AIが加速する「ナスカの地上絵」探し、山形大とIBMが共同実験
南米ペルーのナスカ台地に描かれた「ナスカの地上絵」は、はるか上空から見なければ形を把握することのできない巨大な線画の集まりだ。地上に隠された図形をより効率よく見つけ出すために人工知能(AI)の利用が始まっており、すでに成果を上げている。
1920年代に発見されて以来、ナスカの地上絵は専門家たちを当惑させ続けてきた。地上絵は紀元前200年から紀元後600年の間に描かれており、地表の石を取り除いて下層にある白い砂を露出させることで、幾何学図形や人、動物など、「地上絵」として知られるさまざまな図形を描いている。ナスカの地上絵は1994年にユネスコ世界遺産に登録されたが、図形の持つ意味や目的は、考古学者たちを悩ませつづけている。
2004年、山形大学の坂井正人教授が率いる研究チームが、地上絵を保存し、重要性を理解することを目指して、すべての線画を網羅するマップを作成する共同調査を開始した。2019年11月15日、同研究チームは、10年以上にわたるフィールドワークと高解像度3Dデータの分析を通じ、ナスカ台地とその周辺部で具象的な地上絵を新たに142点発見したと発表した。これらの地上絵は、4つの大きなカテゴリーに分類される。長さ100メートルにも及ぶ、動物の形をした大型の意匠は、儀式の場所を区分するものと考えられている。小型のシンボルは旅行者が位置確認をするための目印として使われたと考えられており、中には5メートルに満たない大きさのものもある。
未発見の地上絵はまだたくさん残っているが、地上絵を見つけ出すためのプロセスは困難さを増している。洪水や道路、市街地の拡大に伴って、多くの地上絵が損傷を受けているからだ。坂井教授らは、地上絵は当初の想定よりもはるかに広い範囲にわたって散在していると考えている。つまり、従来の手法による調査にはかなり長い時間がかかるということだ。
そこで坂井教授らの研究チームは現在、日本IBMと共同研究を実施するために学術協定を締結し、深層学習アルゴリズムの利用による発見の効率化に取り組んでいる。クラウド・プラットフォームを利用して、ライダー(LIDAR:レーザーによる画像検出・測距)、ドローン、衛星画像、測量調査などで得られた膨大な地理空間データを統合し、調査エリアの高精度マップを作成している。
そのうえで、研究チームは、既知の地上絵のデータ・パターンを識別して新たな地上絵を見つけ出せるように、ニューラル・ネットワークを訓練している。テストを実施する中で、早くも1点の新たな地上絵(過去に集めたデータの中で見逃されていた、人の形をした小型の意匠)が見つかった。従来の手法では数年かかっていたような発見が、たった2か月でできたのだ。