AIで「弁護士なし訴訟」が激増、それでも判事が歓迎する理由
AIの普及で、弁護士を立てない「本人訴訟」が米国で激増している。本人申立の割合は2022年の11%から2025年には16.8%に伸びた。法廷が混乱しそうなものだが、多くの判事の受け止めはむしろ逆だ。AIが起草した訴状は、判読しづらい手書きの書類より主張が明快で、かえって理解しやすいという。 by Michelle Kim2026.06.05
- この記事の3つのポイント
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- AIの普及により弁護士なし訴訟の割合が2022年の11%から2025年には16.8%へと急増している
- AI起草の申立書は文書品質を高め判事の処理効率を改善する一方、勝訴率の向上には寄与していない
- チャットボットへの秘匿特権適用や誤助言の責任帰属をめぐり判例・立法の両面で議論が割れている
米コロラド州の連邦治安判事であるマリッツァ・ブラズウェル判事は、執務室でほぼ毎日、弁護士なしで書かれた書類の山に目を通している。その多くは、弁護士を雇う余裕がない人で、弁護士が関心を持つには事件が弱すぎる、あるいは小さすぎる場合もある。彼女は、法廷に一人で立つことがいかに困難であるかを念頭に置きながら、1つ1つを丁寧に読んでいる。
最近、米国各地の多くの判事と同様に、ブラズウェル判事はこうした申立件数が目に見えて増加していると感じている。2005年から2026年までの連邦民事訴訟450万件を調査した新たな研究によると、本人申立(弁護士なし)による訴訟の割合は2022年の11%から2025年には16.8%に増加した。さらに、そうした本人申立て訴訟で提出される各種法廷文書の件数も、2023年以前の水準から2倍以上に増加した。
ブラズウェル判事は、この急増の背景にはAIがあると見ている。
「私は実際にAIの利用を目にしているので、この増加は少なくとも一部はAIと関係していると考えています」と判事は言う。AIを活用して法廷文書を精査する、テクノロジーに精通した判事である彼女は、大規模言語モデル特有の文体を見分けられるようになった。文章そのものから判断できる場合もあれば、AIの幻覚(ハルシネーション)によって生み出された架空の判例や捏造された引用から判別できることもある。
「実際のところ、以前よりもよく書かれた申立書を見るようになっています」。
ただ、AIは司法へのアクセスを広げているように見える一方で、勝訴の可能性を高めているわけではないようだ。また、大規模言語モデルが弁護士の役割を担い始める中で、判事たちは、こうしたモデルがどのような権利や責任を負うべきかについても考え始めている。たとえば、チャットボットには、人間の弁護士と同様に適切な助言を提供する注意義務があるのかという問題がある。さらに、チャットボットが不適切な法的助言を与えた場合、その責任を誰が負うべきかという課題についても、全米の立法担当者たちが取り組み始めている。
AIが訴訟を加速させる
弁護士なしで提起された訴訟の増加をAIが牽引しているかどうかを検証するため、MITスローン経営大学院のアナンド・シャーと、南カリフォルニア大学のジョシュア・レヴィらは、無作為に抽出した1600件の法廷文書を商用AIテキスト検出ツール「Pangram(パングラム)」にかけた。AI生成の文章を含むと判定された割合は、2023年の1%から2026年には18%に上昇した。
ブラズウェル判事にとって、これは必ずしも懸念材料ではない。AI支援による申立ての急増は裁判所の業務量を増やしているかもしれないが、彼女を含む多くの判事は、AIによって法律の専門教育を受けていない人々でも自らの主張をより明確に表現できるようになり、かえって判断がしやすくなっていると感じている。
弁護士なしで作成された法廷文書は、解読が難しいことで知られている。中には、ほとんど意味をなさないような手書きの走り書きで提出されるものもあり、判事が内容を理解するまでにかなりの時間を要することもある。それでも、どれほど難解であっても、判事にはそれらを好意的に解釈しながら読む義務がある。
最近では、ブラズウェル判事はAIが起草した申立書のほうを、当事者本人が書いたものよりも速く処理できるようになっている。「中には幻覚や誤りを含むものもあるため細心の注意が必要です。しかし、AIの助けを借りて作成された申立書のほうが、そうでない場合よりも、彼らが何を主張しようとしているのかを概ね理解しやすいのです」と判事は言う。
申立書がより明確になることで、ブラズウェル判事は当事者たちの主張をより正確に把握できるようになっている。「主張を少しでもよく理解できれば、その分だけ相手を助けられる可能性も高くなると思います」。
AIを使って訴訟を起こす方法を共有するセルフヘルプ型のオンライン・コミュニティも次々に生まれている。2024年12月には、あるレディット(Reddit)の投稿が話題になった。移民申請者に対して、申請審査の遅延を理由に米国市民権・移民局(United States Citizenship and Immigration Services:USCIS)を訴える方法を詳しく説明したものだ。その内容は、マイクロソフトのCopilot(コパイロット)で職務執行令状(writ of mandamus)の草案を作成し、弁護士に150ドルを支払って仕上げてもらったうえで、処理が迅速なバーモント地区連邦地方裁判所へ提出するというものだった。バーモント州では、弁護士なしで提起された訴訟件数が、2022年以前には年間約45件だったのに対し、2024年には1100件を超えた。
それでも、弁護士なしの人は弁護士ありの人に比べて敗訴する可能性がはるかに高く、AIが加わっても状況は変わっていないと研究は指摘している。
