あなたはいつ死ぬのか?
その答えを告げる技術が
完成に近づきつつある
自分がいつ死ぬのか?という、究極の問いに対する答えを得るための研究が進んでいる。カリフォルニア大学のホバース教授は、個人のエピジェネティックスの変化を調べることで、老化の進む速度が標準よりも速いか遅いかが分かり、寿命を予測できることを明らかにした。すでに一部の保険会社はリスクアセスメントへの活用を検討し始めており、「死の予測」は現実になりつつある。 by Karen Weintraub2018.10.24
自分がいつ死ぬのかという疑問は、誰もが直面する、答えのない究極の問いである。もしその答えが分かれば、違う生き方をするのだろうか。これまでに科学が予測できる寿命は、安っぽい占いと同じ程度の正確さしかなかった。しかし、この事態が変化し始めている。
人の寿命を予測するために開発された方法を用いて、十分に正確な死亡日時を予測できるようになることは決してないだろう。しかし、保険会社はすでにこうした方法が有用だと判断しており、病院や緩和ケアを提供する人々も注目している。「自分がいつ死ぬのか、とても知りたいと思います。それによって人生に対する考え方が変わってくるでしょう」と、保険産業にサービスを提供しているライフ・エピジェネティクス(Life Epigenetics)の最高科学責任者(CSO)であり、研究者でもあるブライアン・チェン博士はいう。
寿命を予測する研究を実用化するには、まだまだ努力が必要であり、企業もこのデータを最適に使用する方法を考えださなければならない。その一方で倫理学者は、人々が自分の人生における最終的な秘密にどう対処するかを懸念している。しかし、好むと好まざるとに関わらず、死の予測は可能になりつつある。
特別な時計
ドイツのフランクフルト育ちで、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の生物統計学者であるスティーブ・ホバース教授は「正真正銘の異性愛者」であるが、一卵性双生児の兄弟は同性愛者だ。数年前、ある同僚から、反対の性的指向を持つ双生児の唾液から得た生物学的データを分析するのを手伝ってくれるよう頼まれたとき、研究に個人的な興味を持った。同僚は、特定の遺伝子がオンになっているかオフになっているかを示す化学変化を検出しようとしていたのだ。
この場合の仮説は、DNAの配列そのものではなく、DNAの活性化を変化させる、いわゆるエピジェネティックスの変化が、同じ遺伝子を持つ2人が違った性的指向を持つ理由を説明するのに役立つ可能性があるのではないかというものだった。エピジェネティックスとは、DNA塩基配列の変化を伴わない、細胞分裂後も継承される遺伝子発現のことである。しかし、ホバース教授は、双子の唾液のエピジェネティクスで、そうした兆候をまったく発見できなかった。その代わりに同教授が注目したのは、エピジェネティックスの変化と老化との間の強い関連性だ。「このシグナルの強さには、本当に驚きました。それで、自分の研究室にあった他のプロジェクトをほとんど中断して、この研究に将来をかけようと思ったのです」。
ホバース教授が特に興味を持ったのは、4つのDNA塩基の1つであり、遺伝子コードの「文字」の1つであるシトシンに対する特定の化学変化が、遺伝子を活性化したり、不活性化したりする作用だった。ある人の実際の年齢を考慮して、その人のDNAでの変化を見れば、その人の体が老化している速度が、標準よりも速いか遅いかを知ることができる。ホバース教授のチームは、死亡した日がすでに分かっている人々から数十年前に収集された1万3000の血液サンプルを使い、このエピジェネティックスに基づく「時計」をテストした。その結果から明らかになったのは、この時計を死亡の予測に使用できるということだ。
がん、心臓病、アルツハイマー病といった一般的な疾患のほとんどは老化が要因となる。そのため、ホバース教授の開発したエピジェネティクスに基づく時計により、(誰がどの疾患にかかるかは予測できないが)誰がどれくらい長く生きるか、そして人生においてどれぐらいの期間こういった疾患を患わないでいられるかを予測できる。「5年間にわたる研究の結果、エピジェネティクスによる寿命の予測に異議を唱える人は誰もいませんでした」とホバース教授は語る。
ホバース教授によると、実年齢より8歳以上老化している場合には、死亡リスクが標準の2倍になり、7歳以上若い場合には死亡リスクが半分になるという。同教授の研究室では、このように正確 …
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