いったい誰の言葉を信じればいいのか。

今、私たちは皆、AIに対してなんとも居心地の悪い気分を抱えている。しかもそれは上から降ってくる。大手AI企業のCEOたちは、このテクノロジーが私たちの仕事を根こそぎ奪うかもしれないと警告する。あるいは、そのような誇大な期待に応えられなければ、今度は経済をぶち壊すかもしれない、とも言う。

もしくは——その両方が起きるかもしれない。

投資家が不確実性を嫌うのは自明のことだ。だが、考えてみれば私たちは皆、自分自身の未来へ投資している投資家でもある。AIの約束はあまりにも強力で、抗いがたいほど魅力的だ。すべての病気を治すことに反対する者がいるだろうか? 無限のクリーンエネルギーや気候危機の終焉に反対する者は? しかし少なくとも今この瞬間、目の前に広がる道は、それほど魅力的には見えない。

データセンターは電気代を押し上げ、大気を汚染している。ロボットは攻撃目標のリストを提示し、場合によってはその先にいる人間を実際に吹き飛ばしている。職場では、AIに頼りすぎているのか、それとも十分に活用できていないのか、もはや判断がつかなくなっている。粗悪なAI生成コンテンツ(AIスロップ)がスマートフォンとフィードを埋め尽くし、ソーシャルメディアやブログ、ニュースレター、さらには大手メディアの記事まで、どれもClaude(クロード)が出力した文体のように思えてくる。

好むと好まざるとにかかわらず、あらゆるアプリにAIが注入されている。企業は「AI効率化」の名のもとに、数千人規模で雇用を削減する。人々はその暗い鏡に引き込まれ、現実の感覚を失いつつある。最新モデルはあまりにも強力で、潜在的に危険かつ恐ろしいため、まだ公開できないのだそうだ。「まだ」、だ(でも、もうすぐ。安心して、もうすぐ、だから)。

私たちが眠っている間に買い物をする。タンパク質の構造を解明する。子どもたちに自殺をそそのかす。子どもたちに自殺をそそのかす。

ほとんどの人がAIに不安を覚えるのも、まあ無理はない。

これが私たちの望んでいた未来なのか? 今日がその日なのか? ドローンは目覚めたのか? 意識を獲得したのか? 生きているのか?(いや、まだだ。寝直してくれ)

21世紀の平均的な米国人は、ベッドに横たわり、スマートフォンを見つめている。眠るべきだ。本を読むべきだ。メラトニンを飲むべきだ。それなのに、数式と深夜まで語り合っている。溶けた砂と何時間も、何時間も話し続けている。啓示的な対話。終わりなき一対一の対話。ああ、なんて賢い子だ! 本当に、本当に賢い子だ!早くLinkedInに投稿しなきゃ!

今や友人はみんなAIだ。恋人も。ビジネスの相手も。採用担当者も、営業マンも、ジャーナリストもAI。ミュージシャンも、アーティストも、セラピストも、弁護士も。それから、プログラマー。ああ、プログラマーは間違いなくAIだ。AIはコーディングを習得した。AIは自分自身を構築し始めている

明日、自分に仕事はあるのか? 市場は崩壊するのか? なぜオープンAI(OpenAI)はシェルターを必要とするのか? 私にもシェルターは必要なのか? いや、むしろシェルターを持つべきなのではないか。

敵対的な外国勢力が作ったレゴ動画を見ている。AIポッドキャストを通じて調査レポートを読み込んでいる。Mac Miniでエージェントを1日中、夜通し動かしている。それは眠らず、止まらない。常に動き続けている。それでいったい何をしているのか、って? しーっ。それは聞かないでくれ。それだけは。

AI時代に「職業アーティスト」であるとはどういう意味なのか? いや、美術作家のことを言っているわけではない。ホイットニー・ビエンナーレの話をしているのではない。だが、たとえばあなたが米国で働く約26万5000人のグラフィックデザイナーの一人だとしよう。有名でもないし、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の壁に作品が飾られているわけでもない。それでも、好きな仕事で生計を立てている。そのとき、AIはあなたにとって何を意味するのか?

クライアントはあなたのもとに留まり続けるのか? それともNano Banana(ナノババナ)にプロンプトを打ち込むだけで済ませるようになるのだろうか? AIは制作プロセスの単なるツールになる? 要するに、もう1つのPhotoshop(フォトショップ)のような存在として。それとも、あなたや同僚、あらゆる人たちがこれまでに作ったすべての画像を吸い上げたAIが、月額20ドルのサブスクリプション(メールや、ネット上のスロップ画像を保存できる5テラバイトのストレージ付き)であなたを置き換え、失業と不安の中に放り出すのか?

