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中国製無料AIモデル「Kimi」に揺れる米政権、対応をめぐり論争
Andrew Harnik/Getty Images
China’s AI models have Trump’s AI world at war with itself

中国製無料AIモデル「Kimi」に揺れる米政権、対応をめぐり論争

中国企業が発表した無料のAIモデル「Kimi」を巡って、トランプ政権が揺れている。政府が管理を強めるべきか、オープンな競争に委ねるべきか。危機感は共有されていても、その中身では誰も一致していない。 by James O'Donnell2026.07.22

この記事の3つのポイント
  1. 中国製無料AIモデル「Kimi」の台頭が、トランプ政権内の顧問らの公然たる対立を引き起こした
  2. Kimiは米国主要AIモデルに匹敵する性能を無償提供し、経済・安全保障の両面で政権に打撃を与えている
  3. 審査制度強化派とオープン競争派が鋭く対立し、脅威の本質と対処法について政権内に合意が存在しない
summarized by Claude 3

先週末、ドナルド・トランプ大統領のAI政策を支える現職の顧問や元顧問らが、米国を代表するAI企業を公然と批判した。3月までトランプ政権でAI・暗号資産政策を統括していたデイビッド・サックスは、アンソロピック(Anthropic)のモデルを「ロボトミー化されている」「ウォーク(過度に政治的に正しい)」と切り捨てた。一方、国防総省高官のエミル・マイケルは、オープンAI(OpenAI)の戦略的未来部門責任者を「AI業界で最も救いようのない愚か者」と罵倒した。

騒動の発端は、「Kimi(キミ)」への対応をめぐって意見が割れていることだ。Kimiは、中国のAI企業ムーンショット(Moonshot)が先週公開した、無料で利用できるオープンモデルである。その性能はオープンAIやアンソロピックのモデルに匹敵するとみられる。一方で、そうしたモデルは有料で提供されており、無料では利用できない。

Kimiをはじめとする中国製モデルは、トランプ政権にとって深刻な問題となっている。そして、トランプ政権でAI戦略を担う人々を複数の派閥へと分断しつつある。Kimiのような高性能で無料の中国製モデルが新たに公開されるたびに、米国企業はアンソロピックやオープンAIのモデルを利用するために料金を支払う理由を失っていく。こうしたAI企業への期待が経済成長のかなりの部分を支えている現状を踏まえると、中国製AIモデルは政権に経済面と政治面の双方で問題を突き付けている。カーネギー国際平和財団のフェロー、アントン・ライヒトはXへの投稿で、「これ以上の経済的な悪材料を望まない政権にとっての脅威だ」と書いた。実際、中国製AIモデルはすでに米国株式市場を揺るがしている。

トランプ大統領はどう動くべきなのだろうか。まず、この一連の出来事が、ニューヨーク州が全米で初めて新規データセンターの建設を州レベルで禁止してから、わずか1週間後に起きていることを考える必要がある。AI企業への不信感は高まりつつあり、オープンAIやアンソロピックがより安価な競合との競争を強いられていても、それに同情しない米国人は決して少なくないだろう。また、AI企業の利益を守ることは政府の役割ではないと考える人も多いはずだ。

この点では、大手AI企業に批判的な人々も、デイビッド・サックスと一部で見解を共有している(もっとも、その一致点はごくわずかだが)。サックスは7月19日、大手AI企業が「オープンソースの競合を政府に排除させようとしている」と批判した。また、中国製AIモデルが普及した背景には、(国家による検閲は別として)利用上の制約が少ないことがあるとも指摘している。

しかし、サックスはすでに政権を離れている。トランプ大統領に助言する正式な役割はもはやなく、「よりオープンなAIのほうが望ましい」という彼の考え方は、政権内では政府による介入をより重視する見方へとほぼ置き換えられた。その背景にあるのは、AIモデルは国家安全保障を脅かし得るほど強力になっており、その利用方法を政府が管理しなければならないという考え方である。

この新たな主張が、AIモデルの公開前に安全性を審査するホワイトハウスの新たな審査制度を後押ししている。これに対し、トランプ政権の元AI顧問で、現在はオープンAIの戦略的未来部門責任者を務めるディーン・ボールは、「フロンティアAIに対する事実上の免許制度だ」と批判した。ボールは、トランプ政権はKimiのような中国製オープンモデルへの対応として、米国企業にそれらの利用を控えるように圧力をかけるといった、ソフトパワーによる解決を目指す可能性を指摘した。これに反応したのが、ピート・ヘグセス国防長官の下でAI企業との主要な窓口を担ってきたエミル・マイケルだ。マイケルはボールを「AI業界で最も救いようのない愚か者」と酷評し、政府が企業に対して水面下で圧力をかけるとの指摘に反発した。「ディープステートの陰謀ではなく、民主的なプロセスを通じて」対処するというのがマイケルの主張だ。

この議論で置き去りにされているのは、Kimiのようなモデルがそもそもなぜこれほど優秀になったのかという問いだ。前バイデン政権の大半の期間、そして第2次トランプ政権の初期においても、中国が最先端の半導体を入手できないようにすることが優先事項だった。しかし、その輸出規制は緩和されている。トランプ大統領は物議を醸す決断を下し、米国政府が利益の一部を得ることと引き換えに、エヌビディア(Nvidia)が中国により多くのチップを販売することを認めた。また、半導体が密輸されたと政府が主張する事例も存在する。それにもかかわらず、中国の計算能力は依然として限られており、Kimiの開発元がモデルの学習にどの半導体を使用したかは明らかになっていない。

その過程では、「蒸留(distillation)」と呼ばれる手法が用いられた可能性がある。これは、既存のAIモデルが生成した出力を利用して別のAIモデルを学習させる手法である。オープンAIとアンソロピックは、中国のAI企業がこの手法を利用していると以前から主張しており、それを阻止するための政府による支援を求めてきた。4月、トランプ政権は蒸留を抑制するための一連の施策を発表し、両社の要望はようやく実現した。

しかし、Kimiはすでに公開され、無料で利用できる。その性能は、米国政府が国家安全保障上の脅威になり得るとして一時的に公開を停止させたアンソロピックのモデルにほぼ匹敵する。先週末の論争は、トランプ大統領の周辺にいる多くの人々が、これを重大な警鐘として受け止めていることを示している。しかし、それが何に対する警鐘なのかについては、誰一人として意見が一致していない。

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自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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