KADOKAWA Technology Review
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テクノロジーが解決すべき「世界の10大課題」
Illustrations by Tomi Um
Ten big global challenges technology could solve

テクノロジーが解決すべき「世界の10大課題」

現在私たちが直面しているいくつかの深刻な課題は、テクノロジーのブレークスルーで解決できるかもしれない。実現には困難を伴うが、どれも解決が求められる重大な課題だ。 by MIT Technology Review Editors2019.03.27

 

炭素隔離
急激な地球温暖化を防止するには、温室効果ガス排出量を削減するだけでは不十分だ。大気から膨大な量の二酸化炭素を除去する必要もある。とはいえ、二酸化炭素除去には莫大なコストがかかるだけでなく、さらには除去したCO2をどうするかという頭の痛い問題が発生する。そこで、二酸化炭素をリサイクルして製品にする方法を探求しているスタートアップ企業が増加している。たとえば、合成燃料やポリマー、カーボン・ファイバー(炭素繊維)、コンクリートなどへのリサイクルだ。こうした動きは前途有望だが、真に求められているのは、大気から回収する必要があるであろう数十億トンの二酸化炭素を、永久的に貯留する安上がりな方法だ。

 

送電網規模のエネルギー貯蔵装置
風力や太陽光などを利用した再生可能エネルギーのコストは安くなり、普及しつつある。しかし、太陽が照っていない時間や風が吹いていない時間には発電できない。このことが、再生可能エネルギーが供給できる電力量を制限し、石炭や天然ガスなどによる安定した電力供給源からの速やかな移行を阻んでいる。再生可能エネルギーによる発電が途絶えたときに、数日に渡って送電網全体を支えるのに十分な電池を作るのには桁外れのコストがかかる。さまざまな科学者やスタートアップ企業が、低コストでより長期間電力を貯蔵できる送電網規模のエネルギー貯蔵装置の開発に取り組んでいる。フロー電池や溶融塩を利用したタンクなど多様な形態が研究されているが、どのような方法にせよ、大量の電力を低コストで効率的に貯蔵する手段が切に求められている。

 

インフルエンザの万能ワクチン
インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)は滅多に発生しないが、発生すれば膨大な数の死者が出る。1918年のH1N1型インフルエンザの世界的大流行(スペインかぜ)では、5000万人以上の死者が出た。最近では、1957〜58年(アジアかぜ)と1968年(香港かぜ)の世界的大流行で約100万人の死者が出た。さらに、2009年にはH1N1型が再び流行して約50万人の死者が出た(2009年新型インフルエンザ)。最近の流行を引き起こしたウイルスは毒性が弱めの型だったこともあり、死亡者数は少なかった。しかし、次回はそうはいかないかもしれない。強毒性の型のインフルエンザウイルスの感染が急速に広まって、ウイルスに対応したワクチンの生産が追いつかないかもしれない。比較的低毒性の種類のウイルスだけでなく、100年に一度の壊滅的なアウトブレイクにも対応できるユニバーサル・インフルエンザワクチンの開発は、公衆衛生が直面する重大課題だ。

 

認知症の治療
米国では65歳以上の10人に1人以上がアルツハイマー病を患っている。85歳以上では3分のだ。人々の寿命が延びるにつれて、米国や世界各国でアルツハイマー病の患者数が急増する可能性が高い。アルツハイマー病については、ほとんど解明されていない。診断を確定できるのは死亡後に限られ、その時点でさえ、医師の間でアルツハイマー病とその他の型の認知症との違いに意見の食い違いがある。しかし、神経科学と遺伝学の進歩で、解明が少しずつ進みつつある。こうした知識により、深刻な症状の進行を遅らせたり、止めたりする手段を解明するための手がかりが得られつつある。

 

海洋の浄化
世界中の海洋には、「マイクロプラスチック」と呼ばれる微細なプラスチック粒子が数十億個も浮遊している。マイクロプラスチックは、捨てられたポリ袋やストローが長い年月の間に分解したものだ。この廃棄物が、鳥や魚、そして人間を害を及ぼしている。研究者たちはマイクロプラスチックによる汚染が、人間の健康と環境の両方に対して深刻な影響をもたらし、数十年間に渡って蓄積された数億トンのプラスチックを浄化するのに数世紀かかるかもしれないと懸念している。マイクロプラスチックによる汚染は広く拡散しているので、浄化が困難だ。大量の海洋ゴミベルトを浄化するためのプロトタイプ的な手法は存在するものの、海岸や海、水路に対する解決策はまだない。

