物理学者
「時間結晶」を作成
2012年に予測された時間結晶の作成に物理学者がはじめて成功した。いつか量子メモリーに使えるかもしれない。 by Emerging Technology from the arXiv2016.10.05
結晶は対称性があることで、他とは異なる物質といえる。結晶には繰り返し同じパターンがあるが、パターンは全方向にではなく、特定の方向にだけ形成されることは、形成を支配している物理学の法則が全方向に働くことを考えると、本当に信じられないことだ。
物理学の法則が空間的に対称的なのに、結晶が対称的でない「対称性の破れ」は、系にエネルギーを加えるのではなく、奪うことで起きる。実際、結晶は系のエネルギーが最低の状態である。
一方で、物理学の法則は、空間的にだけ対称ではなく、時間的にも対称性がある。であれば、空間と同様、時間的な対称性も破れるかという興味深い疑問がわいてくる。言い換えれば、時間の結晶は作れるか、という疑問だ。
10月4日、メリーランド大学(ワシントンD.C.カレッジパーク)のクリス・モンロー教授の研究チームのおかげで答えが得られた。研究チームは、初めて時間結晶を作ったのだ。
時間結晶を作る基本的なプロセスは単純だ。リング状に配置されたイオン群のような量子系を作成し、エネルギー状態が最低になるまで冷却する。物理学の法則によれば、この状態のリングは完全に静止するはずだ。
しかし、時間の対称性が破られれば、その後リングは、時間的な周期で成長する。言い換えれば、空間内の結晶が特定の方向にパターンを繰り返しながら成長するように、時間内でパターンを繰り返して成長することで、リングが回転して見えるはずなのだ。もちろん「回転」からエネルギーを取り出すことは、エネルギー保存に反するので絶対にできない。だが、一時的に対称性を破れば、空間的な対称性の破れが空間でパターンを繰り返す結晶構造として現れるのと全く同様に、時間的な繰り返しの動きとして現れるはずなのだ。
しかし、理論上はそうであっても、現実の世界はそう単純ではない。最大の問題は、量子の世界は時間依存の変数で支配されていないから、時間の対称性は、量子スケールでは破られないことだ。そのため、普通の状況では、イオンのリングのエネルギー状態に最低まで冷却しても、静止したままだ。
しかし、量子系が時間をかけて成長する状況がある。研究チームは、平衡状態にない量子系に着目した。研究チームの量子系は、相互作用するスピンを持つイッテルビウム(原子番号70の元素)のイオンの列だ。
相互作用は、特別な種類の行動につながる。量子粒子の奇妙な特徴のひとつは、通常、特定の場所に存在しないことだ。その代わりに、空間中に塗りつけられていて、確率の法則で、どこにでも現れる可能性がある。
しかし、ある状況下では、これが変わることもある。たとえば、物質内部の1つの電子が、それ自身を妨害し、単一の場所に表示されるように強制できる。この現象を1950年代に予測した物理学者の名前をとってアンダーソン局在として知られている。
最近では、物理学者が、量子粒子すべてが局在化されるような方法で相互作用する量子粒子のグループを調査した。このいわゆる多体局在は、量子粒子を平衡から外れた状態に維持する微妙な状態だ。言い換えれば、局在化を強制しているのだ。そして、それが、まさに、このイッテルビウムイオンのチェーンが行動する様子だ。
これらのイオンの重要な特性のひとつは、レーザーで上下反転できる磁化またはスピンを持っていることだ。1つのイオンのスピンを反転すると、次のイオンが反転し、また次へと反転が続いていく。これらのスピンの相互作用は、その後、レーザーが元のスピンを反転する頻度に依存した速度で振動する。言い換えれば、運転頻度が振動の速度を決定するのだ。
しかし、研究チームがこの状態を測定した時、別の効果を発見した。研究チームは、この系を進化させると、相互作用が元の期間の2倍の割合で発生することを発見した。その期間には、運転力がないため、唯一可能な説明は、時間対称性が破られることで、より長い期間になったことだ。言い換えれば、研究チームは、時間の結晶を作ったのだ。
研究チームは、さらに、これらの結晶の特性を測定した。たとえば、運転頻度を変えても、時間の結晶の頻度は変わらないことを発見した。「これは、個々の時間結晶の「剛性」を表している」と研究チームはいう。
そして、研究チームは、他の摂動が、最終的に時間の結晶を破壊することを発見した。「摂動が大きすぎると、結晶は溶融します」と研究チームはいう。
この研究は、難解であるがゆえに、興味深い。この研究は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のノーベル賞受賞物理学者であるフランク・ウィルチェック教授とケンタッキー大学のアル・サーパー教授が2012年に 予想したように、時間結晶が実際に存在することを示しているのだ。
用途としては、研究チームがいくつかの提案をしている。たとえば、時間結晶を使って、強力な量子メモリーを実現するような、量子情報タスクを実現できると研究チームはいう。
しかし、多体局在化の特殊な特質と、多体局在化がまだよく理解されていない事実のため、他の物理学者は、慎重にこの効果の性質を検討したうえでなければ、それが本当に時間結晶の存在を示していることを確信しないだろう。
だから、まだまだ特殊な研究が続くだろう。
参照:http://arxiv.org/abs/1609.08684 : 離散時間結晶の観察
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