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How Data Mining Is Revolutionizing Our Understanding of Human Weight Change

「太った人は太りやすくない」とデータマイニングで判明

データマイニングによって、人間の体重変化に関する理解が深まった。 by Emerging Technology from the arXiv2016.10.17

肥満は現代社会における災禍だ。私たちのウエストラインが大きくなる理由はいくつもあるが、中でも影響が大きいのは、エネルギー密度の高い食品が簡単に入手できること、仕事も生活も座ったままでいることが多いことが大いに関係している。

遺伝、腸内環境、人間関係も原因になるし、太めの人はどんどん体重を増やすサイクルに陥りやすいとする「暴走列車」説もある。

このように、先進国には、体重増加を避けられない非常に危険な状態にある印象を持ちやすい。しかし、本当にそうだろうか?

10月14日、ウォータールー大学(カナダ)のジョン・ラング研究員のチームにより、答えが見つかった。研究チームは、1997年から2014年までのシカゴ地域75万人の患者の匿名医療記録を分析し、 驚くべき事実を発見した。

分析対象になったのは、相対的体重の一般的な基準と考えられているBMI(身長を二乗した数で体重を割って算出する)のデータだ。BMIでは、18.5未満の人は痩せすぎ、18.5〜25は標準体重、25〜30は太りすぎ、30以上は肥満に分類する。

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高所得の社会では、BMI分布は太りすぎや肥満に偏っている。従来の研究では、この傾向は人口動態や社会経済学的要因に関係なく、同様の傾向が収入や学歴、年齢、性別などのグループに共通して見られると考えてきた。では、他のどんな要因で、太めの人とやせている人がいるのだろうか?

研究チームは、常識に反するパターンを発見した。データによれば、高所得な社会だからといって、全員が同じような太りやすい状態にはない。確かに、平均すれば、全人口のBMIは時間がたつにつれ増加し、痩せすぎの人も実際にはBMIが増加する傾向にある。しかし、太りすぎや肥満の人のBMIは低下する傾向にあるのだ。

「約1年間という短い期間で見ると、BMIのどの区分でも、個々のBMIは平均的には分布の中心に向かってゆっくりと移動しているのです」(太めの人の体重は減り、やせている人の体重は増える)

体重の変化にはもうひとつ重要な要素が働いている。体重は増えたり減ったりするが、変動幅はBMIの値に比例するのだ。つまり、太めの人は、軽い人より体重が増えたり減ったりしやすいことがわかった。

この発見は、BMIの分布が高い側に偏っていることに「暴走列車」説とは異なる説明を導く。病気やダイエットなどによらない体重の自然な変動は軽い人よりも重い人に対する影響が大きいため、BMIの分布を分散させる。「人々の体重は(増加でも減少でも)振幅幅の変動幅に体重の影響があり、そのせいでBMIの低い側よりも高い側に分布を広げて」おり、そのせいでBMIの分布は高い側に偏っているのだ。

この研究は、人間の体重変化をモデル化する新しい方法も示している。「我々の研究結果により、人間の体重変化のための統計力学的構造が確立します」と研究チームはいう。

研究チームは、物理学や経済学で一般的な、移行と拡散のプロセスを説明する統計力学とまったく同じ方法で、体重に関するデータもモデル化できることを示している。たとえば、物理学者はブラウン運動を説明するために移行と拡散のモデルを使っている。

「我々の実証結果とモデルは、人間集団のBMI分布のダイナミクスにおける移行と拡散のメカニズムの役割に関する新しい基本的な理解を提供しています」と研究チームは結論付けた。

この結論には重要な意味がある。まず、体重増加の「暴走列車」理論を否定している。「まず、BMIの高い人がますます体重を増やすサイクルに陥る「暴走列車」のメカニズムによる特異な効果を検討する必要はありません」と研究チームはいう。

さらに、この結論は、公衆衛生政策にも関係がある。たとえば、太っている人に限らず、社会全体を対象にした健康への働きかけを正当化できる。公共政策は、体重の変動幅を減らすことを目的にすべきなのだ。「我々の結果により、ヨーヨーダイエット(ダイエットの手法ではなく、急激な体重減とリバウンドを交互に繰り返すうちに健康を損ねてしまう体調管理のこと)のような衝動的な体重変動を低減することが、公共政策の焦点であるべきだと確認できます」と研究チームはいう。

これで何が正しいのかわかっただろう!

参照: arxiv.org/abs/1610.00656 :人間の体重変化に関する統計力学

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