KADOKAWA Technology Review
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What We’re Doing Wrong in the Search for Better Batteries

出力が安定しない風力、太陽光発電を、どうすれば安定供給できるのか?

環境に無害な送電網を支えるための安価で拡張可能な電池を世界は求めている。しかし、大きな障害が行く手を阻んでいる。 by Jamie Condliffe2016.10.20

世界が化石燃料から脱却しようとしているのなら、風力や太陽光のような断続的な電力源の問題を解決するために、大容量の電池が大量に必要だ。しかし、マサチューセッツ工科大学(MIT)のドン・サドウェイ教授によれば、安価な送電網に接続できる規模(グリッド・スケール)の蓄電機能の構築に必要なテクノロジーは開発できていない。

グリッド電池関連のスタートアップ企業であるアンブリ(Ambri)の共同創業者でもあるサドウェイ教授は、この問題の解決策を模索している。アンブリのテクノロジーはアルミニウム製錬所から着想を得ており、2種類の液体金属を電極として扱い、電解質塩で電池を形成する。しかし、この手法を用いるのはアンブリだけではない。Eosエナジー・ストレージアクイオン(Aquion)サン・カタリティクス(Sun Catalytix)など、他のスタートアップ企業も全て似たような電池を製造しようとしている。

こうしたスタートアップ企業は、豊富な資源を用いて安価な電力ストレージを作り出すという共通の野心を抱いている。「ゴミのように安いものを作ろうとしたら、ゴミから作るしかありません。希少な元素を電池のテクノロジーに利用しても電池を大量に作り出せません」と、水曜日に開催されたEmTech MIT 2016の講演でサドウェイ教授は冗談交じりに話した。

Don Sadoway speaks at EmTech MIT 2016.
EmTech MIT 2016で講演するドン・サドウェイ教授

格安の電池は、こうしたスタートアップ企業が確かに目指すべきものだ。現在、約99%の送電網に接続された蓄電機能(グリッド・スケール・ストレージ)は「揚水発電」の形を取っている。揚水発電所では、水を高い場所に汲み上げて電気エネルギーを位置エネルギーに変換し、電力需要が多い時に汲み上げた水を流して発電機を回す。この方法は、グリッド・スケール電池と比べて、キロワット当たりのコストがはるかに安い蓄電方式であり、コスト面で競争できない限り、グリッド・スケール電池が広く採用されることはないだろう。

しかし、この目標への進捗は遅々としている。したがって、スタートアップ企業がすべきことは、ありふれた元素を使って新しい種類の電気化学を発明することでは断じてない。そうでなく、手頃で、いつでも利用できる製品を作り出すべきだ。ただ、この製品を作り出すために立ちふさがる多くの障害は、完成までの期間を長引かせるおそれがある。

資金は助けになるだろう。しかし、米国政府がエネルギー研究に年間50億ドルを費やしているにもかかわらず、サドウェイ教授によると、グリッド電池を可能にする研究に費やされている資金は不十分だという。「現在、電池テクノロジーに対する財政支援はリチウムイオン電池の性能を徐々に向上させるために使われています。成功すれば大きな影響を与える斬新なアイデアを期待しているのだと、我々は勇気を持って言わなければなりません」と、サドウェイ教授は述べた。

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クレジット Photograph by Justin Saglio
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
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