フラッシュ2023年9月25日
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気候変動/エネルギー
海洋エアロゾル中の脂肪酸、光ほぼ吸収せず 定説覆す新成果
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東京大学と筑波大学の研究グループは、海洋エアロゾルが含有する脂肪酸が光をほとんど吸収しないという事実を突き止めた。これまで90年以上にわたって、海洋エアロゾル中の脂肪酸が太陽光をよく吸収すると考えられてきたが、この定説が誤りであることを明らかにした。
海洋エアロゾルには生物が排出する脂肪酸などの有機分子が存在しており、その割合は質量にしておよそ40%になる。海洋エアロゾルが含有する脂肪酸の中でも代表的なものとしてノナン酸が挙げられ、これが太陽光を吸収して光反応を起こすことで雲の素(凝結核)になるアルデヒドやケトンなどの有機分子を生成すると考えられている。ノナン酸が太陽光を吸収する理由や仕組みについてはカルボン酸陰イオンの生成や、環状二量体の寄与、電子スピン禁制遷移の寄与など、さまざまな仮説が出てきたが、詳細は不明だった。
研究グループは独自の精製装置を作成し、ノナン酸を嫌気雰囲気(酸素を含まない大気)の−28℃という低温の条件で再結晶を15回繰り返すことで、極めて高純度のノナン酸を精製。この超高純度ノナン酸が紫外光を吸収する断面積を紫外吸収分光法を測定したところ、波長240〜310ナノメートルの光吸収度合いが過去のさまざまな研究結果に比べて明らかに小さくなっていた。海洋表面に届く太陽光の波長は295ナノメートル以上で、この結果から脂肪酸が太陽光をよく吸収するという定説が誤りであることが分かった。
さらに研究グループは、核磁気共鳴分光法で再結晶前のノナン酸が含有する不純物を調べた。その結果、再結晶前のノナン酸は多種多様な不純物を含有しており、その中には太陽光を吸収することが分かっているケトンが存在することが分かった。再結晶前のノナン酸中のケトンの濃度は0.1%未満とごく微量だが、これまで定説となっていた脂肪酸の光吸収が、ケトンなどの不純物によるものであることが明らかになった。
研究成果は9月20日、サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)誌にオンライン掲載された。今回の研究で海洋エアロゾルに関する光反応の理解が進み、気候変動の予測精度が向上すると期待される。
(笹田)
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