フラッシュ2022年5月4日
慢性痛がなぜ不安を引き起こすのか? 北大が脳内の仕組みを研究
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]北海道大学の研究チームは、慢性痛が不安を引き起こす仕組みを解明した。慢性痛と不安障害やうつ病の併発率が高いことは知られていたが、理由は明確ではなかった。慢性痛や、慢性的なストレスが引き起こす精神疾患の治療法の開発につながりそうだ。
先行研究からは、脳内の分界条床核から視床下部外側野に情報を伝える神経が、不安水準の調節に関与していることが分かっている。そこで今回の研究ではこの神経が慢性痛によってどのような影響を受けるのかを調べた。
研究チームは、神経障害性疼痛モデルマウスを作製し、4週間慢性痛を感じさせた後、単一の神経細胞の活動状態を計測できる電気生理学的手法で視床下部外側野に情報を伝える分界条床核神経の活動状態を解析した。その結果、慢性痛時に分界条床核神経が持続的に抑制されていることが分かった。ケモジェネティクスという神経活動操作法を使用して、分界条床核神経を人為的に活性化させることで不安を軽減できたという。
続いて、分界条床核の上流にある神経細胞の変化を調べた。遺伝子を改変した動物と、オプトジェネティクスと呼ぶ神経活動の捜査手法を使い、コカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)を産生する分界条床核神経細胞を人為的に活性化させた。その結果、分界条床核神経への抑制性入力が増加した。このことから、CARTを産生する分界条床核神経細胞が分界条床核神経の上流に位置している抑制性神経であることが明らかになった。
慢性痛時のCART産生神経細胞を電気生理学的手法で調べたところ、健常なマウスと比較して神経活動が亢進していた。さらにケモジェネティクスでCART産生神経細胞の活動を抑制したところ、不安が軽減したという。
研究成果は4月28日、サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)誌に掲載された。
(笹田)
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