フラッシュ2022年10月8日
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東大と理研、睡眠を促すタンパク質リン酸化酵素の働きを解明
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東京大学と理化学研究所(理研)の研究グループは、神経細胞で働くタンパク質リン酸化酵素「CaMKIIβ」が、入眠の促進と目覚めの抑制という2段階の働きで睡眠時間を延長させていることを明らかにした。
研究グループはCaMKIIβが複数のリン酸化部位を持ち、リン酸化状態の変化によって機能が変化することに注目。CaMKIIβのどのリン酸化部位が睡眠制御に関わるかを調べた。CaMKIIβには自己リン酸化が起こる可能性があるセリンとスレオニンが69カ所存在する。今回は69カ所それぞれに疑似リン酸化変異を導入した69種類の変異遺伝子を作成し、ウイルスベクターを利用してマウスの全脳に遺伝子を発現させてマウスの睡眠状態を調べた。
その結果、287番目のスレオニン(T287)に疑似リン酸化変異を導入したCaMKIIβを発現させたときに、1日当たり100分以上もマウスの睡眠が延長することが分かった。そして、これは睡眠誘導を促進する効果によるものだった。
続いて、287番目のスレオニンに疑似リン酸化変異を導入したCaMKIIβに2カ所目の疑似リン酸化変異を導入した変異CaMKIIβを作成し、マウスの脳内に導入して睡眠状態を調べた。その結果、287番目のスレオニンに加えて、307番目のスレオニンに疑似リン酸化変異を導入したときに、マウスの睡眠時間が長くなることが分かった。これは、睡眠の誘導ではなく、目覚めの抑制、つまり睡眠の維持による効果であることが分かったという。
研究成果は10月4日、プロス・バイオロジー(PLOS Biology)誌にオンライン掲載された。既存の多くの睡眠薬は、睡眠を誘導するものだ。今回、睡眠の誘導だけでなく、目覚めの抑制に関わる機構が明らかになったことで、睡眠を維持する方法の開発につながる可能性があるとしている。
(笹田)
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