「訴訟を起こすというのは、複雑で多面的な作業であることが分かります。必要なのは文書の起草だけではないのです」とレヴィは言う。
チャットボットとクライアントの秘匿特権
コネチカット州の連邦治安判事であるウィリアム・ガーフィンクル判事は、30年にわたって裁判官を務める中で、弁護士と依頼人との関係に関するさまざまな問題について考えてきた。最近、彼は法的助言を提供するチャットボットとの会話も、弁護士との会話と同様に秘匿特権の対象となるべきではないかと考えている。
「Claude(クロード)やChatGPT(チャットGPT)、Grok(グロック)のような大規模言語モデルとの会話は、何らかの保護を受けるべきだという十分な議論が成り立ちます」。
裁判所はすでにこの問題への対応を始めている。2月には、ミシガン州の連邦裁判所が、本人申立ての当事者が自身の訴訟準備のためにChatGPTと交わした会話は「作業成果物(ワークプロダクト)」にあたり、相手方への開示から保護されるべき法的作業であるとの判断を示した。
しかし同じ日に、ニューヨーク州の連邦裁判所は、刑事被告人がClaudeを使って作成した文書について、弁護士・依頼人間の秘匿特権や作業成果物の保護は及ばないと判断した。裁判所は、Claudeは弁護士ではなく、またAI企業はユーザーデータを第三者に開示する可能性があるため、利用者はClaudeとの通信について「合理的な秘密保持の期待」を持つことができないと指摘した。
3月には、ブラズウェル判事が、本人申立ての当事者によるチャットボットとのやり取りは保護の対象とすべきであり、開示を求めるべきではないとの判断を示した。「ChatGPT、Claude、Gemini(ジェミニ)などのAIシステムが、(中略)訓練やその他の目的のためにユーザーデータを収集しているのは事実です。しかし、(中略)それによってプライバシーへの期待が完全に失われるわけではありません」。その後も、この問題について裁判所の判断は割れたままである。
脈のない医療過誤
判事たちの中には、チャットボットにも弁護士と同様に適切な法的助言を提供する注意義務があるのかどうかを考え始めている者もいる。カリフォルニア州の連邦治安判事であるアリソン・ゴダード判事は、弁護士を付けていない当事者が和解交渉の際に事件の価値を見積もろうとして、ChatGPTから誤った助言を受けるケースをしばしば目にしている。ある事件では、店舗で転倒した原告が店舗側に70万ドルの賠償を求めたが、その金額は実際の事件の価値を大きく超えたものだった。
「70万ドルもらえるというアイデアはどこから来たのですか? ChatGPTに聞いたのですか?」とゴダード判事が尋ねると、原告は「えっと……」とぼそぼそと答えた。判事は法律の内容を説明し、なぜChatGPTが誤っているのかを説明した上で、より低い金額を提案した。「まるで『グーグル先生』が法科大学院に行ったみたいです」と彼女は言う。
次に問題となるのは、チャットボットがこうした誤りを犯した場合、その責任を誰が負うのかという点である。2026年3月、日本生命保険はオープンAI(OpenAI)を提訴した。同社は、ChatGPTが無資格で法律業務を行い、すでに和解済みだった訴訟を女性が蒸し返すのを手助けした結果、根拠の乏しい申立てによって裁判所の業務を混乱させたと主張している。訴状には、「ChatGPTは弁護士ではない」と記されている。
5月には、オープンAIが、この訴訟の棄却を裁判所に求めた。同社は、ChatGPTは法律業務を行っていないと主張している。提出書面の中でオープンAIは、「ChatGPTは人間ではなく、法的知識や法的技能を有しておらず、それらを行使することもない」としている。この訴訟は現在も係争中である。
各州では、チャットボットが不適切な法的助言を行った場合に、AI企業へ責任を負わせる法整備の検討が始まっている。ニューヨーク州では3月、たとえ利用者にチャットボットであることを通知していたとしても、チャットボットが弁護士を装うことを禁止する法案が提出された。連邦議会でも、チャットボットが弁護士や医師、その他の有資格専門職を装うことを禁じる一連の法案が提案されている。ただし、これらの法案はいまだ広範な支持を得るには至っていない。
当面のところ、人々は弁護士の代わりとしてAIを使い続けるだろう。多くの人にとって、その利点はリスクを上回るからだ。少し前まで、ブラズウェル判事が、なぜ特定の証拠を求めるのかを本人申立ての当事者に尋ねると、彼らは自信なさげにぼそぼそと答えることが多かった。しかし今では、チャットボット相手に何度も練習を重ねているため、堂々と質問に答えるようになっている。
「この制度は本当に難しく、利用者にとっては分かりにくいものです。しかしAIがあれば、その複雑さは少し和らぎます」とブラズウェル判事は言う。
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- ミシェル・キム [Michelle Kim]米国版 フェロー
- AIジャーナリズムのためのターベル・センター(Tarbell Center for AI Journalism)の支援を受けて執筆している、MITテクノロジーレビューのAI担当記者。これまでに、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)で労働とテクノロジーをテーマに取材し、フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌では韓国政治について執筆していた。ジャーナリズムに転身する以前は、米カリフォルニア州で企業弁護士として勤務。