このダッシュ記号——そう、このダッシュ記号だ——を私は使ってしまった。今、あなたに「この記事を書いたのはAIではないか」と疑われているのではないかと、私は心配している。もっともな疑いだ。私以外に、誰が本当のことを断言できるというのだろう(いや、本当に違うのだけど)。AIを本来の用途どおりに使ったことを認めるのは、いまだにどこか気恥ずかしい。まるでGLP-1(肥満治療薬)を使っているようなものだ。誰も認めたがらないが、ではなぜ皆、突然こんなにスリムになって、しかも賢くなっているのだろうか?

ただ、中にはあっさり認める人もいる! そうなると、自分が取り残されたような気がする。ああ、私のOpenClaw(オープンクロー)は四六時中動いているのに、何一つ役に立たない。でも他の人たちを見よ、あの生産性を。彼らのエージェントはきっと優秀なのだろう。羨ましい。もっとやらなければ。もっと試さなければ。

(試したんだ、本当に試した)。この原稿をGemini(ジェミニ)に読み込ませ、エッセーを代わりにまるごと書いてもらった。最初は「ひどい出来だ」と思った。しかしその後、気づいた。ひどいのは私の方ではないか、と。AIが私の文体を正確に捉えているとしたら。もし私が、単にそういう書き方をしているだけなのだとしたら。大げさで、自己言及に溺れた文章。ちなみにClaudeも似たようなものだった。

あるいは逆に、AIはそれほど悪くないのかもしれない。単に私のほうが、それを使いこなせないほど愚かなだけなのかもしれない。慰めになる考えではある——少なくとも、それが慰めでなくなるまでは。

アンジーヌ・ドゥ・ポワトリーヌ(Angine de Poitrine)をご存じだろうか?(おそらくご存じないだろう。あなたのおすすめページが私のものと違うなら。)彼らは奇妙な外見の実験的マス・ロック・デュオで、風変わりなマイクロトーナル音楽を演奏している。今や彼らはあらゆる場所に同時多発的に現れている。完全にバズっている。最近、彼らの魅力の一部は「AIへの解毒剤」にあると論じた記事を読んだ。大規模言語モデルの産物にはなりえないほど独創的で奇妙な存在だというのだ。生成AIの出力から得られる創造性の均質化は、人間の芸術性と、あの「奇妙さ」には永遠に追いつけないという証拠だと(だからこそAI信奉者たちは、結局のところ重要なのはセンスだけだという主張を飽きもせずに繰り返すのだ)。

もちろん、アンジーヌ・ドゥ・ポワトリーヌはリコリスのような強烈な味がする。そして、もしその議論が正しいとすれば、AI生成の群れから抜け出すためには、ほとんどの人に敬遠されるほど奇妙で予測不可能にならなければならず、そうすることで別の特定の層に深く愛されるということになる。だからこそ、あなたは今この記事を読んでいる。だからこそ、あなたは今この記事を読まされている。

AIがすでに「すべて」になりつつあるとき、どうすればChatGPT(チャットGPT)をやめることができるのだろう。どこにでも存在する不可避のものの前に立ちはだかり、その道を塞ぐことができるのか? 生成AIの使用を避けるよう人々に告げることは、社会への参加を避けるよう告げることと同義になりつつある。私たちはそれを以前にも試みたことがある。

新型コロナウイルスがCOVID-19となり、やがてただの「コロナ」になるにつれ、私たちはそれについて多くのことを学んだ。何が起きるかを学んだ。感染拡大を追跡し、防ぐためのツールを整備した。ワクチンを開発した。そして時間をかけて、学校を再開した。生活を再開した。

しかしAIに関しては、こうした進歩をまだ本格的に始めていない。たとえば、なぜこのダッシュボードが政府のWebサイトに存在しないのか? 大規模なデータセンター建設を支えるための送電網変革に向けた大規模な産業政策はどこにあるのか? ソフトウェア・エンジニア、パラリーガル、トラック運転手、翻訳者、ジャーナリスト、清掃員など、何百万人もの人々が突然職を失ったときの計画は、いったいどこにあるのか?

何が来るのか、どのように広がっているのか、どのように物事を変えているのかをより深く理解するためのツールが必要だ。今持っているおぼろげな感覚ではなく、経済への実際の影響を可視化できるようにならなければならない。追跡し、理解し、予測できるようになるまで、私たちは不確実性と閉塞感の中に取り残され、布マスクをつけながらブロッコリーを漂白し続けることになるだろう。

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マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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AI革命の真実 誇大宣伝の先にあるもの

AIは人間の知能を再現する。AIは病気を根絶する。AIは人類史上、最大にして最も重要な発明だ——。こうした言葉を、あなたも何度となく耳にしてきたはずだ。しかし、その多くは、おそらく真実ではない。現在地を見極め、AIが本当に可能にするものは何かを問い、次に進むべき道を探る。

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