 

エネルギー効率の良い淡水化
地球上には淡水の約50倍の量の海水がある。世界人口が増加し、気候変動の影響で干ばつが深刻化する中、淡水のニーズは急増していくだろう。イスラエルは世界最大の逆浸透膜方式の海水淡水化施設を建設し、国内家庭用水の水源の大半に海水を使うようになっている。しかし、逆浸透膜方式は大量のエネルギーを消費するので、世界的に実用化するのは難しい。新しいタイプの膜が必要になるかもしれない。また、電気化学を使った手法で、汽水を利用した灌漑が可能になるかもしれない。気候変動に適応するためのテクノロジーに限って言えば、海水から飲料水を作ることが最重要課題だろう。

 

安全な無人乗用車
これまで実施されてきた自律自動車の公道上での試験走行は、数百万キロメートルに達する。米アリゾナ州フェニックス郊外などの各地で、宅配サービスやタクシーサービスのパイロットプログラムが進行中だ。しかし、無人乗用車は依然として、公道で広く一般利用できる状態ではない。混雑した道路状況や雪や霧などの悪天候状況での運転に問題がある。無人乗用車の安全性が信頼できるレベルになれば、卸売業者は物資輸送を考え直すことができるだろう。交通渋滞はなくなり、駐車場が再開発されることで、都市が変容する可能性がある。何よりも、自動運転車が広く普及すれば、交通事故による年間125万人の死者数を大幅に減らせると期待されている。

 

身体を持つ人工知能(AI)
ボストン・ダイナミクスのヒト型ロボット「アトラス(Atlas)」の映像が昨年、インターネットで話題となった。映像ではロボットが特殊部隊員のように階段を飛び登る姿が映し出された。この映像が発表されたのは、「アルファ碁(AlphaGo)」が囲碁世界チャンピオンを打ち負かしたわずか2年後のことだ。アトラスは囲碁を打つことができない(身体はあるが、知能は低い)が、アルファ碁は走れない(知能は高いが、身体がない)。それでは、アルファ碁の知能とアトラスの身体を組み合わせたらどうなるだろうか? 多くの研究者によると、真の汎用人工知能を実現できるかどうかはおそらく、物理的な世界の現実の事柄に内部計算処理を関連付けられるかどうかにかかっている。その場合、AIは人間や動物と同様、物理世界と相互作用する方法を学習することで、能力を習得することになるだろう。

 

ハリケーンは数日前、時には数週間前に予測できるが、地震は突然発生する。信頼できる地震予測ができれば、数百万人の命を救うことが可能だ。

地震の予測
2010年のハイチ地震では10万人以上の死者が出た。記録史上最大級の地震となった2004年のスマトラ島沖地震が引き起こしたインド洋津波では、インドネシアとスリランカ、インド、その他の周辺地域で合わせて25万人近くが犠牲になった。ハリケーンは数日前、時には数週間前に予測できるが、地震は突然発生する。中期的に信頼できる地震予測ができれば、持続的な解決策となる計画を立てられるだろう。少なくとも数時間前に警告が出せれば、人々は危険なエリアから避難でき、数百万人の命を救えるかもしれない。

 

脳の暗号解読
神経科学者にとって、人間の脳は依然として大きな謎に包まれている。人間のあらゆる思考と記憶、さらに、あらゆる行動は、人間の脳の数十億の神経細胞にコード化されているはずだ。しかし、どんなコードなのか? 人間の脳における思考の格納方法と伝達方法には未解明な点が数多く残っている。脳のコードを解読すれば、統合失調症や自閉症などの精神疾患の治療法のブレークスルーにつながるだろう。人間が脳からコンピューター、あるいは他人と直接コミュニケーションを取れるダイレクト・インターフェイスも改良できるかもしれない。これは負傷や変性疾患で麻痺状態の人々にとって人生を変える進歩となるだろう。

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MIT Technology Review編集部 [MIT Technology Review Editors]米国版 編集部
現在編集中です。
宇宙ビジネスの時代

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