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日本発・世界を変える「U35 イノベーター」募集中!
環境モニタリングは地域の基盤技術へ 村上ウェインライト治子MIT准教授
村上(ウェインライト)治子氏/提供写真
Interview with Prof. Haruko Murakami Wainwright

環境モニタリングは地域の基盤技術へ 村上ウェインライト治子MIT准教授

マサチューセッツ工科大学(MIT)原子核科学・工学科/土木・環境工学科の准教授である村上(ウェインライト)治子氏は、環境モニタリングと水理シミュレーションを専門に、核汚染や気候変動が水循環・生態系に及ぼす影響を研究してきた。環境モニタリング技術の最前線と社会課題との向き合い方、そしてイノベーターの条件について、Innovators Under 35 Japan 2026の審査員を務める同氏に話を聞いた。 by MIT Technology Review Japan2026.07.27

MITテクノロジーレビューが主催する世界的なアワードの日本版「Innovators Under 35 Japan(イノベーターズ・アンダー35ジャパン)」が、2026年度も開催される。7月31日まで候補者の推薦および応募を受付中だ。

本年度の審査員に加わった村上(ウェインライト)治子氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)原子核科学・工学科/土木・環境工学科の准教授として、環境モニタリングや水理シミュレーションを軸に、核廃棄物や核汚染、気候変動が水循環・生態系に及ぼす影響を研究してきた。福島の放射線モニタリングデータの統合にも携わった経験を持つ。村上氏に、環境モニタリング技術の最前線に加え、汚染地の再生や原子力の再活用といった社会課題との向き合い方、そしてイノベーターの条件について話を聞いた。

◆◆◆

モニタリングが拓く環境保全と地域再生

──村上先生は、環境アセスメントやモニタリングがご専門ですが、どのような研究をされているでしょうか。

具体的には、汚染物質が地下水中でどのように移動するのかをモデル化したり、濃度データを内挿してマップ化したり、将来の濃度分布を予測したりしています。このモデル化や予測に、機械学習やAI技術を活用しています。

研究の第一の目的は、環境と人々の健康を守ることです。また、科学的なデータに基づいて安全性を確認できれば、近隣住民の方々に安心を提供することにもつながります。さらに、その地域の産業やイメージを守ることも重要です。

私は福島における放射線モニタリングデータの統合にも関わってきましたが、その中で、風評被害に苦しんでいる方々にもお会いしました。実際のデータは、客観的な情報を提供するための「ハードエビデンス」として非常に重要です。科学的なデータをわかりやすく示すことで、環境保全だけでなく、社会的な信頼の回復にも貢献できると考えています。

また、最近は環境教育にも力を入れています。センサーを使った環境モニタリングやデータサイエンスを、高校レベルの教育に取り入れる取り組みを進めています。私自身、地方出身ということもあり、アラスカやナヴァホ地域など、教育機会が限られている遠隔地でのサマースクールにも参加しています。環境リテラシーを高めることは、自分たちの環境・健康を自分たちで守ることにもつながりますし、環境問題についてより深く考える機会にもなるのではないかと思っています。

──環境モニタリングの分野は、いまどのような課題に直面しているのでしょうか。

村上(ウェインライト)治子
[Haruko Murakami Wainwright]
マサチューセッツ工科大学 原子核科学・工学科/土木・環境工学科准教授

京都大学工学部物理工学科卒。カリフォルニア大学バークレー校統計学(修士)、原子核工学科(博士)を修了。現在、マサチューセッツ工科大学(MIT) 原子核科学・工学科/土木・環境工学科准教授。環境モニタリング、水理シミュレーションが専門。核廃棄物、核汚染、気候変動の水理・生態系への影響等を研究している。

この分野では現在、さまざまなセンサー技術に加え、航空機や衛星から得られる地表データなど、観測技術が大きく進展しています。ただし、これらのデータは多くの場合、対象となる環境状態を直接測っているわけではなく、間接的な情報です。そのため、観測データと実際の環境状態との関係性を定量化することが非常に重要になります。

また、こうした多様な情報を統合し、シミュレーションモデルを構築することも可能になってきました。その上で、機械学習を含むさまざまなアルゴリズムの開発も進んでいます。たとえば、異常を自動的に検知したり、モニタリングの場所や頻度を最適化したりするなど、AIの活用も広がっています。

