遺伝子編集ベビーの科学者、タイム誌の「最も影響力のある100人」に
フー・ジェンクイ(賀建奎)は有名になりたかった。だが、まさかこうなるとは思っていなかっただろう。
タイム(TIME)誌は2019年の「世界でもっとも影響力のある100人」に、世界初の遺伝子編集を受けた子どもを作った南方科技大学のフー元准教授を選んだ。 ただし、これにはオチがある。同誌は、CRISPR(クリスパー)の共同発明者であるカリフォルニア大学バークレー校の生化学者ジェニファー・ダウドナ教授に、フー元准教授のプロフィール執筆を依頼したのだ。言うまでもなく、彼女にとっては歓迎できない出来事だ。
フー元准教授は昨年11月、遺伝子編集ツールのCRISPRを使ってゲノム編集を施した双子の女児を誕生させたと発表した。フー元准教授はこれで有名になれると思った。もしかしたらノーベル賞にも手が届くだろう、と。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の遺伝子学者レオニード・クルグリャック教授は、歌手のアリアナ・グランデや俳優のラミ・マレックと並んでフー元准教授がリスト入りしたことについて、「彼の思い通りになってしまったことは大変遺憾です」と話す。
フー元准教授の悪評を否定することは難しい。フー元准教授の実験は何週間にもわたって新聞の第一面を賑わし続けた。しかしタイム誌はここでいい仕事をした。CRISPRを共同発明し、2015年にはその技術を濫用してデザイナー・ベビーを作ることに警告するキャンペーンを始めたダウドナ教授に原稿を依頼したのだ。
ダウドナ教授は手加減しない。フー元准教授の「無謀な女児を使った実験」は、「ヒト胚の編集は比較的容易だが、うまく実現するのは信じられないほど難しい」ことを証明し、またフーの判断は「歴史上もっとも衝撃的な科学的手段の誤用の1つとして記憶されるでしょう」と書いている。
このCRISPRベビー・スキャンダルにおける1つの疑問は、米国の科学者らがフー元准教授の研究にどの程度の奨励や支援をしていたかだ。今週、スタンフォード大学は、フー元准教授の計画を知った同大教授の研究への関与はなかったことを明らかにした。
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