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AIによる雇用破壊、ノーベル賞経済学者の答えはまだ「ノー」
Photo Illustration by MITTR / Photo Alamy
Three things in AI to watch, according to a Nobel-winning economist

AIによる雇用破壊、ノーベル賞経済学者の答えはまだ「ノー」

「AIが仕事を奪う」という議論は政治家の演説から日常会話まであふれている。しかしノーベル経済学賞受賞者のダロン・アセモグルは、2年前と変わらず慎重だ。データは彼の側にある。 by James O'Donnell2026.05.14

この記事の3つのポイント
  1. AIは生産性をわずかに押し上げるにとどまり、雇用の黙示録的な影響は現時点でデータが示していない
  2. エージェント型AIは多様なタスク間の調整能力を欠くため、多くの職種を代替するには依然として限界がある
  3. AI企業が経済学者を囲い込む動きは、自社に有利な言説形成への利用という利益相反リスクをはらんでいる
summarized by Claude 3

2024年のノーベル経済学賞受賞の数カ月前、ダロン・アセモグルは、シリコンバレーでほとんど支持を得られなかった論文を発表した。人工知能(AI)はホワイトカラーの仕事全体を刷新すると大手テック企業のCEO(最高経営責任者)たちが約束していたのとは対照的に、アセモグルはAIが米国の生産性をわずかに押し上げるにとどまり、人間の労働の必要性をなくすことはないと推計した。AIは特定のタスクの自動化には有効だが、多くの職種はまったく問題なく存続するだろうと彼は論じた。

それから2年が経った今も、アセモグルの慎重な見解は広まっていない。AIによる雇用の黙示録的な議論は、バーニー・サンダース上院議員の集会から、スーパーマーケットの列で耳にする会話に至るまで、あらゆる場所で飛び交っている。かつて懐疑的だった一部の経済学者たちも、AIによって何か地殻変動的な事態が訪れる可能性に対して、よりオープンになってきている。カリフォルニア州知事候補のある人物は先週、企業によるAI利用に課税し、「AIによる解雇」の被害者に補償をしたいと述べた

一方で、データは依然としてアセモグルの側にある。複数の研究が繰り返し示しているように、AIは雇用率や解雇件数に影響を与えていない。しかし、彼の慎重な予測が出て以来、テクノロジーはかなり進歩した。私はアセモグルに話を聞き、AIの最新動向が彼の論旨を変えたかどうかを確かめるとともに、差し迫ったAGI(汎用人工知能)の実現ではないとすれば、今日彼が何を懸念しているのかを探った。

AIエージェント

アセモグルの論文発表以降、AIにおける最大の技術的飛躍の1つが、エージェント型AIだ。これはチャットボットの枠を超え、与えられた目標を達成するために自律的に動作するツールである。質問に答えるだけでなく独立して動作できるため、企業はエージェントを人間の複数の労働者を代替するものとして売り込むケースが増えている。

「それは見込みのない話だと思います」とアセモグルは言う。彼は、エージェントは人の仕事全体を担えるほど柔軟なものではなく、仕事の特定の部分を補助するツールとして捉えるほうが適切だと考えている。

その理由の1つは、1つの仕事に含まれる多様なタスクにある。アセモグルは2018年以来、AIに関する研究の中でこの問題を取り上げてきた。例えば、X線技師は患者の病歴の記録からマンモグラフィ画像のアーカイブ整理まで、30種類ものタスクをこなす。人間の労働者はフォーマット、データベース、作業スタイルを自然に切り替えながらこれをこなせるとアセモグルは言う。AIが同じことをするには、いったいいくつの個別ツールやプロトコルが必要になるだろうか。

エージェントがAIの雇用への影響を劇的に加速させるかどうかは、人間が自然に実行するタスク間の調整をエージェントが最終的に処理できるかどうかにかかっている。AI企業は、自社のAIエージェントがミスを犯さずにより長期間にわたって自律的に動作できることを証明しようと熾烈な競争を繰り広げており、時に結果を誇張することもある。しかしアセモグルは、エージェントがタスク間をスムーズに切り替えられない限り、多くの職種はAIによる乗っ取りを免れるだろうと述べている。

新たな採用ラッシュ

大手テック企業はこのところずっと、AI研究者を獲得するために破格の報酬を提示してきた。しかし私がアセモグルに尋ねたのは、私自身が気づいた別の採用ラッシュについてだ。AI企業が一斉に社内エコノミスト・チームを構築しているのである。

オープンAI(OpenAI)は2024年にデューク大学からロニー・チャタジー卓越教授を主任エコノミストとして採用した。そして2025年には、チャタジー教授がハーバード大学の経済学者でバラク・オバマ元大統領の元顧問であるジェイソン・ファーマン教授とともにAIと雇用に関する研究をすると発表した。アンソロピック(Anthropic)は同様の研究のために10人の著名な経済学者からなるグループを招集した。そして先週、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)はシカゴ大学の経済学者アレックス・イマス教授を「AGI経済学ディレクター」として採用したと発表した。

アセモグルも、同僚たちがこうしたポストに引き抜かれているのに気づいている。「理にかなっています」と彼は言う。AI企業は、主に雇用への懸念を背景にAIに対する社会的な懐疑心が高まっていることを十分認識している。そして、自社技術をめぐる経済的な言説を形成しようとする強い動機を持っている(オープンAIが最近発表した新たな産業政策に関する提言を見れば明らかだ)。

「私が懸念するのは、AI企業が経済学者を、自分たちの見解を広めたり誇大宣伝を後押ししたりするためだけに求めているという事態です」。この緊張は「AI経済学」という新興分野全体に漂っている。AIが仕事に与える影響に関する最も影響力のある研究の一部が、有利な結論から最も多くを得る企業から生まれるようになりつつあることは、懸念すべき事態だ。

AIアプリ

この記事を書いている私自身は、AIを使いにくいとは思っていない。私たちのほとんどは、平易な言葉を使うチャットボットを通じてAIと対話している。しかしアセモグルは、スライド作成のためのPowerPoint(パワーポイント)や文書作成のためのWord(ワード)など、かつてのテクノロジー変革を牽引したソフトウェアと比較して考えるべきだと言う。

「誰でもパソコンにインストールして、やりたいことをやらせることができました」と彼は言う。だからこそ、それらは急速に普及した。

「AIをベースにした、同等の使いやすさを持つアプリの開発はまだ見られません」と彼は言う。誰でもAIモデルとチャットできるとしても、一般的な労働者がそこから実用的かつ生産的な成果を得られるようになるまでには、ある程度の時間がかかる傾向がある。それが、AIがまだ雇用市場や経済に地殻変動的な影響を与えていない理由の1つだ。したがって、アセモグルが注視している重要なシグナルの1つは、AIをより使いやすくするアプリの誕生である。

しかし彼は、しばらくの間はAIに関するあらゆる種類の相反するエビデンスが出てくるだろうと認める。例えば、大学卒業生が就職市場がますます厳しくなっていると感じているという逸話がある一方で、AIが生産性に与える影響は目に見えて現れていない、といった具合だ。「不確実性は非常に大きいです」と彼は言う。そして今のAI経済について最も示唆的なのは、言説の確信と、それ以外のすべての不確実性との対比だ。

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ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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