一方で、環境データは実験室のようにコントロールされた空間で得られるものではありません。ばらつきが大きく、外れ値も多く含まれます。そのため、単にデータ量を増やすだけではなく、目的やニーズに応じて、どの程度の情報があれば十分なのかを見極めることが重要です。限られたデータから、意思決定に役立つ信頼性の高い情報をいかに引き出すかが、この分野の大きな課題だと考えています。

──米国では、原子力の再活用への動きも広がっていると聞きます。こうした流れの中で、環境モニタリングはどのような役割を担うのでしょうか。

米国では、汚染土壌のある土地をそのまま放置するのではなく、汚染が安定化されていることを確認した上で、いかに安全に再利用・再開発するかという取り組みが進んでいます。いわゆるブラウンフィールドの再開発です。

その際、環境モニタリングは非常に重要な役割を果たします。日常的に安全性を確認することで住民に安心を提供できますし、万が一何か変化があった場合にも、迅速に検知して対応することができます。モニタリング技術は、単に汚染を測るためだけでなく、土地利用や地域再生を支える基盤技術になりつつあると思います。

また、近年は原子力の再活用に向けた動きも活発になっています。新しい原子炉の開発に加え、再処理や地層処分の分野も改めて注目されています。原子力の発展のためには、過去の事故や汚染の経験から学び、それを安全性の向上に活かしていくことが重要です。技術開発だけでなく、環境モニタリング、リスク評価、社会とのコミュニケーションを一体的に進めることが求められていると感じています。

イノベーションは既存の知識や手法の問い直しから

──Innovators Under 35は35歳未満のイノベーターを選出するアワードです。先生ご自身は35歳前後の頃、どのような研究に取り組んでいたのでしょうか。

米国のローレンスバークレー国立研究所で、地球環境分野のチームサイエンス・プロジェクトの一員として研究していました。環境モデリングや環境モニタリングという自分のコアとなる技術・スキルを活かしながら、汚染問題だけでなく、気候変動に伴う水循環や生態系の変化、炭素サイクルの変化など、さまざまな分野の研究に関わることができました。

私の専門は基本的には水理学ですが、プロジェクトでは、物理探査、地球化学、微生物学など、異なる分野の科学者と一緒に研究を進めていました。具体的には、さまざまな種類のデータを統合して、地下環境などに存在する不均質なパラメーターを推定し、それを将来予測モデルに反映させる研究です。

異分野の融合や統合は決して簡単ではありませんでした。分野ごとに使う言葉も、重視するデータも、考え方も異なります。しかし、その分、学ぶことが非常に多く、研究としてもとても楽しい経験でした。若い時期にそのようなチームサイエンスに関われたことは、その後の研究の基盤になっていると思います。

──分野を越えて活躍する研究者を見てきた村上先生にとって、「イノベーターの条件」とは何でしょうか。

まず大切なのは、疑問を持つことだと思います。たとえ確立された手法や手順であっても、よく見ると盲点が存在するケースも少なくありません。たとえば環境モニタリングでは、「この基準値はどのように決められたのか」「この手法はどのような仮定に基づいているのか」と問い直してみると、意外に時代遅れになっていたりすることがあります。そうした盲点に気づき、問いを立てるところから革新が生まれるのだと思います。

次に重要なのは、確立された知識を丸暗記するのではなく、根本原理から考えることです。MITにいると、教授同士の何気ない会話であっても、かなりテクニカルな内容になることがよくあります。異分野の話題であっても、突っ込んだ質問や議論になります。

その背景には、大学1〜2年レベルの基礎知識(たとえば微分積分、質量保存・エネルギー保存、化学平衡)をしっかり理解していれば、多くの現象は大まかに理解できるという信念があります。また、説明する側にも、原理から説明すれば相手に理解してもらえるという前提があります。たとえば拡散方程式は、物性物理、環境中の物質移行、原子炉物理など、幅広い分野に共通しています。MITの試験にも、こうした原理的な理解を問う問題が多く出されますし、学生も、単にボタンを押せば答えが出るシミュレーションではなく、その背後にある式や考え方を理解したいと求めます。

根本原理から考えることで、新しい視点が生まれると思います。また、異分野の知識を融合することも可能になります。イノベーションは、単に新しい技術を使うことからではなく、既存の知識や手法を根本から問い直し、異なる分野を結びつけるところから生まれるのではないかと思います。

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